稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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真夏の夜の夢

百鬼夜行

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「この辺りでいいよな」

涼介の声に顔を上げると、もう花火大会の会場に着いたらしい。

堤防沿いの公園のグランドで花火は打ち上げられるのだ。
花火打ち上げ開始まで、まだ少し時間の余裕があった。

中学生のお兄ちゃんと彼女が、場所を確保しておいてくれると言うので、蒼音たちは出店にジュースを買いに行くことにした。

人ごみをかき分け、四人は公園内の夜店を練り歩いた。


赤い提灯が店先に吊るされ、色とりどりのかき氷、綿飴やりんご飴、たこ焼きにイカ焼き。
お面にヨーヨー、くじ引きに、的あて・・・・
たくさんの出店が並んでいた。

所狭しと、心踊るような露天が軒を連ねて賑わっていた。

初めて見る光景を目の前にして、茜音の目玉は驚きで泳いでいた。
食いしん坊の彼女にとって、夜店はまるで天国のような場所に思えた。

蒼音はりんご飴を一つ、自分のお小遣いで買った。

「茜音、はいこれ、美味しいよ。
食べてごらん」

『わぁぁ・・・・
真っ赤で美味ちそう!
でも・・・・

今ここで食べていいのか?
蒼音』

「うんいいよ。
どうせ人が多いし、うるさくて暗いから、ちょっとくらい食べても誰もわからないよ」

『よかった。
あたち花火大会に来てよかったよ』

本当に嬉しそうな顔で茜音はりんご飴にかぶりついた。

「お、茜音いいもの買ってもらったな」

りんご飴をかじる茜音をみて涼介も優しい笑みを投げてくれた。
茜音の手をひきながら、蒼音たち四人は、雑踏をかき分け夜店を巡った。

「本当にたくさん人がいるね、毎年やってるんだよね、この花火大会。
みんな町内の人かな?」

蒼音は琴音に問いかけた。

「うんそうだよ。

夏祭りも兼ねた花火大会はずっと昔から続いているんだよ。
だけど、見物客は町内の人ばかりでもないみたい」

琴音はいたずらっぽく笑ってみせた。

頃は八月半ばを過ぎたあたり・・・・


「いろいろなお客さんも人ごみに紛れて、同じようにお祭りを楽しんでるようね。
ちらほらと視えるよ。
この世の者でないお客さんたちも、あたしたちと同じようにお祭りは大好きみたいね」

「え?えっとそれって・・・

僕には視えないけど、それってやっぱり?
霊がこの中に紛れてるってこと?だよね?」

上目遣いで、琴音の反応をうかがうように蒼音は聞いてみた。

「そうだよ。
だけどあたしには視ることしか出来ないけどね。

今のところ、あたしと話せる幽霊は茜音ちゃんだけ。
だけど、幽霊も生前は人間だったものね。
お盆の時季は、あの世とこの世が繋がって、昔懐かしさに出てくるんだろうね」

「・・・前だったらそんな話、とても信じられなかったけど、今なら信じられるな俺。
いろんな幽霊は視えないけど、確かにいるんだろうな。

俺たちのすぐ近くに」

涼介は周囲を見渡しながら、その痕跡を見つけよとしていた。

「それより早くジュース買って戻ろうぜ。
花火はじまっちゃうよ。
俺あっちの店で買ってきてやるよ。
琴音とお兄ちゃん達はラムネだろ?
園田君は何がいい?」

機転をきかせ涼介が買ってきてくれるという。

「僕もラムネお願い。
あとでお金渡すね」

「いいよ、これ琴音の兄ちゃんのおごりだって」

そういうと涼介は走っていってしまった。



涼介がいってしまうと、蒼音は琴音に話を切り出してみた。

「桜井さん・・・・

今夜は花火大会に誘ってくれてありがとう。
茜音もすごく楽しみにしてたから。
本当によかった。
僕一人じゃ多分来なかったから」

蒼音のいうように、茜音はすぐそばでニコニコと機嫌よくしていた。

「よかった、二人にも喜んでもらえて。
たのしい想い出たくさん作らなきゃね」

「そう、想い出を作るんだ。

茜音と過ごした夏の想い出を、たくさんたくさん作っておかなきゃね。
僕、あれから色々考えてみたけど、茜音の記憶を取り戻すっていうことは、つまり・・


この世での未練を断ち切る手助けをすることなんだよね?

それって、多分、この世とも僕達ともサヨナラするっていう意味なんだよね?」


もうわかっていた。なんとなく気がついていた。

それでも確認するように、今一度琴音からはっきりと教えて欲しかった。
周囲の喧騒にまぎれ、蒼音の声は琴音に届かなかったのだろうか?

彼女は、ほんの束の間口をつぐんで、そして考えていた。

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