稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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発露

学級会

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「今日の学級会は、遠足について話し合いをしたいと思う。

えーみんなはもう知っていると思うが、うちの学校では四年生の一学期最後の行事として、登山遠足をするのが恒例になっている」

担任教師の五十嵐先生は、誠実で元気な先生だった。

「五年生は林間宿泊学習、六年生は修学旅行、四年生は登山というわけだ。登山は競争ではない。

来年の林間学習への予行演習の意味も含めて、皆で協力しながら登山を成し遂げることが目的だ。

場所は、市郊外にそびえる“どんぐり山”。
標高六百メートルの小さな山ながら、自然豊かで頑張りがいのある山だ。
詳しい内容は学年集会の時説明するが・・・今おおまかに説明すると・・・・

まず、どんぐり山の登山口は全部で五つ。
各班に分かれてそれぞれの登山口から時間差で入山してもらう。

登山道の木々に結んである目印に沿って登れば、必ず山頂に着くことができるので、焦らずゆっくり登っていってほしい。
その後・・・頂上で弁当を食べ、クラス写真を撮って各班また同じように下山して帰るという行程だ。
聞いているだけなら簡単そうだが・・・

生半可な気持ちで登ると後で筋肉痛に悩まされるから、当日まで筋力を鍛えておくことをおすすめする。
先生も先日下見がてら登ったが、後日膝が痛かったからな~。

なんと実は今もまだ痛い。
おまえたちは若いからその心配はないと思うが、心配な人は湿布を用意しておくといいぞ」

五十嵐先生は笑いも交えながら、淡々と説明を進めたが、蒼音は廊下でひとり待っているであろう茜音のことが気になって、落ち着かなかった。



(・・・茜音ひとりで大丈夫かな?
休み時間に覗いたときは、廊下にあるメダカの水槽に釘付けで心配はなかったけど。
相手は幽霊なんだし、そこまで気にすることないよね。
怪我したりすることもないだろうし・・・)

「・・・おい園田、ぼーっとしてどうした?」

呼び声にふと我に返ると、目の前に五十嵐先生が立っていた。

「あ、いえ・・・・」

「転校早々登山遠足だなんて、ちょっとびっくりだろうが、うちの小学校は体力作りに力をいれているからな。
是非とも頑張ってもらいたい」
先生は優しく気遣ってくれた。

「はい、頑張ります」
「うむ、じゃあここからは学級委員長に進行してもらおうかな。
菅沼、先日の学年委員会の報告どおりにみんなに説明よろしく頼むな」



「はい先生」

どうやら菅沼涼介は、このクラスの学級委員長を務めるらしかった。
先生の指示どおりに前に出て、物怖じもせず壇上にあがり進行役を務めた。

「えっと、先生からの説明にもあったけど、登山は男女四人の小グループで登ります。
班は好き好きに決めるのではなく、今の班のままでいくことに委員会で決まりました。

え、理由は、仲良しグループだと馴れ合ってしまい、真剣な登山が危険だからです。
何か意見質問はありますか?



では、なければこのまま説明します。

えっと、当日個人の持ち物はさっき先生に配ってもらったしおりに書いてあるので、各自よく読んでおいてください。
この時間で決めることは、班での持ち物です。
腕時計、方位磁針、絆創膏、虫除けなどは何個もいらないので各班の中で相談して持ち寄ってください。

っと・・・それから、あと必要だと思われるものも、相談して決めてください。

決まったら用紙に係の名前を記入して、提出してください。以上です。では相談してください」

涼介は慣れた様子で司会を務め、席に戻ってきた。

そんな涼介を見て、蒼音はわずかばかり劣等感を覚えた。
身長だって高いし、剣道もやってて強いんだろうな。
学級委員長ってくらいだから勉強も出来るんだろうな。


蒼音はいつもの悪い癖で、またも卑屈っぽくとらえてしまった。

(しかも・・・・
遠足の班まであいつと同じなんだ。
なんだか嫌だなあ)

そんな蒼音の気持ちにお構いなく、涼介は自分の班の者を集めて話しを進めた。


律儀にも、まずは転校生である蒼音に各自、自己紹介をすることにした。

「と・・・琴音から自己紹介する?
けどもう園田君のことはよく知ってるみたいだしな。
じゃあ俺からね。えっと・・・
同じ班になる菅沼涼介です。よろしく」

琴音と蒼音が、仲良く立ち話をしていたことを知っている涼介は、まずは自分から手短に名乗った。
そして班のもうひとりの女子に自己紹介を促した。

「あ、次あたしね。
あ・・・えっと、山本 あゆみです。
よろしくです」

琴音はそんな班の雰囲気に笑みをこぼした。
「ふふっ。なんだか変だね。
みんな肩があがってるよ。
もうちょっとリラックスしようよ、じゃないと園田君も緊張しちゃうよね?

えっとじゃあ、あたしも。

あらためまして、桜井琴音です。
登山頑張ろうね園田君」
琴音は蒼音を気遣い、できるだけ場を和ませようとしてくれた。

「え・・・えっとじゃあ僕からも。
園田蒼音です。
体力に自信はないけど、頑張ってみんなの後についていきます。よろしく」

琴音が一緒の班にいたおかげで、蒼音は話し合いの輪に、すんなり参加することができた。




その後の給食時間は、班ごとに机を寄せ合って食べるスタイルだった。

茜音のためにプリンを持ち帰ろうと、蒼音は何食わぬ顔でそっと机の中に隠した。
うまくやったつもりだったが、隣に座る琴音に見られていたらしい。
彼女はことの次第を察して、自分の分のプリンもそっと蒼音に手渡してきた。

“あたしの分も茜音ちゃんにあげて”

と、小声でささやきながら、彼女自身も大好きなプリンを差出してきた。

蒼音は遠慮して返そうとしたが、琴音が目配せしてそれを制止したので、彼女の折角の好意をありがたく受けることにした。

琴音がこのクラスにいてくれて本当に良かった・・・

と心からそう思えた。
そうでなかったら遠足だって苦痛そのものだろうし、茜音のことで相談出来る相手もいなかったのだから。

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