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発露
時バア
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放課後、クラスメイトたちはそれぞれ互に約束ごとを交わし、散り散りに教室をあとにした。
「今日はおまえんちでゲームしようぜ」
「校庭でサッカーして帰ろうぜ」
「今日は習い事があるからな~」
などなど、皆おのおの予定が詰まっているらしい。
琴音とて、友人同士の付き合いがあるのだ。
今日はどうやら女子数人で誰かの家に遊びに行く様子だ。
転校したての蒼音をおもんばかり、気さくに誘ってくれるほど、四年生男子は大人ではない。
まだまだ自己中心的なのだ。
そんなクラスメイトを横目にしながら、蒼音は茜音を伴い帰宅の途を急いだ。
寂しくない・・・といえば嘘になる。
だからといって、自分から声をかける勇気も気力もなかった。
誰かが手を差し伸べてくれるなど、淡い期待もないわけではなかった。
ただ一歩を踏み出すことが怖かったのだ。
ならばひとりが気楽だった。
空想や想い出に耽りながら、無為に時間を埋めることに慣れていた・・・
というべきか。
帰り道、前後にひとけがないことを確かめて蒼音は茜音に話かけた。
「茜音、今日は授業中ひとりで何をしてたの?」
『うん、メダカさんや、小屋のうさぎさんや、カラスさんとお話ちたよ。
動物はあたちのことわかるみたい。
花壇のお花や、校庭の大きな木・・・・
みんなあたちの友達なの。
だから、たのちかったよ』
「へ、へええ・・・
動物や植物となら話せるんだね。
っていうか。それすごいね。うんすごい。
他の人とは話せないけど、代わりに動植物と話せるんだ。
でもそれなら良かった。
あそうだ!約束のプリンがあるぞ。
帰ったらあげるよ。桜井さんも、茜音のために一つくれたんだよ」
蒼音はそういって給食袋の中身を見せた。
『うわぁぁ・・・・!おいちそう』
茜音が手放しで喜ぶ姿を見ると、蒼音の心も幾分やわらいだ。
(僕、一人っ子だからな・・・・
妹がいたらこんな感じなのかな。もし、僕に妹がいたら、今までひとりで寂しいってこともなかったろうな)
帰宅するとさっそく茜音のために、プリンを二つ皿にあけてやった。
母が帰宅するまでに済ませなければ、厄介なことになるからだ。
『二つとも食べていいの?
蒼音はいらないのか?』
「いいよ、茜音が全部お食べ。
僕はいつでも食べられるから」
自分も食べたいのだけれども、琴音だって我慢したのだ。
まさか自分が食べるわけにはいかない。
それよりもなによりも、茜音が喜ぶのなら・・・
と、何かしてあげたい気持ちでいっぱいなのだった。
ルルル・・・・・
茜音が美味しそうにプリンを食べる姿を、微笑ましく眺めていると、リビングの電話が鳴った。
受話器を取ると、電話の相手は関西に住む時バアだった。
「わあ、時バア!久しぶり!
うん僕もみんなも元気だよ。
時バアは毎日畑仕事してるの?
うん、お母さんはまだ仕事行ってるよ。
うん、小町も相変わらず寝てばっかりだけどね。
引越しの荷物は少しずつ片付けてるよ。
・・・・学校・・・?
うん、なんとかね。
徐々に慣れていくしかないかな、いつものようにね・・
けど、それなりに楽しいこともあるよ。
うんそれはまだ秘密。
今度時バアにだけ教えてあげるね。
でもまた今度ね。
あ、そうだ時バア、今度いつでもいいから、またあの温泉煎餅送ってよ。
美味しいからすぐ食べちゃうんだ。
そう小町も食べるんだよ。
え、今年の夏休み?
そうだな~会いにいけるかな~?
お母さんの仕事次第だね。
その前に登山遠足があるんだ。
すごい大変みたい。でも頑張る。
・・・・・・ねえ時バア、ところでさ、あのさ・・・
あの・・変なこと聞くけど・・
その、ふと考えてたことがあってね・・・・
その・・・
笑わない?絶対に。
変なこと言うって思わない?
あの・・・どうして・・・・
どうして僕って一人っ子なのかな?
