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騎士アルフォナ(1)

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 クズ王子に近衛騎士除名を言い渡されたアルフォナは、彼女の家族、いや、弟と妹を養うために魔獣の討伐を決意する。



 伝説の剣の洞窟からある程度距離はあるが、この辺りにはダンジョンが多数ある。

 入場退出は規制されており、この時間から行っても入れるのは夕方以降になってしまう可能性が高い。そして、たとえ入れたとしても価値のある魔獣がいるとは限らない。



 しかし、幾つかの例外ダンジョンは存在する。



 そう、入れば死亡する可能性が極めて高い超高ランクダンジョンだ。

 アルフォナは、今月分の給金を得ることができない状態で突然除名された。



 つまり、大至急金子が必要なのだ。

 だが、ふと冷静に考えると、今着ているフルプレートの鎧と双剣はフロキル王国から支給されたものだ。



 いや、双剣についてはユリナスの近衛騎士になった時点で、護衛対象であるユリナスから直接渡されるのが慣例である為、ユリナスから手渡しで渡された物なのだが・・・



 あのクズ王子はこれらの備品はアルフォナの物であると言い切っている。

 つまり、敬愛するユリナスから渡された双剣以外のこの鎧は即売却しても問題ないと思い立った。



 一旦ダンジョンに向かおうとした足を止め、即フロキル王国の第四防壁内にある武具屋に足を運ぶ。



 一般に武器を必要とする冒険者は、現在活動真っ盛りの時間であるために店は閑散としている。

 アルフォナとしては、余計な目がなくて丁度良かったのだが・・・



「店主、相談だ。今私が来ているこのフルプレート、売却したとするといかほどになる?」

「これはいらっしゃいませ。少々<鑑定>させて頂きたいがよろしいですか?」

「無論だ」



 アルフォナは、手に持っていた兜を店主に渡す。

 店主は手に取り<鑑定>を行っているようで、じっと兜を見つめている。



「これはなかなか良い素材を使っておりますな。今着られている全ての鎧を一括で売却頂けるとすると、金貨20枚でいかがでしょうか?」



 金貨20枚となると、10歳の家族二人が慎ましく暮らすには半年は持つだろうか?

 願ってもない金額だ。

 アルフォナは、あのクズ王子に仕えるようになってから月に金貨4枚しか貰っていなかったので、これを渡せば時間的な余裕ができることになる。



「じゃあ、さっそく頼む」



 思いがけない金額になり安堵の息を漏らすアルフォナ。実際他の近衛騎士達は、少なくとも金貨20枚は毎月貰えている事など知る由もない。



 鎧の売却で手に入れた金貨20枚全てを家族に送金したアルフォナだが、ここで自分が完全な文無しであることに気が付く。

 家族にばかり目が行ってしまい、その件が落ち着いて状況を確認したらこのありさまだったのだ。



 生真面目に家族を想うアルフォナらしい結果と言えるが・・・



 だが、幸い長く使い続けている愛着のある双剣もあり、近衛騎士に支給されている収納袋もあり、その中には緊急時の食料、水、ポーションが常備されている状態だ。



 これだけあれば、魔獣の討伐でお金を稼ぐことができると思いなおしたアルフォナは、当初の予定通りダンジョンに向かうために防壁から外に出た。



 彼女の向かった先は、Sランクダンジョン・・・そう、ロイド一行が修行をしているダンジョンだ。



 ダンジョンに到着したアルフォナ。当然このダンジョンは危険であることは承知している。

 しかし、通常のダンジョンで手に入れられる魔獣の金額はあまり高くない事と、競争相手が多すぎる上に、更には自分は単騎で全てを行わなくてはならない不利な要因が重なっていることから、少々の危険があっても選択はここしかないのだ。



 パーティーが組めていれば少々話が違ってくるのだろうが、すでに近衛騎士として長く使えていたために、彼女は28歳だ。

 この年齢でパーティーを組んでくれる人は中々いないだろう。



 一方残された弟妹はもう13歳だ。すでに送金した金貨20枚あれば間もなく14歳になるだろう。二人共病弱な部分があるため心配ではあるが、そこまですれば、自分の足で立ち上がれるはずだ。



