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10 白いヤモリと第二の四転王。

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 フラレ王ことギル……名前なんて言ったっけ? とにかく、四転王の一人を華麗なるチートでやっつけた俺はモコとリィナを連れて――

「なぁにが華麗なるチートだニャっ。ただ時間止めてあいつの武器をパクっただけじゃないかニャ」
「ウルサいわ猫娘っ」

 せっかくの説明に水を差したモコのおでこに軽くチョップをかましつつも、女の子二人と共に路地裏に分け入った。……そのハズだったんだけど。

「あのっ、私たちはどうしてこのような辛気くさい木造の建物に来てしまってるのです……?」

 俺たちはいつの間にか鳥居をくぐって古びた神社にまで足を踏み入れていた。

「――ちょっと待て、この世界観で何故に神社ぁーーーーーーーっ!?」

 厳かに静まり返っていた境内が俺の絶叫で満たされる。

「いきなり大声を出すんじゃないニャー! 私のプリチーな猫耳に害だニャっ。――それにしても神社なんて場違いなスポット、この世界にあったかニャ……?」

 妖怪の腕時計に失礼な世迷い言が混ざってるが、モコの疑問も頷けるよな。

「場違イトハ何ヤーーーーーッ!!」

 ん、なんか変なエセ関西弁がどっかから聞こえたような……?

「ニャっ!? 賽銭箱の中に変なのがいるニャー!」

 いつの間にか賽銭箱に身を乗り上げて中を覗き込んでいたモコが素っ頓狂な声をあげた、かと思えば賽銭箱から引き抜いた手には真っ白いトカゲみたいな生き物が。

「なんだ、ただのイモリ・・・じゃねぇk――」

井守イモリヤテェ!? ウチハ守宮ヤモリヤーーーーーーッ!!」

 うわっ、喋ったぞこのイモリ!

 突然の叫びで尻尾をピーンと張って腰を抜かしたモコがそいつを放り投げてしまう。

「ダカラ井守イモリチャウデ! ウチハ白守宮シロヤモリ壁白虎ピー・パイフーヤァ!!」

 血がそのまま透けてるように真っ赤な縦長の瞳をさらに赤くたぎらせて怒り心頭のピー・パイ――畜生っ、中国語なんて分かるかぁ!!

「だけどイモリもヤモリも一緒でニャいかニャ……?」

「待てモコ、そいつの前でイモリとヤモリは地雷の気が――!」

 腰を抜かして呆けるモコにかけた俺の警告も既に遅し、白いヤモリの目が深紅一色に染まってしまう。

 あ、完全に地雷原突入したわっ。

「ホナ、コノ壁白虎ピー・パイフー様ガ井守ト守宮ノ違イタルモノヲミッチリ教エ込ンダルッ!」

 そこから賽銭箱に陣取って大層に踏ん張る白いヤモリに、俺たち三人はイモリとヤモリの違いを長々と説教されたのだった……。



「――コレデ井守ト守宮ノ違イタルヤ理解デキタナ?」

「「へぇい……」」

 小生意気に鼻面を上げて白いヤモリがイモリとヤモリの違い論を締め括った頃には、異世界の空はすっかり日が暮れていた。

 ったくあの白ヤモリ、途中から頭が痛くなるくらい複雑な分類学とか聞いてるだけで気の遠くなる進化論にまで説教を飛躍させやがって。その間ずーっと正座させられた俺たちの身にもなれっ!

「――全くニャ。こんなクソ講義聴かされる身にm」

「ありがたいお説きをありがとうございましたぁ!」

 モコの滑りかけた口を背後から慌てて塞ぐ俺。

 危ねえ。うっかり滑らせたモコの不平で説教が延長戦にもつれ込んでしまうところだった。

「それにしても、この国にどうしてこのような建物が……?」

 白ヤモリが出てきたあたりからずっと置いてけぼりを食らっていたリィナが上品なあくび混じりで素朴な疑問を口にする。

 良い子はもう寝る頃合いだからな。ってそんなの今はどうでも良いんだよ。

「フム、説明ガ遅レテモータナ」

 ホントだぜっ。

 これも余計なことをぬかしたモコのせい、あとで身ぐるみ剥いで犯s――またかよコンチクショーっ。

「まーた良からぬことでも考えたニャー?」

 いつものペナルティーで立ちくらみを起こして横倒しになる俺を、モコがしてやったりなジト目で見つめてくる。

 畜生っ、こんなのさえなければ今頃……!

「――説明始メテモエーカ……?」

「どうぞ、お気になさらずにニャ」
「ホンナラ。コノ社ハ、聡明ナル巫女様ト共ニ、コノ世界ヘト転移シタモンヤ」

「転移、巫女……それってもしかして、蛇帝じゃていトワノ・リンネの事ですか!?」

 白ヤモリの説明で何かピンときたのか、リィナが拳をポンと叩いてその名を口にする。

輪廻りんね様ヲ知ットルノカ!?」

 興奮のあまりリィナの慎ましい胸元に飛び移った白ヤモリの態度からして、どうやらドンピシャみたいだな。

「はい。二百年前に我がラルフローレン家のご先祖様がこの世界に召した四転王の一人に、この世のものとは思えないほど白く美しい巫女がいたと言い伝えられています。確か彼女は他の三人と共に隕石衝突を食い止めたはず」
「ホンマカッ。ウウッ、アノ若キ巫女様ガ、ソナイナ偉業ヲ成シ遂ゲタカ……!」

 リィナの伝えた歴史を聴いた白ヤモリの奴、身体をプルプル震わせて感激してるなぁ。

「輪廻様ト共ニ転移シタハエエガ、途中デ社が次元ノ狭間ニ取リ残サレテ彼女ノ様子ガ分カラズジマイヤッタ。ケンド、心配ハイランカッタミタイヤナ――」

「感激してるところ申し訳ニャいけど、トワノ・リンネと言ったら美しい乙女を生きたまま喰らったり若い男と乱れまくったりするとんでもない奴ニャよ……?」
「ンナアホナァ!?」

 急転直下、白ヤモリのけたたましい絶叫が再び境内に響き渡った。

 どうも、二百年の間にとんでもない食い違いが生まれてるみてーだな……。








作:月光壁虎
『ヤモリック・チャント』連載中。
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