・・・・・・・・ううん、別にそういうわけでもないんだけどさ。
ただ・・なんとなく思っただけ。
そう、なんとなく思っただけ。
うん・・・・
あ、でもお母さんには言わないでよ。
僕が今言ったこと。
ちょっと聞いてみたかっただけだから、気にしないで。
うん、僕は大丈夫だよ。
心配しないで・・・・うん、
あ・・・そうだね。
うん、じゃあね。
うん・・・・またね。
電話するね・・・・」
蒼音はそっと受話器をおいた。
懐かしい時バアの声を聞いて、ほんの少しだ、けセンチメンタルな気分に陥りそうだったが、気をとり直して宿題にとりかかった。
『蒼音、今のおばあちゃん?』
「うん、お母さんのお母さんだよ。
遠くに住んでるから、今は滅多に会えないんだけどね。
小さい頃は僕も時バアの家の近くに住んでたんだよ。
小さかったから、その頃のことはあんまり覚えていなんだけどね」
そう話しながらも、蒼音は記憶に残る、今ではもう、色あせてしまいそうなほど懐かしい想い出を呼び起こしていた。
蒼い澄んだ空、そして茜色の夕陽に照らされた、里山の稜線。
稲穂の海・・・・・・僕の理想郷。
「・・・とっても眺めのいいところだったな。
四季の景色がそれぞれに違うんだ。
特に秋の初めは綺麗だったな・・・茜音にも見せてあげたいよ。
あれ?不思議・・・・ていうか僕、結構覚えているよね。
でも、小学生にあがってから、なかなかいい季節には遊びにいけないんだよな。
だけど・・・僕、時バアにさっき変なこと言っちゃった。えへへ」
『蒼音一人じゃないよ。
あたちいる。
小町もいる。琴音もいる。お父しゃんお母しゃん、時バアいる。
たくさんいる。
もっともっと・・・生きていればもっと仲間が増えるよ。
世界中誰とでも仲良くなれるよ』
茜音はまっすぐな瞳で蒼音に訴えかけていた。
多くの語彙を知らない茜音だけれど、きっと伝えたい想いがたくさんあるのだろう。
「あ・・・茜音・・・・
うんそうだね。ありがとう。
本当だ。自分さえその気になれば僕はいつだって、誰とだって繋がることが出来るよね。
茜音はそう教えてくれたんだね。そう伝えてくれたんだね」
心がじんわり温かだった。茜音がそばにいると素直になれる気がした。
「今日はおまえんちでゲームしようぜ」
「校庭でサッカーして帰ろうぜ」
「今日は習い事があるからな~」
などなど、皆おのおの予定が詰まっているらしい。
琴音とて、友人同士の付き合いがあるのだ。
今日はどうやら女子数人で誰かの家に遊びに行く様子だ。
転校したての蒼音をおもんばかり、気さくに誘ってくれるほど、四年生男子は大人ではない。
まだまだ自己中心的なのだ。
そんなクラスメイトを横目にしながら、蒼音は茜音を伴い帰宅の途を急いだ。
寂しくない・・・といえば嘘になる。
だからといって、自分から声をかける勇気も気力もなかった。
誰かが手を差し伸べてくれるなど、淡い期待もないわけではなかった。
ただ一歩を踏み出すことが怖かったのだ。
ならばひとりが気楽だった。
空想や想い出に耽りながら、無為に時間を埋めることに慣れていた・・・
というべきか。
帰り道、前後にひとけがないことを確かめて蒼音は茜音に話かけた。
「茜音、今日は授業中ひとりで何をしてたの?」
『うん、メダカさんや、小屋のうさぎさんや、カラスさんとお話ちたよ。
動物はあたちのことわかるみたい。
花壇のお花や、校庭の大きな木・・・・
みんなあたちの友達なの。
だから、たのちかったよ』
「へ、へええ・・・
動物や植物となら話せるんだね。
っていうか。それすごいね。うんすごい。
他の人とは話せないけど、代わりに動植物と話せるんだ。
でもそれなら良かった。
あそうだ!約束のプリンがあるぞ。
帰ったらあげるよ。桜井さんも、茜音のために一つくれたんだよ」
蒼音はそういって給食袋の中身を見せた。
『うわぁぁ・・・・!おいちそう』
茜音が手放しで喜ぶ姿を見ると、蒼音の心も幾分やわらいだ。
(僕、一人っ子だからな・・・・
妹がいたらこんな感じなのかな。もし、僕に妹がいたら、今までひとりで寂しいってこともなかったろうな)
帰宅するとさっそく茜音のために、プリンを二つ皿にあけてやった。
母が帰宅するまでに済ませなければ、厄介なことになるからだ。
『二つとも食べていいの?
