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ヒルアの最後と<光剣><風剣>(4)

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 この部屋にいるアルフォナ、ナユラ王女、がヒルア第二王子を睨みつけている。



 当然護衛が全て無効化されてしまったヒルア第二王子を守る者等この部屋にはいない。

 いや、この部屋の近くにもアルフォナのせい?で一人もいない状況だ。



「ヒルアお兄様、いえ、反逆者ヒルア!父上、兄上、そして私まで手にかけて頂きありがとうございます。当然、反撃を受けることも想定されているのでしょうね?」

「な、何を言っているんだ?」



 動揺しているヒルアは、周りを忙しなく見ている。

 この状況になってしまったらもちろん近衛騎士は当てにはならないので、悪魔を探しているのだろう。



「フフフ、ヒルア!良くもこれ程の悪事を働いてくれましたね?悪魔の暇つぶし程度の誘いに乗って身内すら殺害するとは・・・楽に死ねるとは思わないでくださいね」



 凍える笑みを浮かべつつナユラはヒルアに宣告する。



「何のことだナユラ。そしてそこのお前、いきなり部屋に侵入し私の近衛騎士を攻撃するとは無礼が過ぎる。一族郎党極刑を覚悟しろ」

「ヒルア!!往生際が悪いですね。王族なら王族らしく罪を認めて謝罪しなさい」



「黙れ!!この私はリスド王国の国王たるヒルアであるぞ。血がつながっているというだけで偉そうな事を言うな!」

「誰もあなたを王などとは認めていない。それに王は、我が兄であるキルハが継承する。父上を殺害したような輩に継承する資格はない!恥を知れ!!」



 この状況をアルフォナは黙って見ている。他国ではあるが王族の争いだ。元近衛騎士としては口を挟むのは憚られているのだ。

 だが、ナユラの安全だけは常に目を光らせている。当然双剣は抜剣したままだ。



「ナユラ、貴様。この私を愚弄するか。そもそもなぜ私が父上と兄上を殺害しなければならんのだ?」

「今更ですね。さっきから辺りを気にしているようですが、あなたの最後の頼みの綱である悪魔は来ませんよ。そこにいるアルフォナ様が滅しましたからね」



「なっ、悪魔を滅するだと?そんな事が出来るわけないだろう」

「それが出来ると言っているのです。あなたは悪魔の誘いに乗り自らの欲望、国王になりたいという欲望を優先させた。せめて王族としてその罪を認めて償いなさい」



「フン、バカバカしい。そもそも王位継承としてはお前よりも私が上だ。父上は亡くなり兄上も最早助からない。当然この私が国王になるのが正義だ。控えよナユラ!!」

「全く救いようがありませんね。ここで少しでも罪を認めればよかったのですが。それにキルハ兄上は既に助かっています。悪魔から情報を得る前に討伐してしまったので、仕方がないのかもしれませんが・・・」



「な、あいつしくじりやがったのか?」

「ヒルア!最早認めたようなものですよ。最後位は潔くしなさい」



 ヒルアは悪魔が倒された事を認識したようで、懐からどす黒い宝玉を出す。



「仕方がない。どうやらお前の言う通り悪魔は滅されているんだろう。だが、玉座は俺の物だ。ここでお前らを消せば何の問題もない。覚悟してもらおうか?」



 黒い黄玉を右手で握りつぶしたヒルア。この宝玉は簡単に握りつぶせる固さのようだ。

 宝玉からは瘴気が出てヒルアの右手に纏わりつき、やがて禍々しい瘴気を発している両端に刃がある棒のような物が表れた。



「ナユラ、俺が最も得意な武具は棒術だ。これでも王族なのでな、身を守るために武術は身に着けている。お前らには少しの情報も与えたくなかったから、こっそりと修行したんだ。それにこの武具、あの悪魔から貰ったものだ。これで俺は常人以上の力を得ている。ある武術を収めていた罪人で試してみたが、軽く一ひねりだったぞ。しかし、棒術は良い。相手を徐々に削れるんだ。あの苦痛と恐怖に歪む顔を長く見られるのだからな。ハハハ。お前も苦痛に歪む顔で俺を楽しませろ?」



