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そうと決心すれば、こんなところでぐずぐず燻っている暇などなかった。
蒼音は大急ぎで自転車に乗って帰宅した。
家に入ると、いの一番に受話器をとって時バアに電話した。
この時間帯なら家にいるかもしれない。
日中は暑いから、畑に出ていることもないだろう。
蒼音は祈るような気持ちでベルを鳴らした。
間を置かずして時バアは電話に出てくれた。
はやる気持ちを出来るだけ抑えて、呼吸を整えながら時バアに挨拶をした。
「あ、時バア、僕だよ。
蒼音だよ。
今昼寝していた?
そっちは暑い?
そうだよね、暑いよね。
あのね・・・
今日は真面目な話があるんだ。
笑わないで聞いてくれる?
僕の話を真面目に聞いてくれる?」
可愛い孫が何やら思いつめた様子で電話をかけてきた。
時バアはそれにきちんと対応してくれた。
「うんええよ、何があったん?
驚かへんから話してごらん?
今まで蒼音の言うことに、時バアがケチつけたことあるか?
ないやろう?
それで、今日はどないしたんや?」
蒼音はもう一度ゆっくり息を吐き、話の核心を打ち明け始めた。
「あのね、前に時バアに言ったろう?
僕がどうして一人っ子なのか、って変なこと聞いたろう?」
「うん、そうやったね」
「そう、あれにはわけがあるんだ。
時バアはお婆ちゃんだから、今更もう大抵のことには驚かないと思うんだけど・・・・
でも驚かないでね。
あのね・・・
僕ちょっと前から、幽霊にとり憑かれているんだ」
「へえ!
幽霊にな、そらおもしろいな」
「うん、まあね」
時バアの反応が大袈裟なものでなかったので、蒼音は安心して話を進めることができた。
「それがね、これがまた可愛くて害のない幽霊なんだ。
だから、僕が面倒を看て、茜音って名前もつけてあげたんだよ。
茜色のあかねに、僕と同じ”音”をつけて、あかね、って読ませるんだ。
今も僕の隣で小町と遊んでるよ」
「へえ・・・・・
どないな理由で名前を茜音にしたんや?」
「うーんなんとなく茜音って感じだったから。
それに、本人も茜色が好きなんだって。
そうそれから、茜音には記憶がないんだ。
だから僕なんかにとり憑いていて、いつまでたっても成仏できないと思うんだ。
あ、僕の友達二人にも茜音は視えるんだよ。
もうみんな友達同士だよ。
けど、お母さんや他の人には視えないんだ。
それで今日は相談があって・・・
その、唐突だけど・・・
茜音と一緒に時バアの家に行ってもいい?
これはお母さんには内緒のことだよ。
どうもね、茜音の故郷は、時バアの住む地域らしいってことまではわかったけど。
そこから先が不明なんだよ。
だから、茜音を故郷に還してあげれば、記憶が戻るかもしれない。
そう考えたんだ。
だって、お母さんはこんな話信じてくれないだろう?
僕、間違ってるかな?」
「うーん、そうやな、でも時バアのところに来るのはいいけど、どうやって来るつもりなんや?」
「そうだな・・・・
具体的には考えてないけど、友達に相談してみる。
僕、茜音のおかげで、相談にのってくれる友達も出来たんだ。
だから僕達だけで茜音のこと解決してあげたい。
だって茜音は僕の家族みたいなものだもん。
このままほっておくことなんかできないよ」
と、ここまでは孫のとんでもない話を、一笑するでもなく聞いてくれた時バアだった。
「蒼音・・・・
よく聞きなさい。
時バアも真面目な話をするで。
こっちに来るのはかまへんよ。
でも、黙って来たらあかん」
何かを覚悟するように、時バアは、蒼音の無謀な計画に賛同してくれたのだ。
「もう蒼音も来月は十歳になるんやからな、時バアはあんたの考えと行動を信じるよ。
そやかて、たとえお母さんに内緒のことでも、せめて、何処へ行くのかきちんと手紙をおいてきなさい。
それから、きちんとお金を払って汽車に乗って来なさい。
後で時バアが交通費あげるから心配せんでもええよ。
それを守れるのなら、時バアは、蒼音も茜音も幽霊でもなんでも大歓迎や。
いつでも待ってるよ。
気いつけておいで」
「うん!
ありがとう時バア!
僕ちゃんとできるよ。
非常識なことはしない、人に迷惑もかけない。
計画を立てたらまた連絡する。
だから待っていて、茜音のことも、たくさん時バアに話したいんだ!」
蒼音は了解を取り付けることが出来て、ご満悦で受話器をおいた。
やっぱり時バアに相談してよかった。
話のわかる祖母をもって本当によかった。
自分の判断は間違っていないのだ、と強く自信をもつことができた。
『蒼音、時バアのところ行くのか?』
なんとなく会話の一部始終を聞いていた茜音は、不安と期待に満ちた表情で聞いた。
「そうだよ、茜音の記憶を取り返すために僕達行くんだよ」
冒険でも行くかのように、蒼音は俄然張り切っていた。
『あたちの記憶・・・
あたちも知りたい』
「だろう?
だから桜井さんと菅沼君にも相談してみるよ。
どんな方法で行けるかをね」
蒼音は大急ぎで自転車に乗って帰宅した。
家に入ると、いの一番に受話器をとって時バアに電話した。
この時間帯なら家にいるかもしれない。
日中は暑いから、畑に出ていることもないだろう。
蒼音は祈るような気持ちでベルを鳴らした。
間を置かずして時バアは電話に出てくれた。
はやる気持ちを出来るだけ抑えて、呼吸を整えながら時バアに挨拶をした。
「あ、時バア、僕だよ。
蒼音だよ。
今昼寝していた?
そっちは暑い?
そうだよね、暑いよね。
あのね・・・
今日は真面目な話があるんだ。
笑わないで聞いてくれる?
僕の話を真面目に聞いてくれる?」
可愛い孫が何やら思いつめた様子で電話をかけてきた。
時バアはそれにきちんと対応してくれた。
「うんええよ、何があったん?
驚かへんから話してごらん?
今まで蒼音の言うことに、時バアがケチつけたことあるか?
ないやろう?
それで、今日はどないしたんや?」
蒼音はもう一度ゆっくり息を吐き、話の核心を打ち明け始めた。
「あのね、前に時バアに言ったろう?
僕がどうして一人っ子なのか、って変なこと聞いたろう?」
「うん、そうやったね」
「そう、あれにはわけがあるんだ。
時バアはお婆ちゃんだから、今更もう大抵のことには驚かないと思うんだけど・・・・
でも驚かないでね。
あのね・・・
僕ちょっと前から、幽霊にとり憑かれているんだ」
「へえ!
幽霊にな、そらおもしろいな」
「うん、まあね」
時バアの反応が大袈裟なものでなかったので、蒼音は安心して話を進めることができた。
「それがね、これがまた可愛くて害のない幽霊なんだ。
だから、僕が面倒を看て、茜音って名前もつけてあげたんだよ。
茜色のあかねに、僕と同じ”音”をつけて、あかね、って読ませるんだ。
今も僕の隣で小町と遊んでるよ」
「へえ・・・・・
どないな理由で名前を茜音にしたんや?」
「うーんなんとなく茜音って感じだったから。
それに、本人も茜色が好きなんだって。
そうそれから、茜音には記憶がないんだ。
だから僕なんかにとり憑いていて、いつまでたっても成仏できないと思うんだ。
あ、僕の友達二人にも茜音は視えるんだよ。
もうみんな友達同士だよ。
けど、お母さんや他の人には視えないんだ。
それで今日は相談があって・・・
その、唐突だけど・・・
茜音と一緒に時バアの家に行ってもいい?
これはお母さんには内緒のことだよ。
どうもね、茜音の故郷は、時バアの住む地域らしいってことまではわかったけど。
そこから先が不明なんだよ。
だから、茜音を故郷に還してあげれば、記憶が戻るかもしれない。
そう考えたんだ。
だって、お母さんはこんな話信じてくれないだろう?
僕、間違ってるかな?」
「うーん、そうやな、でも時バアのところに来るのはいいけど、どうやって来るつもりなんや?」
「そうだな・・・・
具体的には考えてないけど、友達に相談してみる。
僕、茜音のおかげで、相談にのってくれる友達も出来たんだ。
だから僕達だけで茜音のこと解決してあげたい。
だって茜音は僕の家族みたいなものだもん。
このままほっておくことなんかできないよ」
と、ここまでは孫のとんでもない話を、一笑するでもなく聞いてくれた時バアだった。
「蒼音・・・・
よく聞きなさい。
時バアも真面目な話をするで。
こっちに来るのはかまへんよ。
でも、黙って来たらあかん」
何かを覚悟するように、時バアは、蒼音の無謀な計画に賛同してくれたのだ。
「もう蒼音も来月は十歳になるんやからな、時バアはあんたの考えと行動を信じるよ。
そやかて、たとえお母さんに内緒のことでも、せめて、何処へ行くのかきちんと手紙をおいてきなさい。
それから、きちんとお金を払って汽車に乗って来なさい。
後で時バアが交通費あげるから心配せんでもええよ。
それを守れるのなら、時バアは、蒼音も茜音も幽霊でもなんでも大歓迎や。
いつでも待ってるよ。
気いつけておいで」
「うん!
ありがとう時バア!
僕ちゃんとできるよ。
非常識なことはしない、人に迷惑もかけない。
計画を立てたらまた連絡する。
だから待っていて、茜音のことも、たくさん時バアに話したいんだ!」
蒼音は了解を取り付けることが出来て、ご満悦で受話器をおいた。
やっぱり時バアに相談してよかった。
話のわかる祖母をもって本当によかった。
自分の判断は間違っていないのだ、と強く自信をもつことができた。
『蒼音、時バアのところ行くのか?』
なんとなく会話の一部始終を聞いていた茜音は、不安と期待に満ちた表情で聞いた。
「そうだよ、茜音の記憶を取り返すために僕達行くんだよ」
冒険でも行くかのように、蒼音は俄然張り切っていた。
『あたちの記憶・・・
あたちも知りたい』
「だろう?
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どんな方法で行けるかをね」
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