38 / 64
記憶の欠片_かけら_
紡ぎ合い
しおりを挟む
「ねえ二人とも、もう言い合いはやめようよ」
自分が余計なことを言い出したからだ。
琴音は責任を感じて涙ぐんでしまった。
「ねえ、茜音ちゃんもこの部屋にいるんだよ。
聞こえてるよ・・・・
あたしが変なこと言い出したから、ごめんね・・・・・・・・
あたしがいけないんだ」
琴音の涙声にはっとして、二人は言い合いをやめた。
つまらない言い合いをして、女の子を泣かせてしまった。
三人の間に、なんとなく気まずい空気が流れた。
相手を言い負かそうとか、自分が正しいとか、そんなことはこれぽっちも思っていなかった。
ただ、茜音の今後を思うと、可哀想で切なくて、つい声を張り上げてしまったのだ。
「・・・・園田君ごめん。
言いすぎたよ。
俺心配だったから・・・
茜音のこと心配だから。
その写真見て思ったんだ。
なんとなく俺の妹に似てたから、茜音と妹の顔が似てるから。
それで、他人ごとには思えなくてさ。
茜音のこの先が気になって・・・
だから言いすぎたよ」
涼介は心から心配してくれたのだ。
茜音のことを思えばこそ、心配で仕方なかったのだ。
「僕のほうこそごめん。
菅沼君の言うことが正しいって、僕もわかってるんだ。
でもついムキになっちゃった。それでも、他にどうしようもないんだ。
茜音のこと、どうすればいいのかわからないんだ」
「本当だね。
可哀想だね茜音ちゃん・・・
これからこの先、どうなるのかな?」
琴音は鼻をすすりあげて、茜音の行く末を案じた。
他の二人も同じだった。
そんな三人の様子を、さきほどから不思議そうに眺めていた当の茜音は、言葉をかけるタイミングを見失い、黙って一部始終を見ていた。
けれどあんまりにも三人がしんみりしていたので、明るい声で話しかけてみた。
『ねえ、みんな。
あたちなら大丈夫だよ。
あたち楽ちいもん。
毎日楽ちいもん。
みんなはどうちて泣くの?
楽ちくないの?
今が楽ちくないと、これからだってつまんないよ?
ねえ、みんな笑って!
一緒に笑おう』
茜音は精一杯の笑顔で三人の笑顔を誘った。
「茜音・・・・・
そうだね、茜音のいうとおりだね。
今が楽しくなかったら、いつまでたっても笑えないね。
ずっと先のこととか、死んでからのことなんて、今は関係ないよね。
茜音おいで」
蒼音は茜音を引き寄せ、三人の輪の中に入れた。
そしてみんなで手を取り合い、一緒に笑うことを提案した。
「僕、悲観的だったよ。
だからみんなで笑って仲直りしよう。
茜音のために笑ってくれる?」
「うんいいよ」
「うん」
四人は手を取り合い、精一杯の笑顔を見せあった。
「にぃーっ!」
すると、いつか琴音が言っていた・・・・
涼介の思い遣りが茜音にも通じたのか、いつの間にやら、涼介にも目の前にいる茜音の姿が視えるようになっていたのだ。
「?あれ・・・
嘘?
俺にも視えるんだけど・・・・
茜音だろ?
俺たちと手を取り合ってる、こ・・・
この女の子って、あの写真と同じ茜音だろう?」
『うん、あたち茜音だよ、涼介これからもよろちくね』
「わぁ・・・
とうとうこの俺にも霊能力が芽生えたのかー!?
すげえ!」
目の前にいる茜音を認識することができた涼介は、感動と興奮の両方を味わった。
「よかったね、涼介も本当の意味で茜音ちゃんと友達になれたみたいね。
くすっ、けど、霊能力とはちょっと違うような気がするな。
それは、涼介の今の真心が通じた証拠だよ」
琴音は苦笑いした。
本当に霊感が芽生えたら、面白いことばっかりじゃないんだよ・・・・
と教えてあげたい気分だったが、幼馴染の感動を壊さぬよう、今は黙っておいた。
「菅沼君、ありがとう。
君が茜音のために心から心配してくれたから、きっと視えるようになったんだね。
それなのに言い返したりしてごめんね。
茜音の今後については、僕も真剣に考えてみるよ。
何か手がかりが掴めたら・・・
その・・・
その時は協力してくれる?
