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記憶の欠片_かけら_
アルバムの中
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「え?
僕の転校前の写真?
え・・・・恥ずかしいな。
それにたいして面白くもないよ」
蒼音は少しひるんでしまった。
友達が少なかったせいもあって、学校生活の写真はあまりなかった。
あるとしたら、家族写真が多かった。
「・・・・まあ、おばあちゃんちの近くに住んでた頃の写真なら、人様に見せられるかな。
少しだけど見てみる?
たいした写真じゃないよ」
そう付け加えておいて、蒼音は渋々アルバムを取り出した。
「これごく一部だよ。
でも恥ずかしいな、小さい頃を見られるなんて」
「無理いってごめんね。
でも知りたかったの。
あたしなんて生まれてからずっとこの街で暮らして、あんまり旅行とか行ったことないもん。
だからすごく興味があったの」
琴音はゆっくりとアルバムをめくった。
三人はアルバムに集まり、蒼音のたくさんの想い出に寄り添った。
こうして久しぶりに、自分のアルバムをしげしげ眺めていると、両親は結構いろいろなところに自分を連れて行ってくれたのだな・・・
とあらためて感じた。
蒼音が小さい頃は母もまだ専業主婦であり、彼は母の愛情を独り占めしてすくすくと健康に育ててもらった。
一人っ子ということもあり、いつも両脇には両親がいて、大切に育ててもらったのだ。
「すげえ、これ外国だよな?
どこの国?」
涼介が食いついた写真は、家族で海外旅行をした時のものだ。
「それ、台北だよ。
そんなに遠くないよ、飛行機で三、四時間くらいなんだって。
実は僕、その時小さかったから旅行のことあんまり覚えていなんだ。
お母さん専業主婦のころ、アジアドラマにはまってたみたいで、家族で行こうって、二泊三日だけ。
外国はそれだけだよ。
あとはおばあちゃんちの近所で地味~に暮らしてたよ。
住宅資金貯めるために、だってさ」
「でもいいな、園田君色々なところに行ったり住んだりしたのね。
羨ましいな」
琴音があんまり羨むので、そんなものなのかな?と蒼音にとっては意外だった。
(色々な所に行ったことすっかり忘れていたけど、僕って案外恵まれていたのかな?
お父さんとお母さんにいつも守られて、愛情を独り占めして、いろんなものを買ってもらい、連れて行ってもらい、十分に可愛がってもらえたんだな)
「あ、これ園田君のおばあちゃん?
すごく優しそうなおばあちゃんね。
園田君にそっくり」
「わ、本当だ似てる。
園田君のおばあちゃんって兵庫県だっけ?
のどかな所だな。
山が近いね。
景色も綺麗だなー」
琴音と涼介はあれこれ詮索しながら、珍しい背景写真に引き込まれていた。
「うん、いいところだよ。
おばあちゃん一人で畑やりながら暮らしてるんだ。
おじいちゃんは、僕が生まれるずっと前に死んじゃったから。
原付バイクの乗りこなして、一人で頑張ってるスーパーおばあちゃんだよ」
こうやって三人で写真を眺めていると、蒼音も次第に心がほぐれ、懐かしさがこみ上げてきた。
「これは?
みんなで撮った写真ね」
琴音が指したのは、何かの記念に撮った一枚だろうか。
おばあちゃん、そしてお母さんとお父さんの間に幼い蒼音がちょこんと立っている。
隣には小町も写っている。
「あ、これね。確か・・・・・
えっと・・・・
引越しの日の写真だったかな。
確か、おばあちゃんちの近くに住んでた僕達家族が、お父さんの転勤で引越しすることになった日の写真だよ。
僕はまだ小さかったから、あんまり覚えていないんだよね」
「へえ・・・・
そうなんだ。
でもね、園田君?よく見てここ・・・
これ茜音ちゃんじゃない?」
「・・・・え?」
琴音が指摘した箇所を、蒼音は恐る恐る、食い入るように見つめた。
今まで気がつかなかった。
いや、今だからこそ視えるようになったのだろうか?
確かに、この家族写真の中央に茜音の姿が写っている。
両親の間に立つ蒼音のすぐ右の隙間に、茜音がにっこり笑って顔をのぞかせていた。
「わっ!本当だ!
これ茜音だよ・・・
ね?
どう見ても茜音だよね?
え?
それとも、おばあちゃんの近所にこんな子いたかな
・・・???