 狂気に押されたナユラは無意識に一歩下がってしまう。

 そのナユラを庇うように前に出たのはアルフォナだ。



「随分と自信がおありのようだ。ナユラ王女の護衛の任を任されたこのアルフォナ、受けてたとう」

「下民が王であるこの私と刃を交えることすら不敬だ。だが良いだろう。お前の苦痛に歪んだ顔をナユラに見せれば、絶望のスパイスになるだろう。かかってこい」



 瘴気をまき散らす棒を体の正面で回転させながらヒルアは自分の優位を疑わない。

 確かにヒルアは人知れず棒術を鍛えてきた。

 実際に棒術で右に出る者はいないくらいの腕前なのは確かなのだが、相手は悪魔を歯牙にもかけないアルフォナだ。



 その悪魔から貰った武具をもってしても敵うはずがないのだが、そんな事までは頭が回らないヒルアは自分の勝利を確信して挑発する。



「どうした?今更怖気づいたか?だがもう手遅れだ。お前たちは俺の秘密を知ってしまった。死罪以外にはありえんぞ!」



 恐怖に歪んだ顔をしていないナユラとアルフォナに、恐怖を植え付けようとしている。



「あぁ、スマンな王子殿。始めて見る武術であったので観察してしまったが、注目すべき点は今の所なさそうだ。良ければもう少し本気を出してくれないか?」



 アルフォナは、近衛騎士として武に対して貪欲だ。あらゆる武術を知っておけば対処も容易いし、自らの武を向上させる糧にもなる。

 今回は、正直雑魚を相手にしているのでかなり余裕があり、棒術という武を研究している所なのだ。



「フフフ、面白いことを言うな下民!良いだろう。その身を削られる恐怖に怯えながらその目で確認すると良い」



 回転させる速度を上げつつヒルアはアルフォナに突撃する。

 アルフォナは一瞬期待に目を輝かせるが、やがてため息を履きつつ<土剣>を一閃する。



「ぐぁ~・・・」



 衝撃波でヒルアは吹き飛ばされ、壁に激突する。

 棒は既にアルフォナにより粉々にされ、消滅している。



「ば、なんだお前は?そうだ、その剣、その力、俺の為に使え。この王である私に仕える事を許そう」



 ヒルアの戯言など一切興味がないとばかりに、アルフォナはナユラと話を始める。



「ナユラ王女!この者の処遇はいかがする?あの打ち合わせ通りか?」

「そうですね、この場で処刑ではこの王城にいる不穏分子に恐怖を与えることはできません。なので、今は生かしておきます。その後、最低でも公開処刑ですね」



 何やら騒いでいるヒルアをよそに、二人の中で結論は出たようだ。

 アルフォナは<土剣>の特化能力である<重力>を使用してヒルアを拘束する。



 かなりの圧がかかっているようで、呻いてはいるが動けないようだ。

 やがて、激痛に意識を失ったヒルアの襟を乱雑に掴んだアルフォナは、ナユラ王女と共にこの部屋を後にした。



「ナユラ王女、思った以上に早く終わってしまった。ヘイロン殿の向かった先はよくわからないので、一旦キルハ王子の部屋に戻っていいだろうか?」

「そうしましょう。緊張していたのですが、あっけなかったです」



 実際は六剣所持者同士の位置関係は剣の力に慣れれば難なく掴むことができるが、ヘイロン、スミカ、アルフォナはこの力を使いこなせるまでには至っていない。ヨナとロイドは使うことができるのだが・・・



 程無くしてキルハ第一王子の部屋に辿り着いた二人は、ヒルアを乱雑に放り投げると近くの椅子に座り、お茶を飲み始めた。



「ヘイロン様達はご無事でしょうか?」

「六剣所持者が二人もいるんだ。全く問題ない」



 そんな話をしつつ、優雅にお茶を飲んでいる。

 実際はヘイロン達が戦闘をしている激しい地鳴りが聞こえてきてはいるのだが、六剣所持者の強さを見せつけられているナユラ王女としても本気で心配しているわけではないので、気にせずお茶を楽しんでいるのだ。
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