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(15)教会の始動と勇者達

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「皆さん、早速仕事に入りますが……そうですね。最近はあまり大怪我の人はいないので完全に治していただいて良いのですが、欠損、命に係わる重病の場合は作業せずに、一旦私に声を掛けて頂けますか?どの程度まで回復させれば良いのかを指示致します」

「「「承知致しました、神父様」」」

 こうして神父と共に、新たに教会の癒し手となった三人は民の前に姿を現して作業を開始した。

 余計なトラブルを起こさない為、事前にその美しい見た目を認識されないように修道服を着た上でベールを纏い、その美貌を認識し辛くさせている上での作業だ。

 イリヤと完全に信頼関係が築かれている者に対してのみ、神父が直接イリヤの無事を伝え、その伝手でこの三人がこの場にいると言う事だけは情報開示されている。

 教会も順調に日々活動できている中で、町、そして神父に対しての一切の憂いが無くなったイリヤは、勇者パーティーの蛮行に対する思いを除けばダンジョン最下層で楽しく過ごす事が出来ていた。

 そんなある日……

「イリヤよ。漸くあの勇者クズ一行がこのダンジョンから出られそうだ。だが、全ての武器は最早手元になく、そなたと同じように聖盾のルナと言う者が囮にされて未だに取り残されておる。見てみると良い」

 思いがけない事を言われて、どうしようかと悩んでしまうイリヤ。
 そのまま放置?一言文句を言いに行く?むしろ魔物をたきつける?

 困惑しながらも、言われた通りに聖盾ルナの情報を心の中で求めると、とある層の一角、岩の隙間に隠れていると言う事が理解できた。

 その姿は満身創痍で、当然裏切られて切り捨てられた事も理解しており、自分だけの力では無事に脱出は難しい事も把握しているように見える。

 以前見せていた強気な態度は一切鳴りを潜めて、絶望の表情をしている。

「今の所、魔物を制御して止めを刺さないようにしておるが……この後はイリヤに全てを一任しようかと思っての」

 突然ルナの生殺与奪の権を与えられたイリヤ。

「その……勇者達の少し後で開放してみてはどうでしょうか?囮にされた恨みは分かります。あのルナは伯爵家の者ですから、勇者に裏切られて囮にされたと発言すれば信憑性は私なんかの言葉よりも遥かに高いです。それで、今後少し危険が伴うのですが、モラル様が無事である事も伝えると……大混乱になるのではないでしょうか?」

 ダンジョンに一人取り残されている聖盾のルナ。

 その事実は……当然勇者パーティーにイリヤの防御魔法が行われていない事による戦力の激減と、イリヤの能力すら犠牲にした回復によるモラル達の戦力激増が原因にあった。

 この状況になる前……

「畜生。魔王を倒したのに……なんでこんなに魔物どもが強いんだ」 

 既に魔王モラルはイリヤの力で復活し、その回復によって更なる力を得ているのだから、系譜の魔物の力が上がっているのも当然だ。

 その上、イリヤの加護とも言える防御魔法がかかっていないのだから、勇者パーティーがこのダンジョンの魔物を無傷で倒せるわけはない。

 そのために障害になっている全ての魔物に苦戦しており、こうしてグレイブの口からも恨み節の様な言葉が漏れている。

 この一行、怪我を負ってしまった場合には既にポーションもないために自然回復を待つしか回復手段が無くなっているのだが、魔力に物を言わせて回復するので常人よりも遥かに早く、重症でも治癒する事は可能だ。

 こうして疲弊しつつ行動していると、連戦連敗が続いて恐怖のどん底に落ちていく。

 怪我を負いつつも何とか魔物に傷をつけて隙を生み出し必死で逃走しているのだが、場合によっては再び下層方面に向かってしまう時も有る。

 この状況が続いているので物音に過敏に反応し、身を寄せ合うようにして必死で上層を目指している。

 そんな中で突然開けた広間のような場所に入ると、前方の出口と自分達が入ってきた入り口から巨大な魔物が続々と侵入してきた。

 明らかに道中から勇者パーティーをつけてきたと言わんばかりに、即この場所に侵入してきたのだ。

「これは……まずいぞ。どうする?」

「ここは出し惜しみしていると、全滅ですね」

「危険。非常に危険」

「どうすんだよ。何故だかここの魔物どもは強くなっていやがる。魔王を失って制御ができていないのか、復讐によるものか知らねーが。この場をどうやって切り抜ける?」

 中央でそれぞれ背を向けた状態で魔物の群れと対峙している、勇者パーティー。

 そんな中、勇者であるグレイブはこの魔物に見覚えがある事を思い出していた。

 公爵家の宝物庫にて家宝である転移の指輪を渡された際に、ついでに見させられたダンジョン内部の魔物一覧だ。

 もちろん今までに帰還した冒険者達の経験や情報を基に作られた書物である為、完全に鵜呑みするなとは言われてはいたのだが……

 そこに記載されていた魔物が、今、正に自分達を囲っている魔物と同じなのだ。

 その情報によればこの魔物は人肉を好み、基本は群れて行動し、一度獲物を認識すると他の獲物には興味が無くなる魔物だったのだ。
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