失せ物捜しSS集

七海みなも

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18.苦しみ

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【傑視点】

 「あらら、あの人焼死しちゃうね」
 「はっ?」
 穏やかでない科白に、俺は思わず先輩刑事を仰ぎ見た。
 そんな俺に環さんはひょいと肩を竦め、あの人だよ、とかったるそうに指を差す。
 長い人差し指の先を辿れば、何処にでも居そうなサラリーマンが一人、公園のベンチに座っていた。
 「環さん……冗談はやめてくださいよ。不審物どころかゴミ一つ無いじゃないですか。火なんて付きようがありませんって」
 「そりゃあ不審物なんか無いよ、だって火元は彼自身なんだから」
 「それって——」
 どういう意味ですか、と口にしかけた瞬間、背後から悲鳴が上がった。
 振り向けば、文字通り火達磨になり、地面を転げ回るサラリーマンの姿。
 息を呑み、硬直する俺の背中を、先輩刑事が叱咤するように叩いた。
 「今まで与えて来た分だけ、苦しみが返って来ちゃったんだねえ……」
 痴情の縺れは怖い怖い、と戯けながらも、環さんは慣れた様子で現場を仕切り始める。
 俺は——ぎこちない手で応援を呼ぶ事しか出来なかった。


オラクルカードお題「苦しみ」
環が助けに走らないのは「自分が視えるレベルはもう助けられない」と知っているから。そう割り切れるドライさこそ環の強さであり脆さ。
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