出来る範囲でいいんだ。
茜音のために力を貸してくれる二人とも?」
蒼音はおずおずと自信なさげに頼み込んでみた。
虫がいいのはわかっている、けれど、茜音の姿が視えるのは、自分を含めこの三人しかいないのだ。
他の誰にも頼ることができないのだから。
「いいよ俺は、俺にできることがあればなんでも協力するよ。
任せておいて、いつでも俺を頼ってよ園田君」
「もちろんあたしだって。
変なこと言い出して園田君を不安にさせたのはあたしだもん。
責任感じてます。
あたしにも手伝わせて、茜音ちゃんの記憶を取り戻すために」
「ありがとう二人とも・・・・
よかった。
一人じゃ抱えきれなくて、本当はずっと不安だらけだったんだ僕」
本音を吐き出すと、ほんのすこし気持ちが楽になった。
茜音が邪魔だとか重荷だった、なんてそんな初めの気持ちはもうとっくになかった。
むしろ今の蒼音にとって茜音は、唯一無二の妹のような存在に変化していたのだ。
だからこそ最善の方法を探したかった。
『みんなどうちたの?
何をするの?あたちどうなるの?』
三人の話を間近で聞いた茜音は、不安を隠せないようだった。
自分は今のままで十分なのに、何かを暴かれ、さぐられるようで不安なのだ。
「心配ないんだよ茜音。
茜音の嫌がることはしないよ。
茜音がこれから安心できるように、もし何か思い出したら、僕に教えてほしいんだ。
記憶を取り戻すことは、きっと茜音のためになると思うから。
茜音にはいつも笑っていて欲しいから」
茜音の不安を取り除くように、蒼音はできるだけ優しくそう伝えた。
誰しも、変化することに不安を覚えるのは仕方のないことだ。
順応していた環境に慣れてしまうと、そこから一歩踏み出すのは誰のうえにとっても勇気が要ること。
たとえそれがよい方向に向かっていたとしても、不安はつきものなのだ。
その殻を破ってこそ、別の見方で過去を振り返ることが可能だとしたら?
蒼音自身もそうだった。
自分を覆う固い殻を破って、仲間を得た今だからこそ、今までの自分を見つめ直すことができた。
明日になれば、今日の自分を振り返り反省する。
毎日をそうやって繰り返し、人は少しずつ成長してゆく生き物だとしたら?
昨日よりも今日、今日よりも明日。
未来が楽しいものであればいい。
明日もあさっても笑顔でいられることが、今の自分にとって何よりも大切な願いだった。
『うん、あたちも笑っていたい。
蒼音が笑っていると、あたちも嬉ちいから、あたち言うとおりにする。
想い出ちたら教えるね』
茜音が笑うと、みんなの心も軽くなった。
四人は、今この時、またほんの少し互いの距離を縮めて絆を深めていった。
自分が余計なことを言い出したからだ。
琴音は責任を感じて涙ぐんでしまった。
「ねえ、茜音ちゃんもこの部屋にいるんだよ。
聞こえてるよ・・・・
あたしが変なこと言い出したから、ごめんね・・・・・・・・
あたしがいけないんだ」
琴音の涙声にはっとして、二人は言い合いをやめた。
つまらない言い合いをして、女の子を泣かせてしまった。
三人の間に、なんとなく気まずい空気が流れた。
相手を言い負かそうとか、自分が正しいとか、そんなことはこれぽっちも思っていなかった。
ただ、茜音の今後を思うと、可哀想で切なくて、つい声を張り上げてしまったのだ。
「・・・・園田君ごめん。
言いすぎたよ。
俺心配だったから・・・
茜音のこと心配だから。
その写真見て思ったんだ。
なんとなく俺の妹に似てたから、茜音と妹の顔が似てるから。
それで、他人ごとには思えなくてさ。
茜音のこの先が気になって・・・
だから言いすぎたよ」
涼介は心から心配してくれたのだ。
茜音のことを思えばこそ、心配で仕方なかったのだ。
「僕のほうこそごめん。
菅沼君の言うことが正しいって、僕もわかってるんだ。
でもついムキになっちゃった。それでも、他にどうしようもないんだ。
茜音のこと、どうすればいいのかわからないんだ」
「本当だね。
可哀想だね茜音ちゃん・・・
これからこの先、どうなるのかな?」
琴音は鼻をすすりあげて、茜音の行く末を案じた。
他の二人も同じだった。
そんな三人の様子を、さきほどから不思議そうに眺めていた当の茜音は、言葉をかけるタイミングを見失い、黙って一部始終を見ていた。
けれどあんまりにも三人がしんみりしていたので、明るい声で話しかけてみた。
『ねえ、みんな。
あたちなら大丈夫だよ。
あたち楽ちいもん。
毎日楽ちいもん。
みんなはどうちて泣くの?
楽ちくないの?
今が楽ちくないと、これからだってつまんないよ?
ねえ、みんな笑って!
