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真夏の夜の夢
if_イフ_
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さて・・・
茜音の生前の記憶に関する手がかりを掴む。
といっても、これといった具体策は何も湧いてこなかった。
取りも直さず、茜音の記憶の覚醒・・・
それが何を意味するのか、わかったような、わからないような、実のところ蒼音にはあまりピンとこなかった。
生前の記憶を思い出せば、おそらく茜音はあの世に還るのかもしれない。
ところで、あの世、とは一体どこなのだろう?
この世に生まれ出ずる日を待ちわびる場所だろうか?
魂達が集まる、黄泉の国とも言うのだろうか。
そこがどこで、本当にあるのかさえ、誰にもわからない。
新しい生命を吹き込まれ、再び生まれ変われるとしたら?
前世の記憶をこの世に持ち込むことは許されないのかもしれない。
だとすれば、やっぱり誰にもわからない。
天に召される瞬間、これまでの人生を振り返ることが最期に一度きり許されるとしたら?
過去を振り返り悔い改める機会は、それが最後となる。
そうなれば、茜音は全てを忘れてしまうのだろうか?
蒼音や琴音や涼介と過ごした夏休みの想い出も、何もかもを置いて、茜音は天に還るのだろうか?
生命が尽きる。
ということは、そういうことなのかもしれない。
二度と会えないからこそ、この世の者は、今この瞬間を宝物のように大切に、懸命に生きようと必死にもがくのかもしれない。
(お母さんとお父さんにそれとなく聞いてみようか・・・?)
蒼音は、両親ならば何か知っているかもしれないと思った。
自分に関係しているかもしれないのなら、少しくらいは何か知っているかもしれない。
たとえば、何を知っているのだろうか?
(もしかすると茜音は、この家の人間に代々とり憑く幽霊だったとか、時バアが子供の頃も取り憑かれていたけど、僕にくら替えしたとか。
考えたくはないけど、僕が何かやらかして、生前の茜音に恨みをかわれていたとか・・・・)
思いつく範囲でいろいろと想像してみたが、いっこうに具体像は見えてこなかった。
両親に尋ねるといっても、現実主義の母の場合、一笑され軽くあしらわれて終わりそうだったし、父は父で日和見主義・・・
なところがあるから、真面目に応えてくれるかどうか怪しかった。
とどのつまり、蒼音からみた両親は、毎日を普通に生きるごく一般的で健全な庶民で、深刻な話に耳を傾けてくれるかどうかわからなかった。
(やっぱり時バアに聞こうかな。
時バアならちゃんと僕の話を聞いてくれるだろうし、笑ったり馬鹿にしたりしないよね)
蒼音は数日間なやんでいたが、ようやく決心がついた。
ただし、時バアに聞くにしても、もう少し話を要約し、解りやすくしてから電話しようと思った。
でないと、話の内容が内容なだけに、作り話と思われそうだからだ。
それに今夜は花火大会があるのだ。
琴音や涼介と約束して、一緒に観に行くことになっている。
あれこれ思い悩む時間よりも、今は楽しい夏休みを過ごしたかった。
「茜音、今夜は花火があがるんだぞ!
観たことあるか?
夜空に花が咲くんだよ。
一緒に観に行こうな」
蒼音は夜になるのが待ち遠しかった。
『お空に花が咲くの?』
「そうだよ、とっても大きな火の花が咲くんだよ。
綺麗なんだよ。
星も綺麗だけど、花火は一瞬で消えちゃうから、だから綺麗なんだぞ」
夕方、母が仕事から帰宅すると、蒼音は待ちかねていた様子で出迎えた。
「お母さん遅いよ!
早く準備しないと花火大会に遅れちゃうよ!」
「ただいま。
そんなに焦らんでも、まだまだ外は明るいから落ち着いて。
それに、琴音ちゃんと涼介君とは、夕飯軽く食べてから待ち合わせてるんやろう?
