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記憶の欠片_かけら_
紡ぎ合い
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「ねえ二人とも、もう言い合いはやめようよ」
自分が余計なことを言い出したからだ。
琴音は責任を感じて涙ぐんでしまった。
「ねえ、茜音ちゃんもこの部屋にいるんだよ。
聞こえてるよ・・・・
あたしが変なこと言い出したから、ごめんね・・・・・・・・
あたしがいけないんだ」
琴音の涙声にはっとして、二人は言い合いをやめた。
つまらない言い合いをして、女の子を泣かせてしまった。
三人の間に、なんとなく気まずい空気が流れた。
相手を言い負かそうとか、自分が正しいとか、そんなことはこれぽっちも思っていなかった。
ただ、茜音の今後を思うと、可哀想で切なくて、つい声を張り上げてしまったのだ。
「・・・・園田君ごめん。
言いすぎたよ。
俺心配だったから・・・
茜音のこと心配だから。
その写真見て思ったんだ。
なんとなく俺の妹に似てたから、茜音と妹の顔が似てるから。
それで、他人ごとには思えなくてさ。
茜音のこの先が気になって・・・
だから言いすぎたよ」
涼介は心から心配してくれたのだ。
茜音のことを思えばこそ、心配で仕方なかったのだ。
「僕のほうこそごめん。
菅沼君の言うことが正しいって、僕もわかってるんだ。
でもついムキになっちゃった。それでも、他にどうしようもないんだ。
茜音のこと、どうすればいいのかわからないんだ」
「本当だね。
可哀想だね茜音ちゃん・・・
これからこの先、どうなるのかな?」
琴音は鼻をすすりあげて、茜音の行く末を案じた。
他の二人も同じだった。
そんな三人の様子を、さきほどから不思議そうに眺めていた当の茜音は、言葉をかけるタイミングを見失い、黙って一部始終を見ていた。
けれどあんまりにも三人がしんみりしていたので、明るい声で話しかけてみた。
『ねえ、みんな。
あたちなら大丈夫だよ。
あたち楽ちいもん。
毎日楽ちいもん。
みんなはどうちて泣くの?
楽ちくないの?
今が楽ちくないと、これからだってつまんないよ?
ねえ、みんな笑って!
一緒に笑おう』
茜音は精一杯の笑顔で三人の笑顔を誘った。
「茜音・・・・・
そうだね、茜音のいうとおりだね。
今が楽しくなかったら、いつまでたっても笑えないね。
ずっと先のこととか、死んでからのことなんて、今は関係ないよね。
茜音おいで」
蒼音は茜音を引き寄せ、三人の輪の中に入れた。
そしてみんなで手を取り合い、一緒に笑うことを提案した。
「僕、悲観的だったよ。
だからみんなで笑って仲直りしよう。
茜音のために笑ってくれる?」
「うんいいよ」
「うん」
四人は手を取り合い、精一杯の笑顔を見せあった。
「にぃーっ!」
すると、いつか琴音が言っていた・・・・
涼介の思い遣りが茜音にも通じたのか、いつの間にやら、涼介にも目の前にいる茜音の姿が視えるようになっていたのだ。
「?あれ・・・
嘘?
俺にも視えるんだけど・・・・
茜音だろ?
俺たちと手を取り合ってる、こ・・・
この女の子って、あの写真と同じ茜音だろう?」
『うん、あたち茜音だよ、涼介これからもよろちくね』
「わぁ・・・
とうとうこの俺にも霊能力が芽生えたのかー!?
すげえ!」
目の前にいる茜音を認識することができた涼介は、感動と興奮の両方を味わった。
「よかったね、涼介も本当の意味で茜音ちゃんと友達になれたみたいね。
くすっ、けど、霊能力とはちょっと違うような気がするな。
それは、涼介の今の真心が通じた証拠だよ」
琴音は苦笑いした。
本当に霊感が芽生えたら、面白いことばっかりじゃないんだよ・・・・
と教えてあげたい気分だったが、幼馴染の感動を壊さぬよう、今は黙っておいた。
「菅沼君、ありがとう。
君が茜音のために心から心配してくれたから、きっと視えるようになったんだね。
それなのに言い返したりしてごめんね。
茜音の今後については、僕も真剣に考えてみるよ。
何か手がかりが掴めたら・・・
その・・・
その時は協力してくれる?
