2 / 15
第2話 同級生のお友達。
しおりを挟む
身長の高い,黒髪ロングの美人。
そんな風に呼ばれていることを知っている。
口数は少なく,頭も悪くない。
運動だって,人より出来る。
私を形作る要素は,いつも人間関係で裏目に出た。
同性も,異性も。
友達なんていた試しが無い。
私のことを,好きだといってくれるのは,ただ1人だけ。
たった1人の家族も,他人もなにも変わらない。
猫目の大きな目は,余計に人を寄せ付けないようだった。
「重い…」
運悪く,日直だった私。
数学のワーク回収を,授業中に命じられてしまった。
個別に声をかけないと出さない人のせいで,時間もかかった。
とにかく職員室までが遠い。
階段の最後の一段を下りた時,そこそこ大きな衝撃が私を襲う。
何事かととっさに目を閉じたとき,しまったと思った。
予想通り,出席番号順に並べていたワークは,私を囲むようにバラバラと散らかる。
「いっ……前,ちゃんと見て」
私の生まれながらの硬質な声が,誰もいない階段に静かに響く。
少しの柔らかみもない言葉と声に,またかと私は思った。
私は前を見て,ゆっくりと歩いていた。
そして,死角から誰かが飛び出てきた。
ただ,それだけの話だったけど。
この場合,相手が不機嫌になるか,恐々としながら謝られるか。
その2択。
どちらも望んではいない。
私は取り敢えず,落ちた荷物を拾うことにした。
「…っあ,ごめん一花さん!」
その声を聞いて,私は手を止める。
「私を知ってるの? …若槻」
名字でなく名前を呼ばれた事に驚いた。
そして,私にぶつかった相手が,若槻だった事にも。
「まぁ,隣のクラスだし。ごめんワーク,俺も運ぶよ。ケガしてない? タックルかましてほんとごめん」
「大丈夫。並べ替えなくちゃいけないし」
「そこまでしなくてもあの先生は怒んないよ。ほら,貸して」
ワークを全て引ったくられて,私は若槻の隣を歩く。
「若槻も,廊下とか走るんだ」
「あー怒ってる?」
「怒ってない。ただ意外だっただけ。皆にとっての王子様は廊下なんて走らないらしいから」
「いや,まぁ…よっぽど走らないけど」
会話が続いて,不思議な気分になる。
誰かに自分から話し掛けるのも,珍しいことだった。
さくっと着いた職員室で,数学担当の先生に手渡す。
適当に頭を下げて戻ると,まだ若槻がいた。
「何で走ってたの」
「え?」
「さっき,何か言いかけたでしょ」
「あー。友達が他校の有名な子と知り合いらしくて,今日何人かで遊ぶらしんだよ。そこに無理やり参加させられそうになってて」
逃げたんだ。
私は耳だけで聞きながら,ふーんと思う。
合コンも,今の時代遊ぶと名前を変えるらしい。
若槻が女の子ホイホイに使われるのも,分からないわけではない。
「今日乗り越えれればいいんだけど」
「…じゃあ」
今日の放課後は,暇なんだよね。
「今日1日,私の友達をしてくれない? 放課後,付き合ってよ」
経験したこと無いことも,たまにはしてみたい。
「さっきのお詫びにでも」
「…ん,いいよ」
考え込むような様子を見せた若槻は,短く了承した。
そんな風に呼ばれていることを知っている。
口数は少なく,頭も悪くない。
運動だって,人より出来る。
私を形作る要素は,いつも人間関係で裏目に出た。
同性も,異性も。
友達なんていた試しが無い。
私のことを,好きだといってくれるのは,ただ1人だけ。
たった1人の家族も,他人もなにも変わらない。
猫目の大きな目は,余計に人を寄せ付けないようだった。
「重い…」
運悪く,日直だった私。
数学のワーク回収を,授業中に命じられてしまった。
個別に声をかけないと出さない人のせいで,時間もかかった。
とにかく職員室までが遠い。
階段の最後の一段を下りた時,そこそこ大きな衝撃が私を襲う。
何事かととっさに目を閉じたとき,しまったと思った。
予想通り,出席番号順に並べていたワークは,私を囲むようにバラバラと散らかる。
「いっ……前,ちゃんと見て」
私の生まれながらの硬質な声が,誰もいない階段に静かに響く。
少しの柔らかみもない言葉と声に,またかと私は思った。
私は前を見て,ゆっくりと歩いていた。
そして,死角から誰かが飛び出てきた。
ただ,それだけの話だったけど。
この場合,相手が不機嫌になるか,恐々としながら謝られるか。
その2択。
どちらも望んではいない。
私は取り敢えず,落ちた荷物を拾うことにした。
「…っあ,ごめん一花さん!」
その声を聞いて,私は手を止める。
「私を知ってるの? …若槻」
名字でなく名前を呼ばれた事に驚いた。
そして,私にぶつかった相手が,若槻だった事にも。
「まぁ,隣のクラスだし。ごめんワーク,俺も運ぶよ。ケガしてない? タックルかましてほんとごめん」
「大丈夫。並べ替えなくちゃいけないし」
「そこまでしなくてもあの先生は怒んないよ。ほら,貸して」
ワークを全て引ったくられて,私は若槻の隣を歩く。
「若槻も,廊下とか走るんだ」
「あー怒ってる?」
「怒ってない。ただ意外だっただけ。皆にとっての王子様は廊下なんて走らないらしいから」
「いや,まぁ…よっぽど走らないけど」
会話が続いて,不思議な気分になる。
誰かに自分から話し掛けるのも,珍しいことだった。
さくっと着いた職員室で,数学担当の先生に手渡す。
適当に頭を下げて戻ると,まだ若槻がいた。
「何で走ってたの」
「え?」
「さっき,何か言いかけたでしょ」
「あー。友達が他校の有名な子と知り合いらしくて,今日何人かで遊ぶらしんだよ。そこに無理やり参加させられそうになってて」
逃げたんだ。
私は耳だけで聞きながら,ふーんと思う。
合コンも,今の時代遊ぶと名前を変えるらしい。
若槻が女の子ホイホイに使われるのも,分からないわけではない。
「今日乗り越えれればいいんだけど」
「…じゃあ」
今日の放課後は,暇なんだよね。
「今日1日,私の友達をしてくれない? 放課後,付き合ってよ」
経験したこと無いことも,たまにはしてみたい。
「さっきのお詫びにでも」
「…ん,いいよ」
考え込むような様子を見せた若槻は,短く了承した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる