失せ物捜しSS集

七海みなも

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29.外れはしない

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【悠真視点】

 じりじりとコンクリートを焼く晩夏の日差しを受けながら、俺は一人、大通りを闊歩している。
 この炎天下、好き好んで出歩いている訳ではない。ただの使いっ走りである。
 と言うのも、腰痛を理由にベッドでアルマジロと化したアヤが、
 「ユウの馬鹿! 何で手加減出来ないの? 体格差を考えてよ!」
 と朝からご立腹な為だ。
 お前もノリノリだったじゃねえか——などと言おうものなら、氷点下の瞳で睥睨されるに違いない。
 言わぬが吉である。
 ご機嫌斜めな彼曰く、
 「游姶堂のフルーツ大福で許してあげる」
 そうなので、ご要望に応えるべく、俺はいそいそと家を出たのだった。
 決して甘やかしている訳ではない、無駄な喧嘩を避ける為である。——自信は無いが。
 自身に言い訳をしつつ角を上がった瞬間、
 「ん?」
 通い慣れた老舗和菓子店【游姶堂ゆうあいどう】の店先に、見慣れぬ看板を発見した。
 「イチジク大福……何だこれ?」
 老舗、それも和菓子店となれば変わり種を敬遠するイメージがあるのだが、ここの店主は冒険好きである。
 今年は自慢の大福にイチジクを入れてみたらしい。
 挑戦にも程があるだろうと眉を寄せた時、ふと、幸せそうに大福を頬張るアヤの顔が浮かんだ。
 彼の好物は苺と葡萄だ。特にフルーツ大福となれば真っ先に苺へ手を伸ばす。
 しかし今日は、
 「栗とイチジクだな」
 直感が言っている。ことアヤに関しては外した試しの無い勘だ。
 暖簾を潜れば、幼い頃から変わらぬ店主の声が迎えてくれる。
 「おう、悪ガキ。いつも連れてる赤毛の嬢ちゃんはどうした?」
 「アヤは嬢ちゃんじゃねえっつってんだろ、野郎だ野郎。それより栗とイチジク、あとメロンくれ」
 「はーん? さては赤毛の嬢ちゃん怒らせたな、お前」
 「だから野郎だっての。耄碌したかオッサン」
 軽口を叩きつつも、見事な動きで箱詰めされていく大福たち。
 季節の果物と新商品に、痛みを忘れてはしゃぐであろう恋人を思い、俺はそっと笑みを浮かべた。


オラクルカードお題「直感、ひらめき」より
お互いに関する直感は外れない。
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