稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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秘密の会合

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翌日、さっそく蒼音は二人に連絡をして、公園で落ち合うこととなった。

西日が眩しい夕方の公園で、三人と茜音は秘密の会議を執り行うことにした。


「おーいこっちだよ桜井さん、菅沼君ここだよ」

蒼音は茜音を連れて、土管型の遊具の中で待っていた。

「話があるって言うから来てみたら、こんなところで秘密の会合かよ」
涼介は背をかがめ土管の中に入った。

「あ、ごめんね。
菅沼君は身長が少し高いから窮屈だったね。

でもそうなんだ、秘密の相談をしたくて、今日はわざわざ来てもらってごめんね。
実は、あまり人目につきたくなかったから」

さも意味深に蒼音が語り始めるものだから、涼介は身を乗り出した。

「何?秘密って?」

「茜音ちゃんの記憶が戻りかけてるんだって、それで相談があるって、電話では聞いたけど・・・」


『・・・うん、そうなのすこち思い立ちたの・・・・』

「そうなの?茜音ちゃん、園田君!?」

琴音は固唾を飲んで、蒼音の次の言葉を待った。

「そう、簡潔に説明するね。

僕のおばあちゃん、こと時バアの所で撮った家族写真に、この茜音が写りこんでいたことはみんな知ってるよね?」

「うん、知ってるぞ、俺しっかりみたもん」

「そうよね、あれは確かに茜音ちゃんだったわ」

『えへ・・・うん、あたちだよ』

狭い土管の中で彼等は身を寄せ合った。

「そのことで・・・
やっぱり茜音は、時バアのところに想い出があるのかもしれない。

だから茜音を時バアの家に連れていけば、それがきっかけになって生前の記憶が取り戻せるんじゃないかって、そう考えたんだ。

どう思う?
僕の考えって安直かな?

ううん、そうじゃない。
もう僕の気持ちは決まっている。
僕は茜音を連れて行くことに決めた。

お母さんには内緒だけど、時バアはもう賛成してくれた。

今日はその相談じゃないんだ。
どうやって行くのが一番いい方法か、みんなの意見を聞きたくて集まってもらったんだ」

蒼音の真剣な気持ちは、二人にもすぐに通じた。
だから二人とも、そのことに関しては異論を唱えなかった。

「そうか、そうだな。
それが一番いいよな。

だったら、後は、どうやって行くか・・・
が問題だよな」

神妙に腕組をして、涼介は一緒に考えてくれた。

「大人が一緒じゃないってなると・・・・
お金の問題もあるよな」

「僕、お小遣いやお年玉を貯金したのが少しあるよ。
だから、飛行機は無理だけど、汽車なら行けるよね」

「そうね、汽車なら多分、子供だけで切符を買えるわね」
琴音も一生懸命に考えてくれた。



しばらく頭を悩ませていた三人だが、涼介に何か妙案があるらしい。

「なあ園田君、今日明日に行くわけじゃないだろう?」

「うん・・
まあできれば夏休み中がいいかな。
学校をずる休みするのはさすがにちょっと。

だとすると、来週には決行したいな」

「わかった、じゃあ俺に任せて!
数日くれたら、最高のプランを立ててやるよ!

俺こういうの得意なんだ。
後でおばあちゃんの住所教えて」

涼介は自信満々に宣言してくれた。
その表情には、とっても頼り甲斐があって信頼が持てた。
だから蒼音には何も異存はなかった。

「わかったよ、プランは菅沼君に任せるよ。
なるべく安くでお願いするよ」

「涼介、何かとっておきの秘策があるのね?
ふうん意外だな、どんな計画だろう」

琴音も涼介を信頼して、おすすめの行程作りを任せることに賛成した。


「じゃあさ、段取りが決まったら、一度連絡するよ。
園田君、またここで集まろう」

とんとん拍子に話がまとまり、三人はとりあえず今日のところは解散した。

また後日ここで落ち合う約束をして、秘密を胸に抱えたまま、それぞれ帰宅の途についた。



三人は何故かワクワクしていた。

非日常が自分達を待っているような、そんな心が沸き立つ期待感を抱いていた。

茜音の記憶が戻ったら・・・・
それは今考えまい。

だって、これは茜音の為になることなのだから。

真実はまだ見えてこなかった。
それが余計に、蒼音の探求心を煽っていた。

涼介からの連絡を待つ数日、蒼音は夏休みの宿題を終わらせ、自由研究に取り掛かっていた。

いつ出発してもいいように、新学期の準備はぬかりなかった。
四年生の自由研究は、それこそ本当に自由だった。工作でも絵でも読書感想文でもなんでも。

蒼音は夏の思い出を絵に描くことにした。

何故そうしたかといえば、茜音を描きたかったからだ。
茜音は鏡にも写真にもうつらないのだ。

幽霊だから。といえばそれまでだが、時バアと家族で撮った、あの写真には写っていたのに(勿論、それが視えるのは三人だけだが)何度撮ってもプリントアウトされなかった。

あの写真は特別なのだ。

生まれ故郷を去る日、とっておきの願いをこめて茜音は写真に姿を焼きつけようとした。

しかしあの写真とて、いつまで茜音の姿が写っているのか疑問であった。
だから、せめて絵に描いておこうと思った。

夏の思い出を何枚も絵日記として残そうと考えた。
茜音と過ごした今夏のひとコマの様子を、一生懸命画用紙の上に色鉛筆を走らせた。


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