女の子は準備に時間がかかるけど、蒼音は甚平さん着るだけやし、大丈夫よ。
あーそれより休憩休憩。
今日の仕事は疲れたわ~」
母はいつものように、小手先で蒼音をいなしてソファーにもたれかかった。
「もーだから、早く夕飯作ってよ。
お母さんはいっつも能天気なんだから」
「はいはい、もううるさいな。
わかりましたから手を引っ張らないでください」
文句を言いながらも母は重い腰をあげ、夕飯の支度にとりかかってくれた。
キャベツの葉をめくりながら、母は約束ごとを確認した。
「本当に花火大会には、琴音ちゃんのお兄ちゃんが付いて来てくれるんやね?
帰りは途中まで送ってくれるんやね?
お兄ちゃんにお任せしても大丈夫なんやね?
あ、そうそう買い食いは五百円までやからね。
それから、お兄ちゃんには子守代として、ジュース買って渡してあげてね。
後でお金あげるから」
「大丈夫だよ。
学校の子もほとんど観に来るし、警備の人もいるし、桜井さんのお兄ちゃんは受験勉強の息抜きだから、なんにも気にしないでって言ってくれてるし、全然心配ないよ。
それよりご飯まだ?
今夜は焼きそばか・・・・
後で夜店では何を食べようかな~」
夜の外出許可が出て、いつになく蒼音はそわそわしていた。
だって、花火大会を友達と観に行くなんて、そんな楽しいイベントは初体験だもの。
花火を観て、夜店で買い食いして・・・・
夜道をみんなで歩いて帰るなんて、想像しただけでワクワクがとまらなかった。
夏休みってなんて最高なんだろう。
このままずっと夏休みだったらいいのに、夏が終わらなければいいのに。
蒼音は心底そう願っていた。
そうであれば、茜音だって、いつまでもこのままでいいのに。
ずっと時が止まってしまえば、誰も何も困ることなんてないんだ。
蒼音はその時は、本当にそう思えた。
大人になんかなりたくなかった。
ずっと子供のままで、みんなと楽しく面白く過ごせればどんなにいいかと願った。
茜音の上に時が刻まないのなら、自分にだって時が止まればいいとさえ思えた。
明日なんて来なければいいんだ。
茜音の生前の記憶に関する手がかりを掴む。
といっても、これといった具体策は何も湧いてこなかった。
取りも直さず、茜音の記憶の覚醒・・・
それが何を意味するのか、わかったような、わからないような、実のところ蒼音にはあまりピンとこなかった。
生前の記憶を思い出せば、おそらく茜音はあの世に還るのかもしれない。
ところで、あの世、とは一体どこなのだろう?
この世に生まれ出ずる日を待ちわびる場所だろうか?
魂達が集まる、黄泉の国とも言うのだろうか。
そこがどこで、本当にあるのかさえ、誰にもわからない。
新しい生命を吹き込まれ、再び生まれ変われるとしたら?
前世の記憶をこの世に持ち込むことは許されないのかもしれない。
だとすれば、やっぱり誰にもわからない。
天に召される瞬間、これまでの人生を振り返ることが最期に一度きり許されるとしたら?
過去を振り返り悔い改める機会は、それが最後となる。
そうなれば、茜音は全てを忘れてしまうのだろうか?
蒼音や琴音や涼介と過ごした夏休みの想い出も、何もかもを置いて、茜音は天に還るのだろうか?
生命が尽きる。
ということは、そういうことなのかもしれない。
二度と会えないからこそ、この世の者は、今この瞬間を宝物のように大切に、懸命に生きようと必死にもがくのかもしれない。
(お母さんとお父さんにそれとなく聞いてみようか・・・?)
蒼音は、両親ならば何か知っているかもしれないと思った。
自分に関係しているかもしれないのなら、少しくらいは何か知っているかもしれない。
たとえば、何を知っているのだろうか?
