稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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サンクチュアリ

山の主

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「痛い!・・・・・・・


あれ・・・ここどこ?

あっ・・さっき、みんなで滑り落ちてこんなところまで・・・・・」

不安に怯える琴音を気遣い、茜音は懸命に微笑みかけていた。

「あ、茜音ちゃん、心配してくれてるの?優しいね。
あ、痛っ・・・・」


「あ、桜井さんが気がついた!
ほら、良かった気がついたんだ・・・・
良かった!」 
蒼音は窪地の淵にかけより、必死になって琴音に手を伸ばした

しかし子供の手では届くはずもない。それどころか琴音は足をひどく挫いたようで立ち上がることも出来ない様子だ。

「琴音!
気がついたのか!
頭打ってないか?身体大丈夫か?」

「・・・涼介!園田君!二人とも大丈夫なのね。

あたた・・・・頭はズキズキするけど、なんとか大丈夫みたい・・・
けど、足首が痛くて起き上がれないの。どうしよう?」
琴音は不安をにじませて二人を見上げた。


生命に別状がないとわかって、とりあえず一息ついた蒼音と涼介だが、さて困った。

助けを呼びに行くにも、今自分達がどこに転げ落ちたのかが、皆目見当がつかない。
登山ルートを記した簡単なコピーや方位磁針は、リュックに持ってきているが、どうやらここは相当な奥地らしい。
鬱蒼と木々が生い茂り、昼間だというのに陰りがある。
あまり陽が届かない場所なのか、岩場や木々は緑色に苔むしていた。

幽玄の境地のように、何かこの世とは思えない神々しささえ感じる場所だ。
そのわけはすぐにわかった。



少し落ち着きを取り戻した三人が真上を仰ぐと、椎の巨木が悠々と彼らを見下ろしていることに気がついた。
高さ二十メートルはあろうか・・・

椎の巨木は、このどんぐり山の御神木なのだろう。
五メートル以上はあろう幹周りには厳かにしめ縄が巻かれ、周囲は禁足地になっていた。
霊感のある琴音ならずとも、蒼音や涼介にもその圧倒的なまでの存在感から、何かを感じ取ることができた。



「うわ~すごい大きい・・・・・山の主みたいだ」

「この山にこんなところがあったんだ。
ずっとこの街に住んでたのに、俺今まで知らなかった」

琴音は足の痛みもしばし忘れ御神木を見上げた。
「この木・・・・あたしが会ってみたいと思っていた名木なんだ。
そうなんだ。
すごい・・・・・
ものすごいパワーを感じる・・・・ああ、声が聞きたいな。
お話してみたいな。

こんな山奥に御神木はいたのね。あたし禁足地まで転がり落ちたんだね。
不思議・・・感動しちゃいそう」


御神木は不動の力強さでもって三人を見守っていたが、どうすることもできない。
神様が降臨する木だとしても、三人が置かれたこの窮地を救うにはあまりにも存在が大きすぎた。
成すすべもない三人は、どう行動を起こせばよいのか判断できなかった。


すると・・・茜音がふわふわと蒼音の耳元に近寄り何事か囁いた。
茜音の姿が視える琴音は、不思議そうにその場から成り行きを見あげていた。


《・・・・・・・・・・・・・》

小さな茜音は、小さな小さな声で蒼音に囁いた。

《え?
大丈夫って何が?・・・
茜音、今なんて言ったの?》

《あのね、蒼音・・・・
大丈夫だよ。
あたちも帰り道がわからないけど・・大丈夫だよ。

この木の精霊さんが、道をおちえてくれるから安心ちて。
さっきは琴音の居場所もおちえてくれたんだよ。

精霊さんはここから動けないけど、声をかけて道をおちえてくれるんだって。
声を飛ばすことは出来るんだって》
蒼音も、小さな小さな声で問いかけた。

《この木の精霊が!?

だとしても、僕には精霊の姿も声もわからないよ。
僕には茜音しか視えないんだよ。
仮に、桜井さんに精霊の声が聞こえたとしても、彼女は歩けないし・・・・ 》
茜音は首を横に振った。

《ううん、そうじゃない。
蒼音が助けを呼びに行くんだよ。
蒼音にちかできないことなんだよ。

あたちが、精霊さんの示す方向に案内する。
だから蒼音は、あたちに付いてくればいいの。

そちて先生をさがちて、琴音を助けてあげて。
ちゃんと道をおちえてあげる・・・って精霊さんは、今あたちの心に、伝えてくれているよ》

《助けたいよ・・・
勿論桜井さんを助けたいよ。でも・・・

僕なんかが出来るのかな?この僕が・・・だよ》

《蒼音・・・・・怖がらないで・・・・
ほら・・・言ってるよ。聞こえる?

精霊さんも大丈夫だって言ってるよ・・・・・・》



残念ながら、蒼音は御神木の声を聞くことは出来ない。

それでもどうやら、茜音の言うことを、そして精霊が示す道しるべを信じて行くしかないようだ。
かなりの距離を転がったのだ。
歩いて戻るのはたやすくないだろう。
それでも行かねばならない。


この窮地を打開できるのは、自分しかいないのだ。
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