猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫(猫子猫)

文字の大きさ
上 下
1 / 30

わたしは猫である

しおりを挟む
「マッデン……だよな?」

ジキムートの言葉に一同がうなずく。


「くっ……」

レキは抱えていた物を離し、なんとか立とうとしていた。

「くくっ、ノーティス。おぬしが言う事は本当だったみたいだの。このレキだったか? わしでもなかなか見たことが無い、美しい女がいると」

舌なめずり一つ。

その直後に突然、地面から沸き上がった水の群れがレキを絡めとっていく。

「グゥっ!?」

水に周りをまかれ、レキがうなる。

周りは水。

逃げ場がなく、ゆっくりと狭まる包囲網をにらみつける事しかできないでいた。


「ほぅほぅなんぞ、その奇麗な褐色の肌は。 貴族共は全員が色白いからのぉ。こういう趣向は稀じゃ。いや、初めてじゃぁっ! ヒヒッ。どうして今までココに来んだったか、全くっ。神もいじらしい事をしてくださるっ!」

「……シュっ!」

その時だった。

〝ムードブレイカー(自己中)″ジキムートが走った。

壁を蹴ってつたい、一気に住民たちを横目に後ろに回ろうとする。

「……」

その姿をマッデンが睨んだ――瞬間。


バキンっ!


「何っ!?」

壁にあった壁面が一気に、突如氷に代わる。

「だがこれなら!」

未だ遠い住民の裏。

ジキムートは剣を壁に刺し、その氷を逃げきっ……。

パキパキパキッ!

剣がへし折れたっ!

一瞬にして氷が剣に浸食し、芯まで凍らせたのだ。

ジキムートは住民の中へと落ちてしまうっ!


「はっ!?」

いきなりの現実。

ゴディンの力ならば通用した事が、通じない。

その事実にジキムートは声すら出せないでいる。

ドタンっ!

そして、地面の感覚。

「クッ!?」


「全員気を抜くなっ! 行くぞっ」

叫び、漆黒のローラが駆けて……っ!

「……」

彼女が動こうとすると目の前に、20……30、いや40っ!

氷の刃が突然、出現した。

「なっ!?」

詠唱なしに、とんでもない量のマナが溢れる。

それはまるで壁のような、視界を埋め尽くす程の氷の刃。

狭い空洞に逃げ道はない。

(クソっ!? 呪いを使うしかないのか……。だが……っ)

ちらりとノーティスを見たローラ。


(コイツを信じるなんてシャクだが、この呪いは今使う訳にはいかないっ! この作戦、どんな犠牲を払ってでも遂行してみせるっ! お嬢様っ。お嬢様ーっ!)

彼女は賭けに出た。

愛する者の名を、心の中で叫びながら……。

「グアァァッ!?」

「そは水を食うモノなり。吸えよ食えよ肥え太れ……っ」

ノーティスは呪文を詠唱し始める。

「〝ディセクレト(神話、そして咎人)〟……か、〝アーク・エンクレイヴライト(聖域現出)〟っ。消えよこの、神の盟約を破る愚か者がっ! 目に入れるにも汚らわしいわっ」

水の聖域の現出。

その瞬間また、この世界が水で覆われてしまうっ!

そしてノーティスもローラと同じく、数多の氷を放たれてしまうが――。

「グッ!?」

雨あられと降り注ぐ攻撃を、水の魔法障壁でなんとか防いだノーティス。

そして銀髪を翻し、すぐに氷の魔法で反撃にでようとしたが……。

「……」


フッ。


マッデンに魔法構成を睨まれただけであっさりと、ノーティスが張った魔法の障壁もろとも、ノーティスの魔法全てを消滅させられてしまったっ!

「なにっ……ディスペルされたっ!?」

単一の魔法しか使えないのだ。

属性に絶対的に秀でた人間の支配。それが行き届いてしまう。

「第3階級の私の魔法が――。駆け引きも無しにこんなっ!? 馬鹿なっ!?」

魔法階級が上から3番目に属する彼女の魔法ですら、例外では無いという事。

マッデンの前では、水のマナを『扱う事』すらかなわない。

相手を魔法世界から駆逐する。これこそが本当の聖域の意義で、攻撃的な使い方である。


「くそっ!?」

瞬間ノーティスが大きく飛んで、マッデンから逃れようとするが……っ!

「ふむぅ……」

マッデンが笑いそして――。

ノーティスの目の前に氷の刃40、50……100っ!