一緒に笑おう』
茜音は精一杯の笑顔で三人の笑顔を誘った。
「茜音・・・・・
そうだね、茜音のいうとおりだね。
今が楽しくなかったら、いつまでたっても笑えないね。
ずっと先のこととか、死んでからのことなんて、今は関係ないよね。
茜音おいで」
蒼音は茜音を引き寄せ、三人の輪の中に入れた。
そしてみんなで手を取り合い、一緒に笑うことを提案した。
「僕、悲観的だったよ。
だからみんなで笑って仲直りしよう。
茜音のために笑ってくれる?」
「うんいいよ」
「うん」
四人は手を取り合い、精一杯の笑顔を見せあった。
「にぃーっ!」
すると、いつか琴音が言っていた・・・・
涼介の思い遣りが茜音にも通じたのか、いつの間にやら、涼介にも目の前にいる茜音の姿が視えるようになっていたのだ。
「?あれ・・・
嘘?
俺にも視えるんだけど・・・・
茜音だろ?
俺たちと手を取り合ってる、こ・・・
この女の子って、あの写真と同じ茜音だろう?」
『うん、あたち茜音だよ、涼介これからもよろちくね』
「わぁ・・・
とうとうこの俺にも霊能力が芽生えたのかー!?
すげえ!」
目の前にいる茜音を認識することができた涼介は、感動と興奮の両方を味わった。
「よかったね、涼介も本当の意味で茜音ちゃんと友達になれたみたいね。
くすっ、けど、霊能力とはちょっと違うような気がするな。
それは、涼介の今の真心が通じた証拠だよ」
琴音は苦笑いした。
本当に霊感が芽生えたら、面白いことばっかりじゃないんだよ・・・・
と教えてあげたい気分だったが、幼馴染の感動を壊さぬよう、今は黙っておいた。
「菅沼君、ありがとう。
君が茜音のために心から心配してくれたから、きっと視えるようになったんだね。
それなのに言い返したりしてごめんね。
茜音の今後については、僕も真剣に考えてみるよ。
何か手がかりが掴めたら・・・
その・・・
その時は協力してくれる?
出来る範囲でいいんだ。
茜音のために力を貸してくれる二人とも?」
蒼音はおずおずと自信なさげに頼み込んでみた。
虫がいいのはわかっている、けれど、茜音の姿が視えるのは、自分を含めこの三人しかいないのだ。
他の誰にも頼ることができないのだから。
「いいよ俺は、俺にできることがあればなんでも協力するよ。
任せておいて、いつでも俺を頼ってよ園田君」
「もちろんあたしだって。
変なこと言い出して園田君を不安にさせたのはあたしだもん。
責任感じてます。
あたしにも手伝わせて、茜音ちゃんの記憶を取り戻すために」
「ありがとう二人とも・・・・
よかった。
一人じゃ抱えきれなくて、本当はずっと不安だらけだったんだ僕」
本音を吐き出すと、ほんのすこし気持ちが楽になった。
茜音が邪魔だとか重荷だった、なんてそんな初めの気持ちはもうとっくになかった。
むしろ今の蒼音にとって茜音は、唯一無二の妹のような存在に変化していたのだ。
だからこそ最善の方法を探したかった。
『みんなどうちたの?
何をするの?あたちどうなるの?』
三人の話を間近で聞いた茜音は、不安を隠せないようだった。
自分は今のままで十分なのに、何かを暴かれ、さぐられるようで不安なのだ。
「心配ないんだよ茜音。
茜音の嫌がることはしないよ。
茜音がこれから安心できるように、もし何か思い出したら、僕に教えてほしいんだ。
記憶を取り戻すことは、きっと茜音のためになると思うから。
茜音にはいつも笑っていて欲しいから」
茜音の不安を取り除くように、蒼音はできるだけ優しくそう伝えた。
誰しも、変化することに不安を覚えるのは仕方のないことだ。
順応していた環境に慣れてしまうと、そこから一歩踏み出すのは誰のうえにとっても勇気が要ること。
たとえそれがよい方向に向かっていたとしても、不安はつきものなのだ。
その殻を破ってこそ、別の見方で過去を振り返ることが可能だとしたら?
蒼音自身もそうだった。
自分を覆う固い殻を破って、仲間を得た今だからこそ、今までの自分を見つめ直すことができた。
明日になれば、今日の自分を振り返り反省する。
毎日をそうやって繰り返し、人は少しずつ成長してゆく生き物だとしたら?
昨日よりも今日、今日よりも明日。
未来が楽しいものであればいい。
明日もあさっても笑顔でいられることが、今の自分にとって何よりも大切な願いだった。
『うん、あたちも笑っていたい。
蒼音が笑っていると、あたちも嬉ちいから、あたち言うとおりにする。
想い出ちたら教えるね』
茜音が笑うと、みんなの心も軽くなった。
四人は、今この時、またほんの少し互いの距離を縮めて絆を深めていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる