45 / 64
雲の行方
時を駆けて
しおりを挟む
足が行くに任せ歩いていると、いつの間にやら堤防の方に来てしまった。
蒼音は堤防沿いに自転車を停めると、茜音と一緒に河川敷まで降りていった。
太陽が頭上に登りつめ、じりじりと頭を照りつけていたが、サラサラと流れる川のせせらぎが耳に心地よかった。
草の上に座り込むと、デイパックに詰め込んだお弁当を無造作に取り出した。
お弁当は大きなおむすびだった。
おかずは卵焼きに昨夜の餃子、自家製ピクルスが詰められていた。
始終無言のまま、蒼音は茜音にもおむすびを一つ手渡してやった。
彼はうつろな瞳のままおむすびにかぶりついた。相変わらず、お母さんのおむすびは塩っぱくて、そして美味しかった。
茜音もその様子も見て、同じようにおむすびを頬張った。
おかずも同じように二人でわけあって食べた。夏休みの間は、こうして母が用意してくれるお弁当を分け合うのが日課になっていた。
満腹になると二人はその場に寝転がり、流れゆく雲を呆然と眺めた。
太陽の日差しは厳しかったが、お盆を過ぎて、ほんの少しだけ風が心地よく感じられた。
『蒼音・・・
雲ってどこに行くんだろうね?
遠くまで飛んでいくのかな?
あたち・・・
稲穂が見たい。
稲穂って遠いの?』
茜音が話しかけても蒼音は目を閉じて黙ったままでいた。
『蒼音、あれ稲穂なの?
あれがそうなの?』
茜音の妙な問いかけに反応して、蒼音は目を開けて前を見てみた。
河川敷のあちこちで、穂を付けた、カラス麦やススキが群生していた。
「違うよ、あれは雑草だよ。
稲はこんなところには生らないよ」
『ふうん・・・・
稲穂かと思ったあたち。
稲穂・・・
黄金色の稲穂・・・
綺麗だったね、懐かちいね。
みんな一緒だったね。
あたち、またあの稲穂が見たいよ。
蒼音と一緒に見たいよ。
還りたいよ。
あの雲に乗れば、遠くの稲穂まで行けるの蒼音?
ねえ・・・蒼音?』
「雲には乗れないけど、飛行機に乗れば行けるよ、時バアの田んぼにはね・・・・」
彼はなんの気なしに受け答えをした。
しかし・・・・
はっと気がつくと、飛び起きて、茜音に顔を近づけた。
「え?
茜音、今なんて言ったの?
思い出したの?
あの稲穂って・・・・
もしかして時バアの田んぼのことだろう?
僕と家族で撮った写真に茜音も写っていた、あの場所のことだろう?
茜音、思い出したの?あの時のことを?
そうなんだね」
『・・・
全部は想い出せないの・・・
ごめんね蒼音。
記憶がぼんやりちてるの。
でもね・・・・
みんなで稲穂を眺めたことは覚えてるの。
蒼かったお空が夕焼けで茜色に染まったの。
とんぼがたくさん飛んでたの。
綺麗だったね』
茜音はまるで夢見るように、断片的な想い出を懐かしく語った。
その様子を見て蒼音は決心した。
「行こう!茜音。
僕と二人で時バアのところに行こう!
行けば何かがわかるかもしれない。
茜音のためにも行かなくちゃいけなんだ。
だから、僕が茜音を連れて行ってあげる」
蒼音は堤防沿いに自転車を停めると、茜音と一緒に河川敷まで降りていった。
太陽が頭上に登りつめ、じりじりと頭を照りつけていたが、サラサラと流れる川のせせらぎが耳に心地よかった。
草の上に座り込むと、デイパックに詰め込んだお弁当を無造作に取り出した。
お弁当は大きなおむすびだった。
おかずは卵焼きに昨夜の餃子、自家製ピクルスが詰められていた。
始終無言のまま、蒼音は茜音にもおむすびを一つ手渡してやった。
彼はうつろな瞳のままおむすびにかぶりついた。相変わらず、お母さんのおむすびは塩っぱくて、そして美味しかった。
茜音もその様子も見て、同じようにおむすびを頬張った。
おかずも同じように二人でわけあって食べた。夏休みの間は、こうして母が用意してくれるお弁当を分け合うのが日課になっていた。
満腹になると二人はその場に寝転がり、流れゆく雲を呆然と眺めた。
太陽の日差しは厳しかったが、お盆を過ぎて、ほんの少しだけ風が心地よく感じられた。
『蒼音・・・
雲ってどこに行くんだろうね?
遠くまで飛んでいくのかな?
あたち・・・
稲穂が見たい。
稲穂って遠いの?』
茜音が話しかけても蒼音は目を閉じて黙ったままでいた。
『蒼音、あれ稲穂なの?
あれがそうなの?』
茜音の妙な問いかけに反応して、蒼音は目を開けて前を見てみた。
河川敷のあちこちで、穂を付けた、カラス麦やススキが群生していた。
「違うよ、あれは雑草だよ。
稲はこんなところには生らないよ」
『ふうん・・・・
稲穂かと思ったあたち。
稲穂・・・
黄金色の稲穂・・・
綺麗だったね、懐かちいね。
みんな一緒だったね。
あたち、またあの稲穂が見たいよ。
蒼音と一緒に見たいよ。
還りたいよ。
あの雲に乗れば、遠くの稲穂まで行けるの蒼音?
ねえ・・・蒼音?』
「雲には乗れないけど、飛行機に乗れば行けるよ、時バアの田んぼにはね・・・・」
彼はなんの気なしに受け答えをした。
しかし・・・・
はっと気がつくと、飛び起きて、茜音に顔を近づけた。
「え?
茜音、今なんて言ったの?
思い出したの?
あの稲穂って・・・・
もしかして時バアの田んぼのことだろう?
僕と家族で撮った写真に茜音も写っていた、あの場所のことだろう?
茜音、思い出したの?あの時のことを?
そうなんだね」
『・・・
全部は想い出せないの・・・
ごめんね蒼音。
記憶がぼんやりちてるの。
でもね・・・・
みんなで稲穂を眺めたことは覚えてるの。
蒼かったお空が夕焼けで茜色に染まったの。
とんぼがたくさん飛んでたの。
綺麗だったね』
茜音はまるで夢見るように、断片的な想い出を懐かしく語った。
その様子を見て蒼音は決心した。
「行こう!茜音。
僕と二人で時バアのところに行こう!
行けば何かがわかるかもしれない。
茜音のためにも行かなくちゃいけなんだ。
だから、僕が茜音を連れて行ってあげる」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

泣き虫エリー
梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。
初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。
戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。
そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。
強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。
「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒蜜先生のヤバい秘密
月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。
須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。
だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる