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朱夏
追想
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「さあ、待たせたね茜音。
このおむすびは茜音の分だよ。
だからここで食べてもいいんだよ」
『え?あたちが全部食べていいの?
いいの?蒼音』
突然のご褒美に茜音は嬉しさを隠せない。
「うんいいんだよ、さあおあがり。
この前の遠足の時はありがとう茜音。
僕のせいでみんなを危険な目に遭わせてしまい、茜音にも随分助けられたよ。
それなのに、お弁当の時、茜音におむすびを分けてあげられなかったから・・・
あの時、お母さん特性のおむすびを茜音にも食べさせてやりたい!って考えてたんだ。
だから食べてみてよ」
『うん!いただきます』
茜音は大きなおむすびを両手で掴んで、あんぐり口を開けてかぶりついた。
米粒を口の周りにつけながら、むしゃむしゃと一生懸命にかぶりついた。
「どう?美味しい?」
『おいちい!とってもおいちい!
ほっぺが落ちそう』
茜音は満足した顔で一心不乱におむすびを食べた。
「よかった。
このおむすびのお米はね、時バアが田舎で作っているお米なんだよ。
いつも送ってくれるんだ。
茜音は稲穂って知ってるか?」
おむすびを食べることに夢中で、返事もできない茜音に構わず蒼音は続けた。
「僕もあまり覚えていないけど、本に書いてあるのを読んだりすると、稲穂ってね、お米なんだよ
田んぼに植えた稲が大きく育って、緑色から黄金色に熟すんだよ。お米が実ると、その重みで稲穂の頭が垂れるんだよ。
なんとなく覚えてるよ。
時バアの田んぼは、そんなに大きくはなかったな・・・
家庭用に植えてるだけだから、たくさんのお米は採れないけど、周りは近所の人の田んぼに囲まれていたからね。
懐かしいな、黄金色の稲穂の海。
いつか茜音にも見せてあげたい・・・・」
あっというまにおむすびを完食した茜音は、満足げに手を合わせた。
『ごちそうさまでちた』
「お腹いっぱいになったろう茜音。
お母さんのおむすびは大きいから」
『うんおいちかった。
あたちおむすび大好き!
ありがとう蒼音、蒼音もやさちいから大好きだよ』
「う、うん・・・それは良かったね。
じゃあ明日はお味噌汁も味見させてやるよ。
湯豆腐のお味噌汁は美味しいんだよ」
ストレートな茜音の言葉は、いつも蒼音を戸惑わせるのだ。
子供らしい素直な反応は、時に照れくさく彼を喜ばせた。
『ねえ蒼音・・・
蒼音は昔にかえりたいのか?
昔がよかったのか?』
さきほどの話しを聞いていた茜音は、唐突にそんなことを聞いてきた。
「え?僕が昔に還りたいかって?
茜音にはそういう風に聞こえるんだ。
僕が昔に戻りたいと願ってるって、感じたのか・・・
どうだろう?
んーそういう訳でもないんだよ」
茜音に真相を突かれて蒼音は困った。
ことあるごとに、幼い時分を懐かしむ彼を見ていた茜音は、蒼音が過去にこだわる真意がわからなかった。
「僕は今、満たされているよ。
多分以前の僕とは違うはずだ。
ううん、違う僕でありたいと願っている。
でも、誰しも心の古里というか、還りたい場所というのかな、そういうものが一つはあると思うんだ。
小さい茜音にはわからないかな?」
あまり深い意味もなく、蒼音は茜音にそう説明してあげた。
ここ最近、あまりにも茜音が身近にいるためか、彼女が生身の人間ではない。
ということを忘れてしまうことがよくある。
それを忘れてしまい、つい自分本位、人間本位で語ってしまうことが多かった。
『心のふるさと・・・?
あたちにもあるのかな?』
茜音はぽつりと呟いた。
「茜音?あ、そうか・・・・
茜音には記憶が無かったね。
僕にとり憑いている理由もわからないんだったね。
ごめん茜音。
けど、なんにも思い出せないの?
少しでも記憶は残っていないの?」
蒼音はできるだけ優しく茜音を尋問してみた。
つかの間押し黙ってしまった茜音は、何か思い出したように断片的に呟いた。
『・・・・・稲穂・・・稲穂。
黄金色の・・・
夕焼け小焼け・・・』
「茜音?
何か記憶が繋がったの?
稲穂って・・・?」
『わからない。
あたち想い出せない。
でも蒼音のそばにずっといた。
あたち蒼音とずっと一緒だった・・・』
茜音はそう言ったきり、口をつぐんでしまった。
「いいんだよ茜音。
ごめんね無理に思い出させようとして、ごめんね。
何も思い出せなくてもいんだよ。
そのうち何か思い出せる時が来るかもしれないから。
それまでは僕のそばにいてもいいんだよ。
茜音には僕もいるし、ほら小町もいるからね。
安心してここにいてもいいんだよ」
少ししょんぼりする茜音を不憫に感じ、蒼音は胸がチクリと痛んだ。
今は・・・
せめてこうやって、茜音に寄り添い慰めてやることしか出来なかった。
このおむすびは茜音の分だよ。
だからここで食べてもいいんだよ」
『え?あたちが全部食べていいの?
