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記憶の欠片_かけら_
盛夏
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蒼音たちは翌日から町内のラジオ体操に参加したり、虫捕りに興じたり、時には涼介が他の男子たちが遊ぶ公園に連れて行ってくれた。
大勢で鬼ごっこをしたり、サッカーをしたり、遊具の上で持ってきたゲームをしたりした。
仲間同士で遊ぶのは本当に楽しかった。
一日二十四時間が、こんなにも早く過ぎてしまうなんて、もったいない気がした。
これまでの、孤独に埋もれる日々を埋めるように、充実した夏休みを体験していた。
まるで茜音が幸運を運んでくれたような、蒼音にはそんな気がしていた。
茜音が現れてから、自分の人生は好転に向かっていることは確かだった。
そうやって、クラスの他の子達とも、少しずつ交流を持てるようになっていった。
はじめは遠慮がちだった他の子も、涼介を介して、次第に蒼音に打ち解けてくれた。
涼介や琴音のおかげで友達の輪が広がりつつあった。
もちろん、秘密を分かちあう四人だけで遊ぶこともあり、そんな時は茜音も会話に加わることができたし、安心して楽しむことができた。
八月に入った盛夏のある昼下がり・・・・
三人は蒼音の部屋にいた。
母の許可を得て、両親が仕事に行っている間、蒼音は琴音と涼介を家に招くことにした。
クラスメイトを家に招待するなど、彼にとっては人生初めての経験なのだ。
友達が自分の家に遊びにくる。
そんな日がまさか来ようなど、本人自身が一番驚いていた。
蒼音は内心緊張していたけれど、息子の初めてのお客様に粗相のないようにと、母が教えてくれたとおり座布団を出してエアコンを効かせて、そしてジュースと煎餅を振舞うことにした。
「おじゃまします。
わあ、園田君のおうちって素敵ね。
新築だから木の香りが残っていていいね。
それに天窓も吹き抜けもあって素敵だな~。
いいな一軒家は庭もあって広くて。
それに猫も飼えるんだね。
あたし結婚したらマンションじゃなくて絶対こういうおうちに住もうっと。
白くて可愛い猫ちゃんだね」
「ミャーン・・・・・」
玄関にあがると、擦り寄ってきた小町を撫でながら、琴音は素直に感じたまま家を褒めてくれた。
「ありがと・・・・
その猫は小町っていうんだ。
もうおばあさん猫なんだよ」
「いいな~エアコン付きの一人部屋かよ。
俺なんて一年生の妹と二人部屋だぜ。
うわっ!
これ天体望遠鏡だよな!すげえ大きくて本格的だな」
蒼音の部屋に入るなり、涼介は物珍しそうに部屋全体を物色していた。
友人に自室を品定めされるというのは、なんともいえず恥ずかしい気分なんだな、蒼音は初めての感覚を味わっていた。
「あ、それお父さんのだよ。
今は僕が借りてるだけ。
僕のは、去年の誕生日にもらったその双眼鏡だよ。
あんまり片付けてないから、隅々までは見ないでね。
恥ずかしいからさっ。
それより、どうぞ座って。
外暑かったろ、ジュースでも飲んでくつろいでよ」
「あ、ありがとうおかまいなく園田君。
これ、渡しそびれてごめんね。
うちのお母さんがみんなで召し上がれって、スーパーの駄菓子だけど。よかったらどうぞ」
「わ、ありがとう。
かえって気つかわせちゃたね」
持ちつ持たれつ・・・
人のお宅を行き来するとはこういうことなのか、と蒼音はまたしても世の中の道理に感心していた。
「そういえば、園田君の誕生日はいつだったの?
あたしは五月二十日だからもう終わちゃったけど、牡牛座だよ」
「俺は四月六日、新学年になった時点で、いつも他のやつらより年寄りなのが嫌だけどな」
琴音も涼介も、蒼音が転校してくる前に十歳の誕生日を迎えていた。
「そうなんだ、みんなはもう十歳なのか・・・
僕は九月一八日だから来月だよ。
僕が生まれた日は中秋だって聞いたかな」
「園田君来月なのね。誕生日楽しみね。
中秋の名月って、お月見のこと?」
琴音はカレンダーを見た。
「うん、お月見は毎年変わるらしいんだけど、今年はいつなんだろう?
