46 / 64
starting
冒険へ
しおりを挟む
そうと決心すれば、こんなところでぐずぐず燻っている暇などなかった。
蒼音は大急ぎで自転車に乗って帰宅した。
家に入ると、いの一番に受話器をとって時バアに電話した。
この時間帯なら家にいるかもしれない。
日中は暑いから、畑に出ていることもないだろう。
蒼音は祈るような気持ちでベルを鳴らした。
間を置かずして時バアは電話に出てくれた。
はやる気持ちを出来るだけ抑えて、呼吸を整えながら時バアに挨拶をした。
「あ、時バア、僕だよ。
蒼音だよ。
今昼寝していた?
そっちは暑い?
そうだよね、暑いよね。
あのね・・・
今日は真面目な話があるんだ。
笑わないで聞いてくれる?
僕の話を真面目に聞いてくれる?」
可愛い孫が何やら思いつめた様子で電話をかけてきた。
時バアはそれにきちんと対応してくれた。
「うんええよ、何があったん?
驚かへんから話してごらん?
今まで蒼音の言うことに、時バアがケチつけたことあるか?
ないやろう?
それで、今日はどないしたんや?」
蒼音はもう一度ゆっくり息を吐き、話の核心を打ち明け始めた。
「あのね、前に時バアに言ったろう?
僕がどうして一人っ子なのか、って変なこと聞いたろう?」
「うん、そうやったね」
「そう、あれにはわけがあるんだ。
時バアはお婆ちゃんだから、今更もう大抵のことには驚かないと思うんだけど・・・・
でも驚かないでね。
あのね・・・
僕ちょっと前から、幽霊にとり憑かれているんだ」
「へえ!
幽霊にな、そらおもしろいな」
「うん、まあね」
時バアの反応が大袈裟なものでなかったので、蒼音は安心して話を進めることができた。
「それがね、これがまた可愛くて害のない幽霊なんだ。
だから、僕が面倒を看て、茜音って名前もつけてあげたんだよ。
茜色のあかねに、僕と同じ”音”をつけて、あかね、って読ませるんだ。
今も僕の隣で小町と遊んでるよ」
「へえ・・・・・
どないな理由で名前を茜音にしたんや?」
「うーんなんとなく茜音って感じだったから。
それに、本人も茜色が好きなんだって。
そうそれから、茜音には記憶がないんだ。
だから僕なんかにとり憑いていて、いつまでたっても成仏できないと思うんだ。
あ、僕の友達二人にも茜音は視えるんだよ。
もうみんな友達同士だよ。
けど、お母さんや他の人には視えないんだ。
それで今日は相談があって・・・
その、唐突だけど・・・
茜音と一緒に時バアの家に行ってもいい?
これはお母さんには内緒のことだよ。
どうもね、茜音の故郷は、時バアの住む地域らしいってことまではわかったけど。
そこから先が不明なんだよ。
だから、茜音を故郷に還してあげれば、記憶が戻るかもしれない。
そう考えたんだ。
だって、お母さんはこんな話信じてくれないだろう?
僕、間違ってるかな?」
「うーん、そうやな、でも時バアのところに来るのはいいけど、どうやって来るつもりなんや?」
「そうだな・・・・
具体的には考えてないけど、友達に相談してみる。
僕、茜音のおかげで、相談にのってくれる友達も出来たんだ。
だから僕達だけで茜音のこと解決してあげたい。
だって茜音は僕の家族みたいなものだもん。
このままほっておくことなんかできないよ」
と、ここまでは孫のとんでもない話を、一笑するでもなく聞いてくれた時バアだった。
「蒼音・・・・
よく聞きなさい。
時バアも真面目な話をするで。
こっちに来るのはかまへんよ。
でも、黙って来たらあかん」
何かを覚悟するように、時バアは、蒼音の無謀な計画に賛同してくれたのだ。
「もう蒼音も来月は十歳になるんやからな、時バアはあんたの考えと行動を信じるよ。
そやかて、たとえお母さんに内緒のことでも、せめて、何処へ行くのかきちんと手紙をおいてきなさい。
それから、きちんとお金を払って汽車に乗って来なさい。
後で時バアが交通費あげるから心配せんでもええよ。
それを守れるのなら、時バアは、蒼音も茜音も幽霊でもなんでも大歓迎や。
いつでも待ってるよ。
気いつけておいで」
「うん!
ありがとう時バア!
僕ちゃんとできるよ。
非常識なことはしない、人に迷惑もかけない。
計画を立てたらまた連絡する。
だから待っていて、茜音のことも、たくさん時バアに話したいんだ!」
蒼音は了解を取り付けることが出来て、ご満悦で受話器をおいた。
やっぱり時バアに相談してよかった。
話のわかる祖母をもって本当によかった。
自分の判断は間違っていないのだ、と強く自信をもつことができた。
『蒼音、時バアのところ行くのか?』
なんとなく会話の一部始終を聞いていた茜音は、不安と期待に満ちた表情で聞いた。
「そうだよ、茜音の記憶を取り返すために僕達行くんだよ」
冒険でも行くかのように、蒼音は俄然張り切っていた。
『あたちの記憶・・・
あたちも知りたい』
「だろう?
