稲穂ゆれる空の向こうに

塵あくた

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邂逅_かいこう__

座敷童子?

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驚きのあまりそれ以上声も出ない蒼音は、恐怖心から言われるがまま煎餅を一枚、目の前で微笑む女の子に差し出していた。

『ありがとう』

(お・・・・女の子だ。

小さな女の子だ。どこの誰なんだ?

どうして僕の家に女の子が居るんだ?
僕なんにも聞いていないよ!
前にここに住んでいた子なのかな?

でも・・・・
ここは新築のはずだけど・・・)

彼はこの状況を冷静に判断しようと、脳内をフル回転させ思案した。

ぽりぽりと無言で煎餅を食べ終えた目の前の女の子は、うろたえる蒼音にお構いなく満足した様子でお礼を言った。

『ありがと美味ちかった』

「いえ・・・それはどうも・・・」

不可解なこの状況が飲み込めない蒼音は、曖昧な返答で、この場を乗り切ろうと頑張った。
しかし無理だった。

「あ、あの君どこの子?
どこから入ってきたの?」

わからないことはうだうだ考えずに、身近な人に訊ねることが一番早い解決方法だ、と、田舎の時子おばあちゃんこと、時バアが教えてくれた。

『う~ん・・・・・わかんない』

「え、わかんないって、お家がどこかわからないの?
じゃあどうやってここに来たの?」

『それもわかんない、気がついたらいた』

蒼音は困り果てた。完全に混乱していた。

(どうしよう・・・・・

僕、越してきたばかりだから近所に知り合いもいないし、土地勘もないし・・・・
お母さんかお父さんの会社に電話したほうがいいのかな?
・・・・それとも警察に、僕んちに迷子がいるって、知らせた方がいいのかな?)

蒼音が考えあぐねている間にも、おかっぱ頭でくりくりお目目の女の子は、微動だにもせずこちらを見詰めていた。
ふと、気がついたことある。

(あれ?この子・・・・)

不思議なこと、に女の子は和服を着ていた。
蒼音にも詳しくわからないけれど、女の子は赤いとんぼ柄の、襦袢のような服を着ていた。

(どうしてこの時期に、着物なんて着ているんだろう?
お祭りでもあるのかな?この町内で・・・・
でも・・・妙だな。

それとも、この辺りの子じゃないのだろうか?)

蒼音は不思議に思った。
ふいに、ざわざわと、再び鳥肌がたつのが感じられた。
この子の格好や様子からして・・・

蒼音は想像をふり払おうと試みたが、じわりじわりと恐怖が先行した。

(もしかして・・・・・この子

・・・・・・座敷童子!?)

(まさか・・・・まさかね・・・・・
だって今はまだ明るいし、第一どうして僕んちに妖怪が出なきゃいけないんだよ。
そーだよ、この子は道に迷って、僕んちに勝手に上がり込んで来たんだ、そうに違いない)

蒼音は納得できる結論を求めて一人必死に答えを探した。

見ると、猫の小町が女の子にすりよっているではないか。
警戒心の強い動物が、自らそばに寄るくらいなのだから、妖怪であるはずがない。
そう自分に言い聞かせた。

「あの君、どうやって僕の家に入ったの?
どこか鍵が空いていたの?」

蒼音は気を取り直して、ソファーの前にきょとんと突っ立つ女の子に、再び問いかけてみた。

『う~ん。
わかんない。
あたちなんにもわかんない』

「わかんないって・・・・
じゃあ名前は?
名前はなんていうの?
何歳なの?

それくらいは本当のことを教えてくれなきゃ困るよ僕」

『でも・・・本当にわかんない』

わからないと連呼するわりには、さほど困った様子も見せない女の子に業を煮やし、蒼音は少しむっとした。

「なんだよそれ!
人んちに勝手に上がり込んでおいてわかんないって。
じゃあどうするの?交番に行く?」

『ふっ・・・・ふえ・・・ふえ・・・・・

だって、気がついたらここにいたんだもん。

あたちだってわかんないもん・・・・
うぇーん・・・・・・!!』

どうやら、年端もゆかぬ童女どうじょを、
威嚇したあげく泣かせてしまったらしい。
蒼音はますますお手上げ状態で焦っていた。
「ご、ごめんよ・・・
ちょっときつい言い方だったね。
でも、気がついたらここにいたって言われてもな・・・

どうしよう」

蒼音こそ泣き出したいくらいだった。
今日は転校初日で、精神的にも疲れていたし、宿題もあったし、自分の部屋の荷物も片付けたかった。

『ぐすっ・・・・ひっく・・・・・・
呼ばれたの・・・・

誰かに呼ばれる声が聞こえたの、そうちたら、あたちここにいた』

女の子は声をしゃくり上げながら、ようやく答えてくれた。

「呼ばれたって誰に?」

『また怒らない?
あのね・・・わかんないけど、聞こえた。

”誰かそばにいてよ”って叫び声が聞こえた。
そちたらここにいたの。

そちたら、目の前で蒼音が煎餅を食べてたの。
美味ちそうだな~って思って声に出ちたら、蒼音が気づいてくれたの』

「え?どうして僕の名前を知ってるの?

自分の名前も思い出せないのに僕の名前は知っているの?」

蒼音はぎょっと後ずさった。

『うん、ちってるの。
どうちてかな。
前からちってたみたいにちってるの。
でも、それもわかんない』

(なんなんだよこの子?
呼ばれたからここに来たって?
それって僕がさっき叫んだ言葉じゃないか・・・・

ってことは、僕がこの子を呼び寄せたっていうのか?)

彼はとっさに、そばにある引越しのダンボールを開けて中身をかき回すと、一つの手鏡を探し出した。

そして目をつむりながら、それをおもむろに女の子の顔に向けた。
以前テレビか本で聞いたことがあった。
お化けや幽霊は鏡に映らないってことを実証しようと試みた。


目を開いて、おそるおそる鏡を覗き込むと・・・
青ざめながら冷や汗を一つ垂らした。

(やっぱり!・・・)

手鏡には、女の子の姿だけ映っていなかったのである。

(やっぱり、この子は人間じゃないんだ・・・

そういえば・・・・さっきから気になっていたけど・・

この子・・・・
すこ~しふわふわ宙に浮いてない?
なんで?
どうして?)
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