僕の誕生日が終わってからかな」
「園田君って天体に詳しいのね。
望遠鏡があるくらいだから好きなのね」
「そ、そうでもないよ。ただ、夜空を眺めるのが好きなだけだよ。詳しくはないよ。
ほら僕、引越し続きですることなくって、いつも一人で夜空ばっかり見上げてたから」
「ふうん、なんか詩人みたいだな園田君って。
一人夜空を眺めて時間を潰すか。
男のロマンだな~
てういうか、この煎餅すごい美味しいね。
初めて食べる味だな」
会話に加わりながらも、涼介は出された煎餅を何枚も口にほおばっていた。
「うん、この煎餅美味しいんだ。
茜音も大好きなんだよ。
おばあちゃんちの近くに売ってる温泉煎餅なんだ。
温泉水で練ってるんだって。
僕も大好きなんだ。
桜井さんも食べてみてね。
ほら茜音も遠慮しないでお食べよ」
『うんありがと。
あたちも大好きだよこの煎餅』
蒼音は、琴音の隣にちょこんと座る茜音にも煎餅を渡してやった。
その何気ない様子を間近で見ていた涼介は、食い入るように見つめていた。
「う、うわー・・・・・・・
煎餅が宙に浮いてるよ!
ほら、見てみろよ琴音」
茜音の姿が未だに視えない涼介の目には、茜音が食べる煎餅のカリカリした音こそ聞こえども、その全容は視えない。
「え?
そう言われても、あたしにはちゃんとした姿が視えるから・・・
けどそうよね、涼介からはそんな風に視えるのね。
不思議だね」
「うわ・・・・
わわわ・・・
煎餅が消えちゃった。
茜音の腹の中に収まったんだな。
すげえ!」
まるでマジックを観せられたように涼介は興奮していた。
「あはは、涼介から見たら、さぞかし不思議だろうね。
煎餅しか見えないものね。
ね、それより園田君、もしよかったら園田君の小さい頃の写真とか見せて欲しいな。
あたしと涼介はマンションも同じ階で、昔からお互いによく知っているけど、園田君の転校前の暮らしとか気になるな。
どんな感じだったのかな?」
深い意味はなかった。
琴音はなにげなくそんな話を切り出した。
大勢で鬼ごっこをしたり、サッカーをしたり、遊具の上で持ってきたゲームをしたりした。
仲間同士で遊ぶのは本当に楽しかった。
一日二十四時間が、こんなにも早く過ぎてしまうなんて、もったいない気がした。
これまでの、孤独に埋もれる日々を埋めるように、充実した夏休みを体験していた。
まるで茜音が幸運を運んでくれたような、蒼音にはそんな気がしていた。
茜音が現れてから、自分の人生は好転に向かっていることは確かだった。
そうやって、クラスの他の子達とも、少しずつ交流を持てるようになっていった。
はじめは遠慮がちだった他の子も、涼介を介して、次第に蒼音に打ち解けてくれた。
涼介や琴音のおかげで友達の輪が広がりつつあった。
もちろん、秘密を分かちあう四人だけで遊ぶこともあり、そんな時は茜音も会話に加わることができたし、安心して楽しむことができた。
八月に入った盛夏のある昼下がり・・・・
三人は蒼音の部屋にいた。
母の許可を得て、両親が仕事に行っている間、蒼音は琴音と涼介を家に招くことにした。
クラスメイトを家に招待するなど、彼にとっては人生初めての経験なのだ。
友達が自分の家に遊びにくる。
そんな日がまさか来ようなど、本人自身が一番驚いていた。
蒼音は内心緊張していたけれど、息子の初めてのお客様に粗相のないようにと、母が教えてくれたとおり座布団を出してエアコンを効かせて、そしてジュースと煎餅を振舞うことにした。
「おじゃまします。
わあ、園田君のおうちって素敵ね。
新築だから木の香りが残っていていいね。
それに天窓も吹き抜けもあって素敵だな~。
いいな一軒家は庭もあって広くて。
それに猫も飼えるんだね。
あたし結婚したらマンションじゃなくて絶対こういうおうちに住もうっと。
白くて可愛い猫ちゃんだね」
「ミャーン・・・・・」
玄関にあがると、擦り寄ってきた小町を撫でながら、琴音は素直に感じたまま家を褒めてくれた。
「ありがと・・・・
その猫は小町っていうんだ。
もうおばあさん猫なんだよ」
「いいな~エアコン付きの一人部屋かよ。
俺なんて一年生の妹と二人部屋だぜ。
うわっ!
