背伸びだとしても,私だって恋がしたいっ

不破 海美ーふわ うみー

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幼馴染みとの距離。

新しい出逢い。

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第一学習室……って,ここだよね?

普段は使わないから,ちょっと不安になっちゃう。



「失礼しまー」



あ,良かった。

まだ全員は集まってないみたい。



「結城さん,2組,ここ」



教室内を見渡す私に,誰かがであげて私を呼ぶ。

2組ってことは,私たちの教室だ。

私を呼んでいたのは,短髪で背の高い男の子。

確か



大和やまとくん。体育委員だったんだね」



井上大和くん。

あんまり大声で話しているイメージはないけれど,静かに色んな人と楽しそうにしていた気がする。



「うん。じゃんけんで勝ったから」

「わざわざ? 大和くんはどうして体育委員を選んだの?」



皆仕事の多い委員会より,教科係になりたがるのに……

話しながら,私は示された隣の席に座った。

まだ予定時刻まで5分ある。

折角なら,仲良くなりたいと思った。



「中学でもそうだったし,係より委員会のが内申点上がるって聞いたから。高校だと実は殆んど係が働くし,体育委員は今回の球技大会さえ働けばもう何もないんだって」

「そっか。私はたのしそー! ってそれだけで入っちゃったから」



えへへと笑う。

他の皆も,大和くんみたいに色々考えてたのかな。



「……俺は,そっちのがいいと思うけど。打算的に嫌々参加するより,どうせなら楽しんだ方がいい」

「そうかな」

「うん」



優しいな。

多分初めて話したのに,こんな風に言ってくれるんだ。

私は嬉しくなって,もっと何か無いかと話題を探す。



「あっねぇ見て! うちの子,可愛いでしょーっ。大和くんは何か飼ってたりする?」



お昼に名雪くんと話したのを思い出して,私はスマホの画面を大和くんに向けた。

興味ないかな,どうかな。



「俺は飼ってないけど……何だっけ,それ。見たことある……パグ?」

「そう! 犬飼 真琴くん!」

「犬……? 貰い犬なの?」

「ううん! 私が付けたの!」



ちょっとおバカで大切な思い出。

そこが真琴くんのかわいいところ。

名前付けていいよって言われて,うっかり名字まで考えちゃったんだよね……

しかも自分が飼い犬なのに,犬飼って。



「どっかの映画監督みたいな名前だね」

「うん,そうかも! 大和くんは今年の映画見た?」

「まだ」

「そうなんだ,私も……」



ガラッと,前の扉が開く。

担当の先生が来たのだと,私はスマホをぱっと鞄の中に入れた。

始まったら流石にね。

片付けないと怒られる……



「はい,んじゃーきりーつ,礼! 出欠ー1の1~」

「はい」

「1の2~」

「はい!」

「1の……」



出欠が確認できると,今度は自己紹介。

3年生の委員長の話や先生からの説明も聞いて,その後は各学年のリーダー決めだった。



「私,やります」



じゃんけんかな,とふんわり空気で伝わり始めた時。

1組の堀内真香ほりうち まなかさんが立候補してくれて,私は内心ほっとした。

そんな私に気付いて,隣に立つ大和くんが私へと言う。



「リーダー,やりたいのかと思った」



そんな風に思われてたなんて!

私はびっくりして,慌てて違うよと首をふった。



「まさか! わいわいしたり,手伝ったりするのは好きだけど……頭使ったり,皆をひっぱったりするのはちょっと……」



そもそも,私には出来ないかなぁ。



「そっか。俺も」



両手を必死に振ると,大和くんが小さく笑う。



「でっでも,リーダーじゃなくてもちゃんと頑張りたいとは,思ってるよ」

「うん,よろしく,結城さん」



そっか,私だけじゃなくて……

大和くんと二人で,体育委員なんだ。

楽しくなればいいなぁ。

そんな風に,思う。



「はーい今日はこんなもんで。席にもどれー。きりっつ気をつけ,解散~」



思ったより早く帰れそうで良かった。

でもこれからはまた呼び出されるかもしれないから,お昼休みとか放課後は気を付けなくちゃ。



「じゃあ,またね,大和くん」

「うん。……ねえ」

「?」



うんって返ってきたから,てっきりもうばいばいかと思ったのに。

大和くんは続けて,私を引き留めた。

捻った足首を元に戻して,大和くんの言葉を待つ。



「さっき言ってた映画。来月までだよね。良かったら一緒に行かない? あ,後からテレビでみる予定だったら別に」

「行く!!」



もうすぐ終わるなんて初耳だ。

本当はずっと見たかったのに,両親は忙しいって言うし。



「映画館,1人で行ったこと無くてどうしようかと思ってたんだよね。大和くんが一緒なら,安心」



映画館のあるところまで,1人で電車に乗ったこともない。

高校に上がったら,色んな所に行こうと思ってたのに。

実際にはまだどこにも行けていなかった。



「いつ空いてる?」

「いつでも!」

「今週でも?」

「うん,大丈夫だと思う。またLI⚪Eするね。私はグループから入れてたと思うから,大和くんも追加してくれるといいな」

「ん」



結構話せて,仲良くなれたとは思ってたけど。

まさか委員会に出席しただけで友達が増えるなんて思ってもなかった。

とんとん拍子に日にちまで決まって,私はもう一度大和くんを見る。



「じゃあ,ばいばい。電車一個逃すと,お母さんに怒られちゃうんだ」



つい笑ってしまいながら伝えて,私は廊下へと飛び出した。

映画か~。

久しぶりだなあ。

反芻すればするほど,楽しくなる。

しかも男子と二人で遊ぶなんて,いつぶりだろう。

帰ったらお母さんに行ってもいいか聞かなくちゃ。

そう思えば,1人での帰り道も悪くない。

寧ろ早く帰らなきゃって気分になって。

急いで駅に向かう私は,もう既に映画を見に行く気満々でいた。

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