出来る範囲でいいんだ。
茜音のために力を貸してくれる二人とも?」
蒼音はおずおずと自信なさげに頼み込んでみた。
虫がいいのはわかっている、けれど、茜音の姿が視えるのは、自分を含めこの三人しかいないのだ。
他の誰にも頼ることができないのだから。
「いいよ俺は、俺にできることがあればなんでも協力するよ。
任せておいて、いつでも俺を頼ってよ園田君」
「もちろんあたしだって。
変なこと言い出して園田君を不安にさせたのはあたしだもん。
責任感じてます。
あたしにも手伝わせて、茜音ちゃんの記憶を取り戻すために」
「ありがとう二人とも・・・・
よかった。
一人じゃ抱えきれなくて、本当はずっと不安だらけだったんだ僕」
本音を吐き出すと、ほんのすこし気持ちが楽になった。
茜音が邪魔だとか重荷だった、なんてそんな初めの気持ちはもうとっくになかった。
むしろ今の蒼音にとって茜音は、唯一無二の妹のような存在に変化していたのだ。
だからこそ最善の方法を探したかった。
『みんなどうちたの?
何をするの?あたちどうなるの?』
三人の話を間近で聞いた茜音は、不安を隠せないようだった。
自分は今のままで十分なのに、何かを暴かれ、さぐられるようで不安なのだ。
「心配ないんだよ茜音。
茜音の嫌がることはしないよ。
茜音がこれから安心できるように、もし何か思い出したら、僕に教えてほしいんだ。
記憶を取り戻すことは、きっと茜音のためになると思うから。
茜音にはいつも笑っていて欲しいから」
茜音の不安を取り除くように、蒼音はできるだけ優しくそう伝えた。
誰しも、変化することに不安を覚えるのは仕方のないことだ。
順応していた環境に慣れてしまうと、そこから一歩踏み出すのは誰のうえにとっても勇気が要ること。
たとえそれがよい方向に向かっていたとしても、不安はつきものなのだ。
その殻を破ってこそ、別の見方で過去を振り返ることが可能だとしたら?
蒼音自身もそうだった。
自分を覆う固い殻を破って、仲間を得た今だからこそ、今までの自分を見つめ直すことができた。
明日になれば、今日の自分を振り返り反省する。
毎日をそうやって繰り返し、人は少しずつ成長してゆく生き物だとしたら?
昨日よりも今日、今日よりも明日。
未来が楽しいものであればいい。
明日もあさっても笑顔でいられることが、今の自分にとって何よりも大切な願いだった。
『うん、あたちも笑っていたい。
蒼音が笑っていると、あたちも嬉ちいから、あたち言うとおりにする。
想い出ちたら教えるね』
茜音が笑うと、みんなの心も軽くなった。
四人は、今この時、またほんの少し互いの距離を縮めて絆を深めていった。
自分が余計なことを言い出したからだ。
琴音は責任を感じて涙ぐんでしまった。
「ねえ、茜音ちゃんもこの部屋にいるんだよ。
聞こえてるよ・・・・
あたしが変なこと言い出したから、ごめんね・・・・・・・・
あたしがいけないんだ」
琴音の涙声にはっとして、二人は言い合いをやめた。
つまらない言い合いをして、女の子を泣かせてしまった。
三人の間に、なんとなく気まずい空気が流れた。
相手を言い負かそうとか、自分が正しいとか、そんなことはこれぽっちも思っていなかった。
ただ、茜音の今後を思うと、可哀想で切なくて、つい声を張り上げてしまったのだ。
「・・・・園田君ごめん。
言いすぎたよ。
俺心配だったから・・・
茜音のこと心配だから。
その写真見て思ったんだ。
なんとなく俺の妹に似てたから、茜音と妹の顔が似てるから。
それで、他人ごとには思えなくてさ。
茜音のこの先が気になって・・・
だから言いすぎたよ」
涼介は心から心配してくれたのだ。
茜音のことを思えばこそ、心配で仕方なかったのだ。
「僕のほうこそごめん。
菅沼君の言うことが正しいって、僕もわかってるんだ。
でもついムキになっちゃった。それでも、他にどうしようもないんだ。
茜音のこと、どうすればいいのかわからないんだ」
「本当だね。
可哀想だね茜音ちゃん・・・
これからこの先、どうなるのかな?」
琴音は鼻をすすりあげて、茜音の行く末を案じた。
他の二人も同じだった。
そんな三人の様子を、さきほどから不思議そうに眺めていた当の茜音は、言葉をかけるタイミングを見失い、黙って一部始終を見ていた。
けれどあんまりにも三人がしんみりしていたので、明るい声で話しかけてみた。
『ねえ、みんな。
あたちなら大丈夫だよ。
あたち楽ちいもん。
毎日楽ちいもん。
みんなはどうちて泣くの?
楽ちくないの?
今が楽ちくないと、これからだってつまんないよ?
ねえ、みんな笑って!
一緒に笑おう』
茜音は精一杯の笑顔で三人の笑顔を誘った。
「茜音・・・・・
そうだね、茜音のいうとおりだね。
今が楽しくなかったら、いつまでたっても笑えないね。
ずっと先のこととか、死んでからのことなんて、今は関係ないよね。
茜音おいで」
蒼音は茜音を引き寄せ、三人の輪の中に入れた。
そしてみんなで手を取り合い、一緒に笑うことを提案した。
「僕、悲観的だったよ。
だからみんなで笑って仲直りしよう。
茜音のために笑ってくれる?」
「うんいいよ」
「うん」
四人は手を取り合い、精一杯の笑顔を見せあった。
「にぃーっ!」
すると、いつか琴音が言っていた・・・・
涼介の思い遣りが茜音にも通じたのか、いつの間にやら、涼介にも目の前にいる茜音の姿が視えるようになっていたのだ。
「?あれ・・・
嘘?
俺にも視えるんだけど・・・・
茜音だろ?
俺たちと手を取り合ってる、こ・・・
この女の子って、あの写真と同じ茜音だろう?」
『うん、あたち茜音だよ、涼介これからもよろちくね』
「わぁ・・・
とうとうこの俺にも霊能力が芽生えたのかー!?
すげえ!」
目の前にいる茜音を認識することができた涼介は、感動と興奮の両方を味わった。
「よかったね、涼介も本当の意味で茜音ちゃんと友達になれたみたいね。
くすっ、けど、霊能力とはちょっと違うような気がするな。
それは、涼介の今の真心が通じた証拠だよ」
琴音は苦笑いした。
本当に霊感が芽生えたら、面白いことばっかりじゃないんだよ・・・・
と教えてあげたい気分だったが、幼馴染の感動を壊さぬよう、今は黙っておいた。
「菅沼君、ありがとう。
君が茜音のために心から心配してくれたから、きっと視えるようになったんだね。
それなのに言い返したりしてごめんね。
茜音の今後については、僕も真剣に考えてみるよ。
何か手がかりが掴めたら・・・
その・・・
その時は協力してくれる?
出来る範囲でいいんだ。
茜音のために力を貸してくれる二人とも?」
蒼音はおずおずと自信なさげに頼み込んでみた。
虫がいいのはわかっている、けれど、茜音の姿が視えるのは、自分を含めこの三人しかいないのだ。
他の誰にも頼ることができないのだから。
「いいよ俺は、俺にできることがあればなんでも協力するよ。
任せておいて、いつでも俺を頼ってよ園田君」
「もちろんあたしだって。
変なこと言い出して園田君を不安にさせたのはあたしだもん。
責任感じてます。
あたしにも手伝わせて、茜音ちゃんの記憶を取り戻すために」
「ありがとう二人とも・・・・
よかった。
一人じゃ抱えきれなくて、本当はずっと不安だらけだったんだ僕」
本音を吐き出すと、ほんのすこし気持ちが楽になった。
茜音が邪魔だとか重荷だった、なんてそんな初めの気持ちはもうとっくになかった。
むしろ今の蒼音にとって茜音は、唯一無二の妹のような存在に変化していたのだ。
だからこそ最善の方法を探したかった。
『みんなどうちたの?
何をするの?あたちどうなるの?』
三人の話を間近で聞いた茜音は、不安を隠せないようだった。
自分は今のままで十分なのに、何かを暴かれ、さぐられるようで不安なのだ。
「心配ないんだよ茜音。
茜音の嫌がることはしないよ。
茜音がこれから安心できるように、もし何か思い出したら、僕に教えてほしいんだ。
記憶を取り戻すことは、きっと茜音のためになると思うから。
茜音にはいつも笑っていて欲しいから」
茜音の不安を取り除くように、蒼音はできるだけ優しくそう伝えた。
誰しも、変化することに不安を覚えるのは仕方のないことだ。
順応していた環境に慣れてしまうと、そこから一歩踏み出すのは誰のうえにとっても勇気が要ること。
たとえそれがよい方向に向かっていたとしても、不安はつきものなのだ。
その殻を破ってこそ、別の見方で過去を振り返ることが可能だとしたら?
蒼音自身もそうだった。
自分を覆う固い殻を破って、仲間を得た今だからこそ、今までの自分を見つめ直すことができた。
明日になれば、今日の自分を振り返り反省する。
毎日をそうやって繰り返し、人は少しずつ成長してゆく生き物だとしたら?
昨日よりも今日、今日よりも明日。
未来が楽しいものであればいい。
明日もあさっても笑顔でいられることが、今の自分にとって何よりも大切な願いだった。
『うん、あたちも笑っていたい。
蒼音が笑っていると、あたちも嬉ちいから、あたち言うとおりにする。
想い出ちたら教えるね』
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