25 / 64
サンクチュアリ
聲 《こえ》
しおりを挟む
二人が駆けつける声が近寄ってきたとき、琴音と涼介は涙がこぼれるくらい感動した。
深い森の中に取り残されて心細かったのだ。
しかし、今泣いている暇はなかった。
大人の先生が助けにきてくれたおかげで、ほどなくして琴音は窪地から助けられ、蒼音が持参した絆創膏で、傷の応急措置をしてもらった。
着ているジャージのズボンは擦り切れて、破れている箇所もあった。
蒼音と涼介も自分の傷に絆創膏を貼り、顔や身体中貼りものだらけだった。
「それにしても、おまえ達こんなところまで転がってきたのか。
この禁足地にな・・・・」
先生は感嘆のため息を漏らして、目の前の御神木を見上げた。
「この椎の木はな、どんぐり山の親木らしい。
山全てとはいかないが、この木から落ちたどんぐりがまた椎の木になり、派生していったそうだ。
ここら一帯は鎮守の森でもあり、自然崇拝の象徴として、結構有名な御神木なんだぞ。
でも険しい山奥にあるから、普段なかなか人が近づけないんだ。
おまえたち、転がった先がここで幸運だったな」
先生は三人の方をむいてにんまり笑ってくれた。
三人はあらためて御神木を見上げた。
そこはサンクチュアリ。
精霊が宿ると伝わる御神木。
五百年も前からこの森で生き続け、これからもこの山を育み続けていく生命の源。
連なる梢や葉は、小鳥や虫達にとってかっこうの棲家になっているのだろう。
たくさんの生命を抱きしめていた。
小鳥たちにはここが禁足地であることも、御神木であることもわかっていない。
神の声も姿も視えないけれど、悠然たる巨体が大きな根を張り巡らし鎮座する。
ただそれだけで安心できる。
存在そのものが、畏怖の念を抱く象徴に値する。
(ありがとう精霊さん・・・・
僕達を見守っていてくれて、道を示してくれてありがとう)
蒼音は心の中でもう一度お礼を言った。
多分他の二人も同じ気持ちだったろう。
三人は名残惜しげに御神木を見つめた。
《・・・・・またおいで・・・・私はいつでもここで待っているから・・・・・》
「あれ?今の?」
「え?園田君にも聞こえたの?あたしも」
「お、俺も聞こえた。今の声ってもしかして?」
三人は顔を見合わせ、もう一度御神木を見上げた。
感動した。ものすごく感動した。
心に声を届けてくれたのだ。
先生の約束を守れなかった子達だけれど・・・
それでも頑張った三人の想いが伝わって、それに応えてくれたのだ。
「どうしたおまえたち?何が聞こえたって?」
先生はきょとんとして三人を見返していた。
少し休憩した後、足を捻挫した琴音を背負った先生を、男子二人が後ろから押して、一行はまた、山道に出る場所まで斜面を登っていくことになった。
「先生ごめんなさい。
こんなことになってしまって。
それに先生、下見の登山で筋肉痛になったんでしょう?
あたしを背負って大丈夫かな?」
琴音は心底反省している様子だった。
「大丈夫だよ桜井。先生普段から鍛えているからな。
おまえたちよりは何倍も体力はあるんだぞ」
「せ・・・先生!
あの・・・
桜井さんは悪くないんです。
悪いのは僕なんです。
僕が先頭に立って脇道に逸れて、そのうえドジをして、皆を巻き込んで滑り落ちちゃったんです。
だから僕を叱ってください。
煮るなり焼くなり、好きなように僕を懲らしめてください」
蒼音は矢面にたって皆をかばった。
「おい!自分だけかっこつけるなよ!
先生聞いてください!本当に悪いのは俺なんです。
俺がはじめに近道を提案したんです。
だから俺こそが一番悪いんです。
どうか俺を罰してください」
涼介も負けずに罪を被ろうとした。
お互いに罪のなすりつけ合いならぬ、罪の奪い合いをした。
「うむ・・・・
お前たちの言い分はわかった。
お前たちの友情がいかに固いかもよーくわかった。
よし!
なら罰は後日執行する。
追って沙汰するから控えておれ!」
五十嵐先生は時代劇のお裁きのつもりで、冗談まじりにそう言った。
「それよりも、後ろの二人・・・・
もうちょっと力をこめて下から押してくれないかな・・・・
やっぱり桜井を背負って登るのは膝がきついな~」
「あっ先生ごめんなさい!