(もしかすると茜音は、この家の人間に代々とり憑く幽霊だったとか、時バアが子供の頃も取り憑かれていたけど、僕にくら替えしたとか。
考えたくはないけど、僕が何かやらかして、生前の茜音に恨みをかわれていたとか・・・・)
思いつく範囲でいろいろと想像してみたが、いっこうに具体像は見えてこなかった。
両親に尋ねるといっても、現実主義の母の場合、一笑され軽くあしらわれて終わりそうだったし、父は父で日和見主義・・・
なところがあるから、真面目に応えてくれるかどうか怪しかった。
とどのつまり、蒼音からみた両親は、毎日を普通に生きるごく一般的で健全な庶民で、深刻な話に耳を傾けてくれるかどうかわからなかった。
(やっぱり時バアに聞こうかな。
時バアならちゃんと僕の話を聞いてくれるだろうし、笑ったり馬鹿にしたりしないよね)
蒼音は数日間なやんでいたが、ようやく決心がついた。
ただし、時バアに聞くにしても、もう少し話を要約し、解りやすくしてから電話しようと思った。
でないと、話の内容が内容なだけに、作り話と思われそうだからだ。
それに今夜は花火大会があるのだ。
琴音や涼介と約束して、一緒に観に行くことになっている。
あれこれ思い悩む時間よりも、今は楽しい夏休みを過ごしたかった。
「茜音、今夜は花火があがるんだぞ!
観たことあるか?
夜空に花が咲くんだよ。
一緒に観に行こうな」
蒼音は夜になるのが待ち遠しかった。
『お空に花が咲くの?』
「そうだよ、とっても大きな火の花が咲くんだよ。
綺麗なんだよ。
星も綺麗だけど、花火は一瞬で消えちゃうから、だから綺麗なんだぞ」
夕方、母が仕事から帰宅すると、蒼音は待ちかねていた様子で出迎えた。
「お母さん遅いよ!
早く準備しないと花火大会に遅れちゃうよ!」
「ただいま。
そんなに焦らんでも、まだまだ外は明るいから落ち着いて。
それに、琴音ちゃんと涼介君とは、夕飯軽く食べてから待ち合わせてるんやろう?
女の子は準備に時間がかかるけど、蒼音は甚平さん着るだけやし、大丈夫よ。
あーそれより休憩休憩。
今日の仕事は疲れたわ~」
母はいつものように、小手先で蒼音をいなしてソファーにもたれかかった。
「もーだから、早く夕飯作ってよ。
お母さんはいっつも能天気なんだから」
「はいはい、もううるさいな。
わかりましたから手を引っ張らないでください」
文句を言いながらも母は重い腰をあげ、夕飯の支度にとりかかってくれた。
キャベツの葉をめくりながら、母は約束ごとを確認した。
「本当に花火大会には、琴音ちゃんのお兄ちゃんが付いて来てくれるんやね?
帰りは途中まで送ってくれるんやね?
お兄ちゃんにお任せしても大丈夫なんやね?
あ、そうそう買い食いは五百円までやからね。
それから、お兄ちゃんには子守代として、ジュース買って渡してあげてね。
後でお金あげるから」
「大丈夫だよ。
学校の子もほとんど観に来るし、警備の人もいるし、桜井さんのお兄ちゃんは受験勉強の息抜きだから、なんにも気にしないでって言ってくれてるし、全然心配ないよ。
それよりご飯まだ?
今夜は焼きそばか・・・・
後で夜店では何を食べようかな~」
夜の外出許可が出て、いつになく蒼音はそわそわしていた。
だって、花火大会を友達と観に行くなんて、そんな楽しいイベントは初体験だもの。
花火を観て、夜店で買い食いして・・・・
夜道をみんなで歩いて帰るなんて、想像しただけでワクワクがとまらなかった。
夏休みってなんて最高なんだろう。
このままずっと夏休みだったらいいのに、夏が終わらなければいいのに。
蒼音は心底そう願っていた。
そうであれば、茜音だって、いつまでもこのままでいいのに。
ずっと時が止まってしまえば、誰も何も困ることなんてないんだ。
蒼音はその時は、本当にそう思えた。
大人になんかなりたくなかった。
ずっと子供のままで、みんなと楽しく面白く過ごせればどんなにいいかと願った。
茜音の上に時が刻まないのなら、自分にだって時が止まればいいとさえ思えた。
明日なんて来なければいいんだ。
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