いいの?蒼音』
突然のご褒美に茜音は嬉しさを隠せない。
「うんいいんだよ、さあおあがり。
この前の遠足の時はありがとう茜音。
僕のせいでみんなを危険な目に遭わせてしまい、茜音にも随分助けられたよ。
それなのに、お弁当の時、茜音におむすびを分けてあげられなかったから・・・
あの時、お母さん特性のおむすびを茜音にも食べさせてやりたい!って考えてたんだ。
だから食べてみてよ」
『うん!いただきます』
茜音は大きなおむすびを両手で掴んで、あんぐり口を開けてかぶりついた。
米粒を口の周りにつけながら、むしゃむしゃと一生懸命にかぶりついた。
「どう?美味しい?」
『おいちい!とってもおいちい!
ほっぺが落ちそう』
茜音は満足した顔で一心不乱におむすびを食べた。
「よかった。
このおむすびのお米はね、時バアが田舎で作っているお米なんだよ。
いつも送ってくれるんだ。
茜音は稲穂って知ってるか?」
おむすびを食べることに夢中で、返事もできない茜音に構わず蒼音は続けた。
「僕もあまり覚えていないけど、本に書いてあるのを読んだりすると、稲穂ってね、お米なんだよ
田んぼに植えた稲が大きく育って、緑色から黄金色に熟すんだよ。お米が実ると、その重みで稲穂の頭が垂れるんだよ。
なんとなく覚えてるよ。
時バアの田んぼは、そんなに大きくはなかったな・・・
家庭用に植えてるだけだから、たくさんのお米は採れないけど、周りは近所の人の田んぼに囲まれていたからね。
懐かしいな、黄金色の稲穂の海。
いつか茜音にも見せてあげたい・・・・」
あっというまにおむすびを完食した茜音は、満足げに手を合わせた。
『ごちそうさまでちた』
「お腹いっぱいになったろう茜音。
お母さんのおむすびは大きいから」
『うんおいちかった。
あたちおむすび大好き!
ありがとう蒼音、蒼音もやさちいから大好きだよ』
「う、うん・・・それは良かったね。
じゃあ明日はお味噌汁も味見させてやるよ。
湯豆腐のお味噌汁は美味しいんだよ」
ストレートな茜音の言葉は、いつも蒼音を戸惑わせるのだ。
子供らしい素直な反応は、時に照れくさく彼を喜ばせた。
『ねえ蒼音・・・
蒼音は昔にかえりたいのか?
昔がよかったのか?』
さきほどの話しを聞いていた茜音は、唐突にそんなことを聞いてきた。
「え?僕が昔に還りたいかって?
茜音にはそういう風に聞こえるんだ。
僕が昔に戻りたいと願ってるって、感じたのか・・・
どうだろう?
んーそういう訳でもないんだよ」
茜音に真相を突かれて蒼音は困った。
ことあるごとに、幼い時分を懐かしむ彼を見ていた茜音は、蒼音が過去にこだわる真意がわからなかった。
「僕は今、満たされているよ。
多分以前の僕とは違うはずだ。
ううん、違う僕でありたいと願っている。
でも、誰しも心の古里というか、還りたい場所というのかな、そういうものが一つはあると思うんだ。
小さい茜音にはわからないかな?」
あまり深い意味もなく、蒼音は茜音にそう説明してあげた。
ここ最近、あまりにも茜音が身近にいるためか、彼女が生身の人間ではない。
ということを忘れてしまうことがよくある。
それを忘れてしまい、つい自分本位、人間本位で語ってしまうことが多かった。
『心のふるさと・・・?
あたちにもあるのかな?』
茜音はぽつりと呟いた。
「茜音?あ、そうか・・・・
茜音には記憶が無かったね。
僕にとり憑いている理由もわからないんだったね。
ごめん茜音。
けど、なんにも思い出せないの?
少しでも記憶は残っていないの?」
蒼音はできるだけ優しく茜音を尋問してみた。
つかの間押し黙ってしまった茜音は、何か思い出したように断片的に呟いた。
『・・・・・稲穂・・・稲穂。
黄金色の・・・
夕焼け小焼け・・・』
「茜音?
何か記憶が繋がったの?
稲穂って・・・?」
『わからない。
あたち想い出せない。
でも蒼音のそばにずっといた。
あたち蒼音とずっと一緒だった・・・』
茜音はそう言ったきり、口をつぐんでしまった。
「いいんだよ茜音。
ごめんね無理に思い出させようとして、ごめんね。
何も思い出せなくてもいんだよ。
そのうち何か思い出せる時が来るかもしれないから。
それまでは僕のそばにいてもいいんだよ。
茜音には僕もいるし、ほら小町もいるからね。
安心してここにいてもいいんだよ」
少ししょんぼりする茜音を不憫に感じ、蒼音は胸がチクリと痛んだ。
今は・・・
せめてこうやって、茜音に寄り添い慰めてやることしか出来なかった。
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