蒼音はいらないのか?』
「いいよ、茜音が全部お食べ。
僕はいつでも食べられるから」
自分も食べたいのだけれども、琴音だって我慢したのだ。
まさか自分が食べるわけにはいかない。
それよりもなによりも、茜音が喜ぶのなら・・・
と、何かしてあげたい気持ちでいっぱいなのだった。
ルルル・・・・・
茜音が美味しそうにプリンを食べる姿を、微笑ましく眺めていると、リビングの電話が鳴った。
受話器を取ると、電話の相手は関西に住む時バアだった。
「わあ、時バア!久しぶり!
うん僕もみんなも元気だよ。
時バアは毎日畑仕事してるの?
うん、お母さんはまだ仕事行ってるよ。
うん、小町も相変わらず寝てばっかりだけどね。
引越しの荷物は少しずつ片付けてるよ。
・・・・学校・・・?
うん、なんとかね。
徐々に慣れていくしかないかな、いつものようにね・・
けど、それなりに楽しいこともあるよ。
うんそれはまだ秘密。
今度時バアにだけ教えてあげるね。
でもまた今度ね。
あ、そうだ時バア、今度いつでもいいから、またあの温泉煎餅送ってよ。
美味しいからすぐ食べちゃうんだ。
そう小町も食べるんだよ。
え、今年の夏休み?
そうだな~会いにいけるかな~?
お母さんの仕事次第だね。
その前に登山遠足があるんだ。
すごい大変みたい。でも頑張る。
・・・・・・ねえ時バア、ところでさ、あのさ・・・
あの・・変なこと聞くけど・・
その、ふと考えてたことがあってね・・・・
その・・・
笑わない?絶対に。
変なこと言うって思わない?
あの・・・どうして・・・・
どうして僕って一人っ子なのかな?
・・・・・・・・ううん、別にそういうわけでもないんだけどさ。
ただ・・なんとなく思っただけ。
そう、なんとなく思っただけ。
うん・・・・
あ、でもお母さんには言わないでよ。
僕が今言ったこと。
ちょっと聞いてみたかっただけだから、気にしないで。
うん、僕は大丈夫だよ。
心配しないで・・・・うん、
あ・・・そうだね。
うん、じゃあね。
うん・・・・またね。
電話するね・・・・」
蒼音はそっと受話器をおいた。
懐かしい時バアの声を聞いて、ほんの少しだ、けセンチメンタルな気分に陥りそうだったが、気をとり直して宿題にとりかかった。
『蒼音、今のおばあちゃん?』
「うん、お母さんのお母さんだよ。
遠くに住んでるから、今は滅多に会えないんだけどね。
小さい頃は僕も時バアの家の近くに住んでたんだよ。
小さかったから、その頃のことはあんまり覚えていなんだけどね」
そう話しながらも、蒼音は記憶に残る、今ではもう、色あせてしまいそうなほど懐かしい想い出を呼び起こしていた。
蒼い澄んだ空、そして茜色の夕陽に照らされた、里山の稜線。
稲穂の海・・・・・・僕の理想郷。
「・・・とっても眺めのいいところだったな。
四季の景色がそれぞれに違うんだ。
特に秋の初めは綺麗だったな・・・茜音にも見せてあげたいよ。
あれ?不思議・・・・ていうか僕、結構覚えているよね。
でも、小学生にあがってから、なかなかいい季節には遊びにいけないんだよな。
だけど・・・僕、時バアにさっき変なこと言っちゃった。えへへ」
『蒼音一人じゃないよ。
あたちいる。
小町もいる。琴音もいる。お父しゃんお母しゃん、時バアいる。
たくさんいる。
もっともっと・・・生きていればもっと仲間が増えるよ。
世界中誰とでも仲良くなれるよ』
茜音はまっすぐな瞳で蒼音に訴えかけていた。
多くの語彙を知らない茜音だけれど、きっと伝えたい想いがたくさんあるのだろう。
「あ・・・茜音・・・・
うんそうだね。ありがとう。
本当だ。自分さえその気になれば僕はいつだって、誰とだって繋がることが出来るよね。
茜音はそう教えてくれたんだね。そう伝えてくれたんだね」
心がじんわり温かだった。茜音がそばにいると素直になれる気がした。
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