稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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鼓動

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「でもさ、こうやってみんなと出会えて、秘密も共有できたし、僕は今充実してるよ。
なんでもどんと来いだよ!

だろう菅沼君?

僕の秘密を知って、やっぱり気味悪くなった?
友達宣言したこと早まったと思ってる?」
蒼音はおそるおそる、涼介の本音を聞き出そうとした。

「そんなわけないよ。
そんなことで友達やめるなんて言ってたら、一生友達なんかできないぞ

園田君は今、勇気を振り絞って俺に秘密を明かしてくれたんだから、俺は嬉しいよ。
幽霊はちょっと怖いけど、俺たちを助けてくれたわけだし、感謝してるよ。

おい聞こえてるか?茜音だっだよな。

俺のこと呼び捨てにしたんだから、俺も呼び捨てにさせてもらうぞ。

俺、茜音の姿形は視えないけど、声だけは聞こえるんだ。
何故かね。

だからお互い話すことはできるわけだ。
だから言わせてもらうよ。

俺たちを助けてくれてありがとう」

涼介は減らず口をたたきながも、きちんと茜音と向き合ってくれた。
たとえ相手が幽霊であろうとも、折り目正しい彼は筋を通してくれた。

「菅沼君・・・・ありがとう。
茜音にそう言ってくれてありがとう。
僕感動だよ。
君ってやつは本当にかっこいいよ」

蒼音は涼介の男気に脱帽した。

『涼介、あたちからもありがとう。
蒼音今までさみちかった。
だから、蒼音とお友達になってくれてありがとう。
蒼音のことよろちくね』

涼介の優しさに触れ、茜音も心を開いてくれた。

「涼介、多分あたしの影響だよ。
園田君の時もそうだったけど、茜音ちゃんの声が聞こえるようになったのは、霊感のあるあたしの近くにいたからだよ。
誰でも視えるわけじゃないだろうけど、多分ね。なんとなくそう思うの。

あたしの霊感が与える影響は、そのきっかけに過ぎないと思うの。
だから、涼介が心を寄せれば、きっと茜音ちゃんの姿も視えるようになるはずだよ。

茜音ちゃん、ものすごく可愛い小さな女の子なんだよ。
幽霊だって忘れるくらいにね」

琴音はそういって涼介をフォローしてくれたのだ。

「俺、別に・・・

茜音の姿が視えないからってすねたりしないぞ。
ただ、二人みたいに視えれば面白いかなって、動機は不純なんだぞ」

「ううん、それでも茜音のこと、怖がらないで話しかけてくれたんだもん。
菅沼君はやっぱり出来た人間だよ。
うん。僕泣けてきそうだよ」

泣き上戸の蒼音は、最近妙に涙腺がゆるくなっていた。

「おい泣くなよ園田君、勘弁してよ。
俺の前で泣くのこれで三回目だからね。
それより早く終わらせようぜ、ガラス拭き」

涼介は照れ隠しといわんばかりに、さっそくガラス拭きに精を出し始めた。

「ふふ、二人を見てるとおもしろーい。

ね、あたしの足が治ったら、いつかみんなで今度こそどんぐり山の山頂を目指さない?
御神木にもまた会いに行きたいし。
ね、いつかね」

琴音は未来にむけて目標を提案した。

同じ目標があれば、よりいっそう絆が強くなれる気がした。

「それいいね桜井さん。
それまでに僕もっと体力つけないと駄目かな」
「そうだな、俺も目指したいな、どんぐり山の天辺まで。
いつかみんなで登ろうぜ」

あの登山遠足の事件をきっかけに、茜音を含めた四人の中は急速に深まりつつあった。

この世の全てのことがらには、一つ一つ大事な意味が眠っているらしい。

良いことも悪いことも、一歩退いて、大きな視野で眺めれば、その真理は見えてくるかもしれない。

蒼音の心は今とても満たされていた。
母の思い遣りや、時バアの言葉、友達の存在、先生のおおらかさ、御神木のパワー・・・そして茜音の純真無垢な魂。

周囲は優しさで満ち溢れていた。

彼が意識しないところでも、もっと多くの優しさが存在していて、よい影響を与え合っていた。

自分が心を開けば、相手もそれにこたえてくれる。
そんな簡単なことに気がつけたこと・・・

それが嬉しかった。

もうすぐ夏休みが始まる。

蒼音の心はよりいっそう浮き足立っていた。
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