これ天体望遠鏡だよな!すげえ大きくて本格的だな」
蒼音の部屋に入るなり、涼介は物珍しそうに部屋全体を物色していた。
友人に自室を品定めされるというのは、なんともいえず恥ずかしい気分なんだな、蒼音は初めての感覚を味わっていた。
「あ、それお父さんのだよ。
今は僕が借りてるだけ。
僕のは、去年の誕生日にもらったその双眼鏡だよ。
あんまり片付けてないから、隅々までは見ないでね。
恥ずかしいからさっ。
それより、どうぞ座って。
外暑かったろ、ジュースでも飲んでくつろいでよ」
「あ、ありがとうおかまいなく園田君。
これ、渡しそびれてごめんね。
うちのお母さんがみんなで召し上がれって、スーパーの駄菓子だけど。よかったらどうぞ」
「わ、ありがとう。
かえって気つかわせちゃたね」
持ちつ持たれつ・・・
人のお宅を行き来するとはこういうことなのか、と蒼音はまたしても世の中の道理に感心していた。
「そういえば、園田君の誕生日はいつだったの?
あたしは五月二十日だからもう終わちゃったけど、牡牛座だよ」
「俺は四月六日、新学年になった時点で、いつも他のやつらより年寄りなのが嫌だけどな」
琴音も涼介も、蒼音が転校してくる前に十歳の誕生日を迎えていた。
「そうなんだ、みんなはもう十歳なのか・・・
僕は九月一八日だから来月だよ。
僕が生まれた日は中秋だって聞いたかな」
「園田君来月なのね。誕生日楽しみね。
中秋の名月って、お月見のこと?」
琴音はカレンダーを見た。
「うん、お月見は毎年変わるらしいんだけど、今年はいつなんだろう?
僕の誕生日が終わってからかな」
「園田君って天体に詳しいのね。
望遠鏡があるくらいだから好きなのね」
「そ、そうでもないよ。ただ、夜空を眺めるのが好きなだけだよ。詳しくはないよ。
ほら僕、引越し続きですることなくって、いつも一人で夜空ばっかり見上げてたから」
「ふうん、なんか詩人みたいだな園田君って。
一人夜空を眺めて時間を潰すか。
男のロマンだな~
てういうか、この煎餅すごい美味しいね。
初めて食べる味だな」
会話に加わりながらも、涼介は出された煎餅を何枚も口にほおばっていた。
「うん、この煎餅美味しいんだ。
茜音も大好きなんだよ。
おばあちゃんちの近くに売ってる温泉煎餅なんだ。
温泉水で練ってるんだって。
僕も大好きなんだ。
桜井さんも食べてみてね。
ほら茜音も遠慮しないでお食べよ」
『うんありがと。
あたちも大好きだよこの煎餅』
蒼音は、琴音の隣にちょこんと座る茜音にも煎餅を渡してやった。
その何気ない様子を間近で見ていた涼介は、食い入るように見つめていた。
「う、うわー・・・・・・・
煎餅が宙に浮いてるよ!
ほら、見てみろよ琴音」
茜音の姿が未だに視えない涼介の目には、茜音が食べる煎餅のカリカリした音こそ聞こえども、その全容は視えない。
「え?
そう言われても、あたしにはちゃんとした姿が視えるから・・・
けどそうよね、涼介からはそんな風に視えるのね。
不思議だね」
「うわ・・・・
わわわ・・・
煎餅が消えちゃった。
茜音の腹の中に収まったんだな。
すげえ!」
まるでマジックを観せられたように涼介は興奮していた。
「あはは、涼介から見たら、さぞかし不思議だろうね。
煎餅しか見えないものね。
ね、それより園田君、もしよかったら園田君の小さい頃の写真とか見せて欲しいな。
あたしと涼介はマンションも同じ階で、昔からお互いによく知っているけど、園田君の転校前の暮らしとか気になるな。
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