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27.隣の人
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【傑視点】
景色が夕陽に染まる頃。本庁へ戻る道すがら、
「あれっ?」
視界の端に見知った背中を発見し、俺は珍妙な声を上げてしまった。
隣を歩く環さんも気づいたようで、
「あらら。こんな所にいるなんて珍しいね」
不思議そうに首を傾げている。
当然である。
ここは本庁の眼と鼻の先にある公園の中ほど。俺たちのように迂回を面倒くさがる通行人や世を儚むサラリーマン、人生を憂う少々お疲れ気味の人くらいしか寄り付かない、侘しい場所なのだ。
そんな、笑顔とは程遠い公園の花畑の前に佇む二つの背。
黒いジャージ姿の大柄な男性と、蓮の浮かぶ墨染めの着流しを身に纏う痩身——間違えようがない。桜の散る頃に出会った不思議な骨董屋——ユウさんとアヤさんである。
二人は肩を寄せ合い、時折花々を指差しながら、何かを囁き合っている。
はて、今度は何をするつもりなのか——と二人の方へ足を向けた瞬間、
「傑。邪魔しちゃいけないよ」
いつになく厳しい環さんの声が、俺を止めた。はっと顔を向ければ声と同様、真剣な表情の先輩刑事が、ゆっくりの首を横に振る。
「あいつらは今、俺たちとは違う舞台にいるんだ。客にもなれない人間が出て行くのは違う」
解ったらさっさと戻るよ、と言って、環さんは長い足をさくさく動かし先を行ってしまう。
俺は慌てて後を追いながら、しかし未練がましく二人を振り返った時、
「え……っ、」
アヤさんの隣に、狩衣のようなものを着た男性の後ろ姿を見つけた。
どう見ても現代人のものではないそれに、ざ——と血の気が引く。
「た、環さ……ッ」
「お馬鹿。やたら騒いで見つかるんじゃないよ」
環さんは大仰しく肩を竦め、だからとっとと離れたかったのに、と溜息混じりに言う。
「言ったでしょ、お呼びじゃないの。俺たちの相手はどこまで行っても人間なんだから……」
あいつらとは、相手にする世界が違うんだよ——。
そう締めた環さんの顔はいつも通りだったけれど。
俺には何故か、淋しそうに見えた。
Twitterお題「隣の人」より
今はもう【そちら側】に干渉できない環と、解っているから敢えて知らぬ振りをする骨董屋たち。
傑はまだ理解できない。
景色が夕陽に染まる頃。本庁へ戻る道すがら、
「あれっ?」
視界の端に見知った背中を発見し、俺は珍妙な声を上げてしまった。
隣を歩く環さんも気づいたようで、
「あらら。こんな所にいるなんて珍しいね」
不思議そうに首を傾げている。
当然である。
ここは本庁の眼と鼻の先にある公園の中ほど。俺たちのように迂回を面倒くさがる通行人や世を儚むサラリーマン、人生を憂う少々お疲れ気味の人くらいしか寄り付かない、侘しい場所なのだ。
そんな、笑顔とは程遠い公園の花畑の前に佇む二つの背。
黒いジャージ姿の大柄な男性と、蓮の浮かぶ墨染めの着流しを身に纏う痩身——間違えようがない。桜の散る頃に出会った不思議な骨董屋——ユウさんとアヤさんである。
二人は肩を寄せ合い、時折花々を指差しながら、何かを囁き合っている。
はて、今度は何をするつもりなのか——と二人の方へ足を向けた瞬間、
「傑。邪魔しちゃいけないよ」
いつになく厳しい環さんの声が、俺を止めた。はっと顔を向ければ声と同様、真剣な表情の先輩刑事が、ゆっくりの首を横に振る。
「あいつらは今、俺たちとは違う舞台にいるんだ。客にもなれない人間が出て行くのは違う」
解ったらさっさと戻るよ、と言って、環さんは長い足をさくさく動かし先を行ってしまう。
俺は慌てて後を追いながら、しかし未練がましく二人を振り返った時、
「え……っ、」
アヤさんの隣に、狩衣のようなものを着た男性の後ろ姿を見つけた。
どう見ても現代人のものではないそれに、ざ——と血の気が引く。
「た、環さ……ッ」
「お馬鹿。やたら騒いで見つかるんじゃないよ」
環さんは大仰しく肩を竦め、だからとっとと離れたかったのに、と溜息混じりに言う。
「言ったでしょ、お呼びじゃないの。俺たちの相手はどこまで行っても人間なんだから……」
あいつらとは、相手にする世界が違うんだよ——。
そう締めた環さんの顔はいつも通りだったけれど。
俺には何故か、淋しそうに見えた。
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傑はまだ理解できない。
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