いや、やっぱり茜音だ。
赤い和服着たおかっぱ頭の女の子だ。
茜音だ!」
ちょっと怖かった。
というのが正直な気持ちだった。
しかしありえないことでもなかった。
なにしろ茜音は、蒼音にとり憑く幽霊なのだから。
写真に写りこんでいたとしても、今となっては不思議なことではなかった。
「ね、そうでしょう?
茜音ちゃんだよね。
それにしても茜音ちゃんて、園田君の小さいころにそっくりだね。
園田君が小さな頃から、ずっと守護霊として守ってくれたのね」
幽霊を見ることに慣れていた琴音は、さもないように、いい意味でそう教えてくれたのだ。
「・・・・・・
あのさ、俺からも一つ言っていい」
ふと同じ話の輪にいる涼介を見ると、彼の顔はどことなく青ざめているではないか。
「あのさ、俺にも視えるよ。
写真に写っている茜音の姿が・・・・
これだよね。
これが、茜音なんだよね。
いや・・・
こんな姿の女の子だったとはね」
涼介は写真の中の茜音を指差した。
「えー!
菅沼君にも、写真の茜音が視えるんだ!
すごい!」
蒼音は驚いた。
茜音が写っていることも驚きだが、涼介にもそれが視える、というのが嬉しい驚きだった。
「でもこれって・・・
俗にいう、心霊写真だよな。
なんかすげえな・・・・
いや、写真に写るのが視えるより、実際の幽霊を視るっていう方がすごいんだろうけどさ。
ただ、この俺にも視えるからびっくりしたよ。
けど確かに、可愛い幽霊だよな、うん、あんまり怖い感じがしないね」
三人のすぐそばで煎餅をかじる、当の本人茜音は、自分のことが話題にあがっているとは思わず、もくもくと煎餅を味わっていた。
蒼音は、すぐ隣でおやつを食べている茜音と、写真の茜音を見比べて思案した。
「うーん、やっぱり間違いないよね。
この写真に写っているのは茜音だね」
妙に納得していた蒼音をよそに、琴音だけは何かしら思うところがあるようだった。
「ねえ園田君・・・・
茜音ちゃんが隣にいる場所で言うのも変だけど・・・
茜音ちゃんのことなんだけどね」
「ん?
茜音がどうかしたの桜井さん?」
僕の転校前の写真?
え・・・・恥ずかしいな。
それにたいして面白くもないよ」
蒼音は少しひるんでしまった。
友達が少なかったせいもあって、学校生活の写真はあまりなかった。
あるとしたら、家族写真が多かった。
「・・・・まあ、おばあちゃんちの近くに住んでた頃の写真なら、人様に見せられるかな。
少しだけど見てみる?
たいした写真じゃないよ」
そう付け加えておいて、蒼音は渋々アルバムを取り出した。
「これごく一部だよ。
でも恥ずかしいな、小さい頃を見られるなんて」
「無理いってごめんね。
でも知りたかったの。
あたしなんて生まれてからずっとこの街で暮らして、あんまり旅行とか行ったことないもん。
だからすごく興味があったの」
琴音はゆっくりとアルバムをめくった。
三人はアルバムに集まり、蒼音のたくさんの想い出に寄り添った。
こうして久しぶりに、自分のアルバムをしげしげ眺めていると、両親は結構いろいろなところに自分を連れて行ってくれたのだな・・・
とあらためて感じた。
蒼音が小さい頃は母もまだ専業主婦であり、彼は母の愛情を独り占めしてすくすくと健康に育ててもらった。
一人っ子ということもあり、いつも両脇には両親がいて、大切に育ててもらったのだ。
「すげえ、これ外国だよな?
どこの国?」
涼介が食いついた写真は、家族で海外旅行をした時のものだ。
「それ、台北だよ。
そんなに遠くないよ、飛行機で三、四時間くらいなんだって。
実は僕、その時小さかったから旅行のことあんまり覚えていなんだ。
お母さん専業主婦のころ、アジアドラマにはまってたみたいで、家族で行こうって、二泊三日だけ。
外国はそれだけだよ。
あとはおばあちゃんちの近所で地味~に暮らしてたよ。
住宅資金貯めるために、だってさ」
「でもいいな、園田君色々なところに行ったり住んだりしたのね。
羨ましいな」
琴音があんまり羨むので、そんなものなのかな?と蒼音にとっては意外だった。
(色々な所に行ったことすっかり忘れていたけど、僕って案外恵まれていたのかな?
お父さんとお母さんにいつも守られて、愛情を独り占めして、いろんなものを買ってもらい、連れて行ってもらい、十分に可愛がってもらえたんだな)
「あ、これ園田君のおばあちゃん?
すごく優しそうなおばあちゃんね。
園田君にそっくり」
「わ、本当だ似てる。
園田君のおばあちゃんって兵庫県だっけ?
のどかな所だな。
山が近いね。
景色も綺麗だなー」
琴音と涼介はあれこれ詮索しながら、珍しい背景写真に引き込まれていた。
「うん、いいところだよ。
おばあちゃん一人で畑やりながら暮らしてるんだ。
おじいちゃんは、僕が生まれるずっと前に死んじゃったから。
原付バイクの乗りこなして、一人で頑張ってるスーパーおばあちゃんだよ」
こうやって三人で写真を眺めていると、蒼音も次第に心がほぐれ、懐かしさがこみ上げてきた。
「これは?
みんなで撮った写真ね」
琴音が指したのは、何かの記念に撮った一枚だろうか。
おばあちゃん、そしてお母さんとお父さんの間に幼い蒼音がちょこんと立っている。
隣には小町も写っている。
「あ、これね。確か・・・・・
えっと・・・・
引越しの日の写真だったかな。
確か、おばあちゃんちの近くに住んでた僕達家族が、お父さんの転勤で引越しすることになった日の写真だよ。
僕はまだ小さかったから、あんまり覚えていないんだよね」
「へえ・・・・
そうなんだ。
でもね、園田君?よく見てここ・・・
これ茜音ちゃんじゃない?」
「・・・・え?」
琴音が指摘した箇所を、蒼音は恐る恐る、食い入るように見つめた。
今まで気がつかなかった。
いや、今だからこそ視えるようになったのだろうか?
確かに、この家族写真の中央に茜音の姿が写っている。
両親の間に立つ蒼音のすぐ右の隙間に、茜音がにっこり笑って顔をのぞかせていた。
「わっ!本当だ!
これ茜音だよ・・・
ね?
どう見ても茜音だよね?
え?
それとも、おばあちゃんの近所にこんな子いたかな
・・・???
いや、やっぱり茜音だ。
赤い和服着たおかっぱ頭の女の子だ。
茜音だ!」
ちょっと怖かった。
というのが正直な気持ちだった。
しかしありえないことでもなかった。
なにしろ茜音は、蒼音にとり憑く幽霊なのだから。
写真に写りこんでいたとしても、今となっては不思議なことではなかった。
「ね、そうでしょう?
茜音ちゃんだよね。
それにしても茜音ちゃんて、園田君の小さいころにそっくりだね。
園田君が小さな頃から、ずっと守護霊として守ってくれたのね」
幽霊を見ることに慣れていた琴音は、さもないように、いい意味でそう教えてくれたのだ。
「・・・・・・
あのさ、俺からも一つ言っていい」
ふと同じ話の輪にいる涼介を見ると、彼の顔はどことなく青ざめているではないか。
「あのさ、俺にも視えるよ。
写真に写っている茜音の姿が・・・・
これだよね。
これが、茜音なんだよね。
いや・・・
こんな姿の女の子だったとはね」
涼介は写真の中の茜音を指差した。
「えー!
菅沼君にも、写真の茜音が視えるんだ!
すごい!」
蒼音は驚いた。
茜音が写っていることも驚きだが、涼介にもそれが視える、というのが嬉しい驚きだった。
「でもこれって・・・
俗にいう、心霊写真だよな。
なんかすげえな・・・・
いや、写真に写るのが視えるより、実際の幽霊を視るっていう方がすごいんだろうけどさ。
ただ、この俺にも視えるからびっくりしたよ。
けど確かに、可愛い幽霊だよな、うん、あんまり怖い感じがしないね」
三人のすぐそばで煎餅をかじる、当の本人茜音は、自分のことが話題にあがっているとは思わず、もくもくと煎餅を味わっていた。
蒼音は、すぐ隣でおやつを食べている茜音と、写真の茜音を見比べて思案した。
「うーん、やっぱり間違いないよね。
この写真に写っているのは茜音だね」
妙に納得していた蒼音をよそに、琴音だけは何かしら思うところがあるようだった。
「ねえ園田君・・・・
茜音ちゃんが隣にいる場所で言うのも変だけど・・・
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