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6.過去の執着
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【モブ犯人視点】
安っぽいオフィスチェアに凭れ掛かり、俺は向かいに座る男を睨んだ。
取調室である。
早朝、へらへら笑う刑事に手錠を掛けられた俺は、部下と思しき若い男の運転で連行され、この無機質な部屋に通されたのだ。
麻生と名乗った軽薄な刑事は、調書らしい紙を指先で二度叩くと、
「大変だったでしょ」
唐突に切り出した。
「アイスピックで刺殺……まあドラマなんかじゃよく見る方法だけどさ、実際は効率悪いよね。何度も刺さなきゃいけないし、抜くたび血が飛ぶもんだから、返り血の始末だって一苦労だ」
なあんで大人しく首絞めて殺さなかったの、と呆れたように訊かれ、俺は脱力してしまった。
——意味が解らない。
それこそドラマのワンシーンのように、恫喝紛いの尋問を受けると思っていたのに。
理解した難い刑事——麻生の奥で、記録係を務めている男——傑と呼ばれていた若者が胡乱な眼で麻生を見ている。
信じられない事ではあるが、どうやらこれが常態らしい。
麻生は面倒臭そうに頬杖をつくと、
「恨んでたの?」
「は?」
「被害者の事。何度も刺しちゃうくらい恨んでたの?」
ごく自然な語り口で問うて来た。
拍子抜けする程あっさりした様子に思わず頷いてしまった俺を、ふうん、と鼻で認めた彼は、
「随分優しい復讐だねえ。ま、君にとっては最大級の報復だったのかもしれないけど」
俺なら出会い頭に眼を刺し潰すトコから始めるね——。
興味を失ったように調書の日付を書き始めた。警察らしからぬ彼の態度に、(胸が激しく脈打つのを感じた)俺は指先が悴んでいくのを感じた。
俺は殺人犯である。世間から痛罵されて然るべき犯罪者だ。
しかし法の施行者たる眼前の刑事の方が余程——異常犯に見えて仕方がない。
Twitterお題「過去の執着」より
師匠が失踪し、骨董屋二人と違う世界を生きるようになった環が追えるのは、仇敵だけ。
安っぽいオフィスチェアに凭れ掛かり、俺は向かいに座る男を睨んだ。
取調室である。
早朝、へらへら笑う刑事に手錠を掛けられた俺は、部下と思しき若い男の運転で連行され、この無機質な部屋に通されたのだ。
麻生と名乗った軽薄な刑事は、調書らしい紙を指先で二度叩くと、
「大変だったでしょ」
唐突に切り出した。
「アイスピックで刺殺……まあドラマなんかじゃよく見る方法だけどさ、実際は効率悪いよね。何度も刺さなきゃいけないし、抜くたび血が飛ぶもんだから、返り血の始末だって一苦労だ」
なあんで大人しく首絞めて殺さなかったの、と呆れたように訊かれ、俺は脱力してしまった。
——意味が解らない。
それこそドラマのワンシーンのように、恫喝紛いの尋問を受けると思っていたのに。
理解した難い刑事——麻生の奥で、記録係を務めている男——傑と呼ばれていた若者が胡乱な眼で麻生を見ている。
信じられない事ではあるが、どうやらこれが常態らしい。
麻生は面倒臭そうに頬杖をつくと、
「恨んでたの?」
「は?」
「被害者の事。何度も刺しちゃうくらい恨んでたの?」
ごく自然な語り口で問うて来た。
拍子抜けする程あっさりした様子に思わず頷いてしまった俺を、ふうん、と鼻で認めた彼は、
「随分優しい復讐だねえ。ま、君にとっては最大級の報復だったのかもしれないけど」
俺なら出会い頭に眼を刺し潰すトコから始めるね——。
興味を失ったように調書の日付を書き始めた。警察らしからぬ彼の態度に、(胸が激しく脈打つのを感じた)俺は指先が悴んでいくのを感じた。
俺は殺人犯である。世間から痛罵されて然るべき犯罪者だ。
しかし法の施行者たる眼前の刑事の方が余程——異常犯に見えて仕方がない。
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