 実際アルフォナ自身も、14歳の時には近衛騎士になっている。

 弟妹と違って、頑丈だったアルフォナだからできたことかもしれないが・・・



 今後アルフォナに最悪の事態が起こったとしても、あの金貨20枚で暮らしている間に、生活の基盤を整えられるはずだと思っている。



 とは言っても、自殺しに行くわけではない。自分の今後の生活基盤を整えるるために行くので、慎重・安全に行くことを心に誓い、ダンジョンに侵入する。



 敬愛するユリナスから頂いた双剣を構えて、慎重に歩を進めるアルフォナ。

 しかし、彼女の緊張とは裏腹に、一切の魔獣の気配がない。



 Sランクダンジョン故に、魔獣の能力が高く気配が察知できないのかと更に警戒度を上げるアルフォナだったが、実際に襲われることなく階層のボス部屋まで来てしまった。



 これは、言うまでもなくロイド一行が魔獣を狩り尽くしており、再度魔獣がダンジョン内で生成されるには一日以上かかるからだ。



 しかし、フロアボスは状況が異なる。

 たとえ討伐されたとしても、即次の魔獣が生成されるのだ。



 部屋の中から、強烈な魔獣の気配を察知したアルフォナは額の汗を拭い、ダンジョン初戦闘がいきなりフロアボスと言う有得ない状況での戦いが始まった。



 いくらSランクダンジョンと言っても、実は一階層ボスはBランクだ。

 いきなりSランクが出現するなどと言うことは無い。



 Bランクと言えば討伐に相当な強さを要求されるが、他の近衛騎士達と違い、日々愚直に鍛錬を繰り返し行ってきたアルフォナにとっては、討伐はそう難しいことではなかった。



 ユリナスに双剣を渡された際に伝えられた言葉、

「私の騎士アルフォナ、あなたには光る才能が眠っています。しかしその才能を開花させるか枯らせるかはあなた次第。その年で近衛騎士になれる程積み重ねた努力をそのまま続けることができれば、その行いが養分となり才能は開花するでしょう。期待していますよ」



 一字一句忘れることのないこの言葉を頼りに、クズ王子に仕えることになってしまった日々でさえ鍛錬を欠かしたことは無かった。

 その成果が、Bランクの魔獣でさえ寄せ付けない強さを手に入れたのだ。

 難なくボスをクリアし、安堵の表情のアルフォナ。



「ふぅ、思ったよりも楽に仕留めることができたな。これはどの程度の価値があるのだろうか?」



 そう言いつつ魔獣を収納袋に収納後、双剣の状態を確認する。



 この双剣はアルフォナの生命線であり、ユリナスと自分をつなぐ唯一の物だと思っているため、彼女の命そのものと言っても過言ではない。それほどこの双剣を大切にしている。



 双剣についた汚れを落とし、刃こぼれもないことを確認したアルフォナは、一階層を後にして二階層に進む。



「ふむ、このSランクダンジョンと言うのは、通常では魔獣が出ない仕様なのか?」



 道中、相変わらず一匹の魔獣も現れないダンジョンを一人で歩くアルフォナ。しかし、油断はしていないのが彼女の生真面目な性格を表している。



 そして、同じ状況で二階層も踏破し三階層に差し掛かると、一瞬遥か先で戦闘を行っていたような気配を感じた。

 こんなSランクダンジョンに来る冒険者などいないので、アルフォナは今の状況を考慮してある仮設を立てた。



 とある魔獣がこの階層の魔獣を襲っており、そのため魔獣を見ることができない。そして、その魔獣はこの先で戦闘を終了したばかりの状態である・・・と。



 実際に魔獣との戦闘は行われていたが、その相手は魔獣ではなく、ある意味もっと危険度の高いロイド達である事を除けば凡そ正解にたどり着いている。
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