だから桜井さんと菅沼君にも相談してみるよ。
どんな方法で行けるかをね」
蒼音は大急ぎで自転車に乗って帰宅した。
家に入ると、いの一番に受話器をとって時バアに電話した。
この時間帯なら家にいるかもしれない。
日中は暑いから、畑に出ていることもないだろう。
蒼音は祈るような気持ちでベルを鳴らした。
間を置かずして時バアは電話に出てくれた。
はやる気持ちを出来るだけ抑えて、呼吸を整えながら時バアに挨拶をした。
「あ、時バア、僕だよ。
蒼音だよ。
今昼寝していた?
そっちは暑い?
そうだよね、暑いよね。
あのね・・・
今日は真面目な話があるんだ。
笑わないで聞いてくれる?
僕の話を真面目に聞いてくれる?」
可愛い孫が何やら思いつめた様子で電話をかけてきた。
時バアはそれにきちんと対応してくれた。
「うんええよ、何があったん?
驚かへんから話してごらん?
今まで蒼音の言うことに、時バアがケチつけたことあるか?
ないやろう?
それで、今日はどないしたんや?」
蒼音はもう一度ゆっくり息を吐き、話の核心を打ち明け始めた。
「あのね、前に時バアに言ったろう?
僕がどうして一人っ子なのか、って変なこと聞いたろう?」
「うん、そうやったね」
「そう、あれにはわけがあるんだ。
時バアはお婆ちゃんだから、今更もう大抵のことには驚かないと思うんだけど・・・・
でも驚かないでね。
あのね・・・
僕ちょっと前から、幽霊にとり憑かれているんだ」
「へえ!
幽霊にな、そらおもしろいな」
「うん、まあね」
時バアの反応が大袈裟なものでなかったので、蒼音は安心して話を進めることができた。
「それがね、これがまた可愛くて害のない幽霊なんだ。
だから、僕が面倒を看て、茜音って名前もつけてあげたんだよ。
茜色のあかねに、僕と同じ”音”をつけて、あかね、って読ませるんだ。
今も僕の隣で小町と遊んでるよ」
「へえ・・・・・
どないな理由で名前を茜音にしたんや?」
「うーんなんとなく茜音って感じだったから。
それに、本人も茜色が好きなんだって。
そうそれから、茜音には記憶がないんだ。
だから僕なんかにとり憑いていて、いつまでたっても成仏できないと思うんだ。
あ、僕の友達二人にも茜音は視えるんだよ。
もうみんな友達同士だよ。
けど、お母さんや他の人には視えないんだ。
それで今日は相談があって・・・
その、唐突だけど・・・
茜音と一緒に時バアの家に行ってもいい?
これはお母さんには内緒のことだよ。
どうもね、茜音の故郷は、時バアの住む地域らしいってことまではわかったけど。
そこから先が不明なんだよ。
だから、茜音を故郷に還してあげれば、記憶が戻るかもしれない。
そう考えたんだ。
だって、お母さんはこんな話信じてくれないだろう?
僕、間違ってるかな?」
「うーん、そうやな、でも時バアのところに来るのはいいけど、どうやって来るつもりなんや?」
「そうだな・・・・
具体的には考えてないけど、友達に相談してみる。
僕、茜音のおかげで、相談にのってくれる友達も出来たんだ。
だから僕達だけで茜音のこと解決してあげたい。
だって茜音は僕の家族みたいなものだもん。
このままほっておくことなんかできないよ」
と、ここまでは孫のとんでもない話を、一笑するでもなく聞いてくれた時バアだった。
「蒼音・・・・
よく聞きなさい。
時バアも真面目な話をするで。
こっちに来るのはかまへんよ。
でも、黙って来たらあかん」
何かを覚悟するように、時バアは、蒼音の無謀な計画に賛同してくれたのだ。
「もう蒼音も来月は十歳になるんやからな、時バアはあんたの考えと行動を信じるよ。
そやかて、たとえお母さんに内緒のことでも、せめて、何処へ行くのかきちんと手紙をおいてきなさい。
それから、きちんとお金を払って汽車に乗って来なさい。
後で時バアが交通費あげるから心配せんでもええよ。
それを守れるのなら、時バアは、蒼音も茜音も幽霊でもなんでも大歓迎や。
いつでも待ってるよ。
気いつけておいで」
「うん!
ありがとう時バア!
僕ちゃんとできるよ。
非常識なことはしない、人に迷惑もかけない。
計画を立てたらまた連絡する。
だから待っていて、茜音のことも、たくさん時バアに話したいんだ!」
蒼音は了解を取り付けることが出来て、ご満悦で受話器をおいた。
やっぱり時バアに相談してよかった。
話のわかる祖母をもって本当によかった。
自分の判断は間違っていないのだ、と強く自信をもつことができた。
『蒼音、時バアのところ行くのか?』
なんとなく会話の一部始終を聞いていた茜音は、不安と期待に満ちた表情で聞いた。
「そうだよ、茜音の記憶を取り返すために僕達行くんだよ」
冒険でも行くかのように、蒼音は俄然張り切っていた。
『あたちの記憶・・・
あたちも知りたい』
「だろう?
だから桜井さんと菅沼君にも相談してみるよ。
どんな方法で行けるかをね」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


黒蜜先生のヤバい秘密
月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。
須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。
だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

泣き虫エリー
梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。
初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。
戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。
そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。
強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。
「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。
サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。
セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる