上 下
115 / 125

ヘイロンとスミカ(1)

しおりを挟む
 日常的に旅をしているヘイロンとスミカ。

 今日は、魔国アミストナに来ている。



 気ままに旅をしているのだが、行く先々の冒険者ギルドで不人気の依頼、例えばリスクが大きいがリターンは少ない依頼や、依頼主の事情によって報酬をあまり出せない依頼を積極的にこなしていた。



 この二人を含む<六剣>達が普通の依頼を受けてしまっては、何のリスクも無しに全て解決できてしまうため、冒険者の仕事を奪ってしまう事になる。



 それは、人族と比較して身体能力が高い悪魔・魔族が住んでいる魔国アミストナにも適用されている。



 そんなかれらは、国王として忙しく働いているアミストナ達に迷惑をかけないように……と、この二人はお忍びでこの魔国アミストナに来ており、気配もアミストナ達に察知されないように、極限まで消している。



「ここも随分と変わったな」

「本当ですよね」



 感慨深げに歩いている二人の目には、悪魔・魔族以外の種族である人族が多数活動しているのが見えている。



「おっ、お兄さん・・・・、可愛い奥さん・・・に特製串焼き、一つどうだい?」



 人族が経営している食事処。

 その正面に屋台まで設置して客を呼び込んでいる一人の男に声を掛けられた二人。



「え?フフ、奥さん?可愛い奥さん??フフフフ、お兄さん、ものすごく見る目がありますね。そこにある串焼き、全部下さい!」



 何故か勧められたヘイロンではなく、スミカが大きく反応して全ての串焼きを買うと言い出していた。



 この店の男……実際はこの男だけではないが、<闇剣>ヨナを含めて<六剣>達の素顔は広く知れ渡っており、その性格もある程度把握されている。



 スミカが食いしん坊でヘイロンと非常に仲が良く、その上押しに弱いと知っているので仕掛けた所、予想以上に食いついてきたという事だ。



「お、おぅ、まいどあり!」



 予想以上のチョロさに微妙な表情の店主だが、スミカの天真爛漫な笑顔、そのスミカを優しく見ているヘイロンを見て何故か嬉しい気持ちになり、さりげなく数本おまけしているので、どちらが負けたのかは良く分からない。



 この男は、もちろん目の前の二人が<六剣>である事も知っており、この世界を救った英雄である事も知っているのだが、敢えてそこは口にしない。



 散々騒がれて少々疲れているだろうと言う気遣いであり、感謝の気持ちもあるからだ。



「ウフフフ、ヘイロンさん。一緒に食べましょう!」

「お前は……店主、助かる」



 しかしヘイロンにはその辺りは全て理解されてしまっているようだ。

 本来のスミカであればこの程度はわかる様なものだが……今はヘイロンの妻と言われて舞い上がって、いや、飛び上がっているので、そこには思い至らない。



 大量の串焼きを収納袋に入れ、機嫌が良さそうにヘイロンの腕に絡みついているスミカ。



 この頃になると互いに好意がある事を隠しもせずに、ロイドや他の<六剣>達からも温かい目で見守られていた。



「ヘイロンさん、あの広場に行きませんか?」



 あの広場とは、以前二人がこの国に来た時に幼い子供達が<六剣>のゴッコ遊びをしていた場所だ。



「お?あそこか。行ってみるか。あのガキンチョ達、また俺達の真似でもしてりゃ面白れーけどな」

「フフ、ヘイロンさん、きっとすっごく格好良くして貰っていると思いますよ?楽しみですね!」



 治安の良くなっている裏通りに入り、やがて開けた場所に到着した二人。



「スミカは俺が守る!」

「ヘイロンさん!!」



 幼い声で聞こえて来たセリフに、二人は苦笑いをする。

 相変わらず子供達は<六剣><無剣>ゴッコをしていたのだが、二人にとっては内容が微妙になっていたからだ。



 最近の<六剣>達の情報がどのように広がっているのかを知る良い機会だと思い、引き続き影から様子を見る。



「フム、ヘイロン殿。最近は修行に身が入っているようですな」

「それ以上に、お二人の仲が良くって羨ましいです。私にも誰かいないのかしら?」



「……おい、スミカ。あれってナユラ役だよな?」

「……そうみたいですね。まさか、そんな噂になっているのですか?でも、今、相当忙しくしているので出会いがないのは事実でしょうけど」



 なんだかいたたまれない気持ちになり、不本意ではあるがこの遊びを中断させる事にした二人は、子供達の前に姿を現した。



「あ~、<炎>と<水>だ!!」

「え?本当だ!本物だ!!!」

「兄ちゃん、姉ちゃん、<六剣>見せてよ!!」



 やはり素顔は割れているようで、一瞬で子供達に囲まれる二人。



「ハハハ、良いぜ。だがよ、先ずは腹ごしらえだ」

「はい!さっき買ってきたばかりの串焼きよ。あわてないで食べてね」

「「「「「「「頂きま~す」」」」」」」



 子供達と楽しく過ごしている二人。

 約束通り<炎剣>と<水剣>を顕現させる。



 もちろん危険が無いように刃周辺には体に影響のない属性の膜を覆わせて、所持者以外が触れても問題ないように配慮もしている。



「すげー、本物の<六剣>だ!」

「こんなにキレイなの、初めて見た!」



 思い思いに感想を口にしている子供達。



「この子達も守れて、良かったですね」

「……あぁ、そうだな」



 その様子を見ている二人は、改めて今と言う幸せを噛みしめているのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

【完結済み】正義のヒロインレッドバスターカレン。凌辱リョナ処刑。たまに和姦されちゃいます♪

屠龍
ファンタジー
レッドバスターカレンは正義の変身ヒロインである。 彼女は普段は学生の雛月カレンとして勉学に励みながら、亡き父親の残したアイテム。 ホープペンダントの力でレッドバスターカレンとなって悪の組織ダークネスシャドーに立ち向かう正義の味方。 悪の組織ダークネスシャドーに通常兵器は通用しない。 彼女こそ人類最後の希望の光だった。 ダークネスシャドーが現れた時、颯爽と登場し幾多の怪人と戦闘員を倒していく。 その日も月夜のビル街を襲った戦闘員と怪人をいつものように颯爽と現れなぎ倒していく筈だった。 正義の変身ヒロインを徹底的に凌辱しリョナして処刑しますが最後はハッピーエンドです(なんのこっちゃ) リョナと処刑シーンがありますので苦手な方は閲覧をお控えください。 2023 7/4に最終話投稿後、完結作品になります。 アルファポリス ハーメルン Pixivに同時投稿しています

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

処理中です...