増える氷の刃が、ノーティスを睨みつけている。

「はぁ……はぁ」

その場からは動けなくなってしまう彼女。


「ククッ……。さてさてぇ。楽しむか」

「くぅっ!?」

マッデンは、水の牢獄にレキを閉じ込めてしまった。

あっという間に傭兵の精鋭を圧倒し、レキを自分のもとに寄せるマッデン。

水を自由に、意図したとおり、見事に動かして見せる。


「水を……。この水の量を維持して操れるなんてっ!? しかも強度も高いっ! クッ。これが本物の神の右腕っ!? ゴディンなんて比じゃない力じゃないかっ」

水に呑まれながら、レキがうめく。

この世界では水と言わずどのようなマナでも、1回単発の使い切りだ。

マナを維持し、操り続ける行為。

それは圧倒的に高位な魔法練度と、何と言っても魔力容量が必要だった。

「ほぉ、やはり近くで見るとメンコイなぁ、ぶふっ。これ程小麦に焼かれても、しっかりと美しいキメと張りっ。下民よ~。良いぞっ! わしに捧げるには十分よっ! 褒めて遣わすっ!」

高らかに笑いを上げるマッデン。


「くっ、離せっ、この豚がっ!」

ばしゃっ! ばしゃしゃっ!

体幹の強いレキの、激しい抵抗を封じ込めれるだけの水の水量と強度。

これを維持し続けるマッデンは今、MPを秒単位で失っているハズ。

だが全くもって魔力に窮する気配がない。

「何を言う? 安心せよ女。我は人間の中にありて、最も神に近しき者っ! 水神様直々にお認めになった存在よ~。胸を張れっ! 我に愛される事は、神に愛されたと同義だっ! 誇り高い一族の、さらには頂点者の子を産めるのであるっ。歓喜せよ」

「かっ神に愛されたと同じだとっ!? 貴様はただの人に過ぎないっ! 高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。神よこの男に罰をっ!」

「歓喜……せよっ」

グギュウっ!

マッデンが笑うと、水が締まりをきつくする。

「ぐぁぁっ!?」

レキを取り巻く水圧が一気に跳ね上がり、ヨダレを垂らしてレキがうめく。


「ほれ。神をあがめよ。子が……我が神に等しき男の種が、欲しいじゃろ?」

「ヒッ!?」

マッデンが言葉をつむぐと水が――。

レキを取り巻く水が、彼女の装備を外していく。

「ここで一つ、楽しんでおこうかのぉ? たんと水に冒され、奇麗になると良い」

あっという間に水圧で鎧を外し、胸の部分をさらけ出させられたレキ。

薄紅色の突起があらわにされてしまう。

そしてそのまま腰元のズボンまでもが、水に剥がされていく。


「くっ、やめろっ!」

「ほぉ、胸が小ぶりか。まぁ仕方ない。これならノーティスのほうが良かったがのう。――そうじゃそうじゃ、あとで水でも入れて、膨らませるのも良いじゃろうて。うんうん、その小さいのも一応たっぷり遊んでから、好みに入れ替えるか。それでは……」

「クソがっ! 僕はお前の人形じゃないんだよっ!」

レキが唇をかむ。

だがマッデンには実際、そう言った着せ替え行為ができるのだろう。

マナに選ばれるとは、そう言う事だった。


「汚い言葉を使うなっ、メスが。娼婦みたいな言葉は断じてならんぞ小娘っ! ふぅ全く。じゃが……まぁ、威勢が良いのも初めだけじゃろうて。これを受ければ考えも変わるじゃろう。いっひっひっ」

ブタのような顔が歪み、水が数本ウネウネと指のような物を這いださせた。

「……」

何か、途方もなく嫌な予感に身震いするレキ。

「今から水で子宮の中までキレイにしてやるぞ。汚れも消えるし、薄汚い病気も消える。良い事じゃぁ。それにコレをすると、娘どもが静かになる。どんな貴族のじゃじゃ馬も、わしの命令には絶対服従じゃったわぃっ! 体の芯まで水に犯される感覚に、恍惚を覚える者さえおったんじゃあっ!」

「この豚が……っ!?」

レキのコメカミがヒクつく。

大勢の住民の前、レキは群れる水の触手に蹂躙されようとしている。

大勢に好機の目で見られ、そして考えたことも無い、人体実験のような人体洗浄法で辱められようとしているのだ。


「くぅううっ!?」

そして、パンツに水が入ろうとした時レキは――笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【連載版】おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、同名の短編「おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/981902516)の連載版です。連作短編の形になります。 短編版はビターエンドでしたが、連載版はほんのりハッピーエンドです。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!

naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。 これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。 そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる── ※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。 ※地図は専用ソフトを使い自作です。 ※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

悪女の秘密は彼だけに囁く

月山 歩
恋愛
夜会で声をかけて来たのは、かつての恋人だった。私は彼に告げずに違う人と結婚してしまったのに。私のことはもう嫌いなはず。結局夫に捨てられた私は悪女と呼ばれて、あなたは遊び人となり、再びあなたは私を諦めずに誘うのね。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

処理中です...