あたしやっぱり重いかな?」
琴音は真っ赤になってうつむいてしまった。
茜音はそんな皆の様子を、後方から微笑みながら見守っていた。
深い森の中に取り残されて心細かったのだ。
しかし、今泣いている暇はなかった。
大人の先生が助けにきてくれたおかげで、ほどなくして琴音は窪地から助けられ、蒼音が持参した絆創膏で、傷の応急措置をしてもらった。
着ているジャージのズボンは擦り切れて、破れている箇所もあった。
蒼音と涼介も自分の傷に絆創膏を貼り、顔や身体中貼りものだらけだった。
「それにしても、おまえ達こんなところまで転がってきたのか。
この禁足地にな・・・・」
先生は感嘆のため息を漏らして、目の前の御神木を見上げた。
「この椎の木はな、どんぐり山の親木らしい。
山全てとはいかないが、この木から落ちたどんぐりがまた椎の木になり、派生していったそうだ。
ここら一帯は鎮守の森でもあり、自然崇拝の象徴として、結構有名な御神木なんだぞ。
でも険しい山奥にあるから、普段なかなか人が近づけないんだ。
おまえたち、転がった先がここで幸運だったな」
先生は三人の方をむいてにんまり笑ってくれた。
三人はあらためて御神木を見上げた。
そこはサンクチュアリ。
精霊が宿ると伝わる御神木。
五百年も前からこの森で生き続け、これからもこの山を育み続けていく生命の源。
連なる梢や葉は、小鳥や虫達にとってかっこうの棲家になっているのだろう。
たくさんの生命を抱きしめていた。
小鳥たちにはここが禁足地であることも、御神木であることもわかっていない。
神の声も姿も視えないけれど、悠然たる巨体が大きな根を張り巡らし鎮座する。
ただそれだけで安心できる。
存在そのものが、畏怖の念を抱く象徴に値する。
(ありがとう精霊さん・・・・
僕達を見守っていてくれて、道を示してくれてありがとう)
蒼音は心の中でもう一度お礼を言った。
多分他の二人も同じ気持ちだったろう。
三人は名残惜しげに御神木を見つめた。
《・・・・・またおいで・・・・私はいつでもここで待っているから・・・・・》
「あれ?今の?」
「え?園田君にも聞こえたの?あたしも」
「お、俺も聞こえた。今の声ってもしかして?」
三人は顔を見合わせ、もう一度御神木を見上げた。
感動した。ものすごく感動した。
心に声を届けてくれたのだ。
先生の約束を守れなかった子達だけれど・・・
それでも頑張った三人の想いが伝わって、それに応えてくれたのだ。
「どうしたおまえたち?何が聞こえたって?」
先生はきょとんとして三人を見返していた。
少し休憩した後、足を捻挫した琴音を背負った先生を、男子二人が後ろから押して、一行はまた、山道に出る場所まで斜面を登っていくことになった。
「先生ごめんなさい。
こんなことになってしまって。
それに先生、下見の登山で筋肉痛になったんでしょう?
あたしを背負って大丈夫かな?」
琴音は心底反省している様子だった。
「大丈夫だよ桜井。先生普段から鍛えているからな。
おまえたちよりは何倍も体力はあるんだぞ」
「せ・・・先生!
あの・・・
桜井さんは悪くないんです。
悪いのは僕なんです。
僕が先頭に立って脇道に逸れて、そのうえドジをして、皆を巻き込んで滑り落ちちゃったんです。
だから僕を叱ってください。
煮るなり焼くなり、好きなように僕を懲らしめてください」
蒼音は矢面にたって皆をかばった。
「おい!自分だけかっこつけるなよ!
先生聞いてください!本当に悪いのは俺なんです。
俺がはじめに近道を提案したんです。
だから俺こそが一番悪いんです。
どうか俺を罰してください」
涼介も負けずに罪を被ろうとした。
お互いに罪のなすりつけ合いならぬ、罪の奪い合いをした。
「うむ・・・・
お前たちの言い分はわかった。
お前たちの友情がいかに固いかもよーくわかった。
よし!
なら罰は後日執行する。
追って沙汰するから控えておれ!」
五十嵐先生は時代劇のお裁きのつもりで、冗談まじりにそう言った。
「それよりも、後ろの二人・・・・
もうちょっと力をこめて下から押してくれないかな・・・・
やっぱり桜井を背負って登るのは膝がきついな~」
「あっ先生ごめんなさい!
あたしやっぱり重いかな?」
琴音は真っ赤になってうつむいてしまった。
茜音はそんな皆の様子を、後方から微笑みながら見守っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

泣き虫エリー
梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。
初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。
戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。
そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。
強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。
「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒蜜先生のヤバい秘密
月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。
須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。
だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる