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その後(3)
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「シアちゃんいるかい?」
「少々お待ちください」
……トタトタトタ……
【癒しの雫】に入ってきた常連の初老の女性が受付で業務をしているラスカとミバスロアに向かってこう告げると、ギルドの奥からシアの元気の良い足音が聞こえてくる。
「休んでいたのかい?すまないねぇ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。どうぞ、座ってください!」
このギルド【癒しの雫】ではメンバーの募集も行っていないので、ここに来る第三者は依頼を頼みに来る者か、本当に時折自らの実力を勘違いした無知な連中がギルド所属を熱望してやってくるか、遊びに来るかの三通りに限定される。
その為にホールが人で込み合う事もないので、大きめの机に設置してある椅子を女性に勧めるシアと、ギルドの依頼書が張られているボード横に設置したままの、非常に高価な魔道具の水を使った紅茶を持ってくるミバスロア。
【癒しの雫】設立当初や、本当に厳しい時代も含めて長く付き合いのある人々は時折フラッとこの場に来ては、特に依頼をするわけでもなく会話を楽しんで帰って行く事も良くある事だ。
「今日は、少しお願いがあってね。実はこの前レベニちゃんがウチの孫に綺麗な魔術を披露してくれたのさ。それから孫が魔術に興味を持ってね」
レベニは、魔王国の四星第三席の位置にいる普通の人々にとっては脅威にしかならない存在であるはずなのだが、今はすっかり【癒しの雫】の下働きとして周辺住民に認識され、更には【癒しの雫】のメンバーに怯え切っている姿を見られているので、周辺住民に優しくしてもらっている。
もちろん大人しくなった四星や魔王ゴクドに対して余計な圧をかけたりする事はない【癒しの雫】だが、当人達は毎日内心最大の恐怖心と闘いながら生活していた。
こう言った事情から、周辺住民との触れ合いが多くなっている【癒しの雫】にいる四星。
「そうなのですか?それは良かったです。一応確認ですけれど、危ない攻撃魔術とかではなかったのですよね?」
「アハハハハ、そんなわけないじゃないか、シアちゃん。空中で本当に綺麗な花火のような魔術を披露してくれたんだよ。で、孫もその魔術をできるようになりたいと自己流で頑張っているけれど……。何も知識がないのにできる訳がないから、少し基本を教えてもらえないかと思ってね」」
「そうですか。わかりました。レベニさ~ん!」
「お待たせしました、マスター!」
シアの呼び声が終わる直前に、ものすごい勢いでシアの前に現れたレベニ。
【癒しの雫】としてはいつもの事だが、初老の女性にとっては初めて見る光景であったらしく驚いている。
「レベニちゃん、なんだかすごいねぇ。そんなに急がなくてもシアちゃんは怒ったりしないだろうに」
「い、いいえ。偉大なるマスターをお待たせするなど、許される事ではありませんから」
言葉遣いもすっかり丁寧になって、まるで別人のレベニ。
さりげなく手が濡れているのは、恐らく食器を洗っている最中だったからだろうか……
「話、聞こえていましたよね?危なくない範囲でお願いしても良いですか?」
四星と言う、一応隔絶した力を持つ者であるが故に、建屋の話程度は少々離れていても聞き取る事ができる事を知っているシアは、改めて説明する事なくレベニに対応を依頼する。
実はその実力のせいで、シアが初老の女性に対してレベニが使った魔術が危険であったかどうかを聞いていた時、レベニは相当不安になっていた事は誰にも知られていない。
形式上はマスターからのお願いと言う体になっているが、レベニ達にとっては絶対に断ってはいけない天上からの声であるため、迷う事無く受ける。
「承知しました。では、何時が宜しいでしょうか?」
「すまないねぇ、レベニちゃん。孫が喜ぶよ。じゃあ早速お願いしても良いかい?」
レベニと共に【癒しの雫】を出て行く女性は、自宅でお礼としてレベニをもてなし、その後孫と楽しく触れ合いながら遊びの魔術を教えるレベニ達を優しく見つめている。
このような触れ合いが行われるので、レベニだけではなくカロラ達も【癒しの雫】周辺の人々と打ち解け、楽しく過ごす事ができるようになっている。
……ザワザワ……
【癒しの雫】は城下町の最も外側に近い位置にあるので、その周囲に住んでいる人々の家からも外の喧騒が聞こえてくる。
「おっ、レベニ!ここにいたのか。リビル陛下からの緊急依頼だから、ちょっくら行って来るぜ!」
騒がしくなっている門の方に急ぎ足で向かっているミハイルが、子供と遊んでいるレベニを見つけて足を止めずに笑顔で話しかける。
その手には、フレナブルやカスミ達が持っている様な美しくも寒気がするような武具が握られており、更にはミハイルのこれ以上ない位の笑顔。
「あ!【癒しの雫】のミハイルさんだ!ねぇねぇ、祖母ちゃん!俺も付いて行っても良い?」
魔術に興味津々の孫らしくミハイルの後を追って魔術が見たいと言い出すのだが、ある程度【癒しの雫】の状況を把握しているレベニは凄惨な光景になるか、周囲に甚大な被害を及ぼす事は間違いないと必死で孫をこの場に留めるべく、無駄に魔術を行使する羽目になっていた。
その後……大きな振動が起こり、レベニだけはやはり孫をミハイルに同行させなくて良かったと心から思っていたのだ。
「少々お待ちください」
……トタトタトタ……
【癒しの雫】に入ってきた常連の初老の女性が受付で業務をしているラスカとミバスロアに向かってこう告げると、ギルドの奥からシアの元気の良い足音が聞こえてくる。
「休んでいたのかい?すまないねぇ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。どうぞ、座ってください!」
このギルド【癒しの雫】ではメンバーの募集も行っていないので、ここに来る第三者は依頼を頼みに来る者か、本当に時折自らの実力を勘違いした無知な連中がギルド所属を熱望してやってくるか、遊びに来るかの三通りに限定される。
その為にホールが人で込み合う事もないので、大きめの机に設置してある椅子を女性に勧めるシアと、ギルドの依頼書が張られているボード横に設置したままの、非常に高価な魔道具の水を使った紅茶を持ってくるミバスロア。
【癒しの雫】設立当初や、本当に厳しい時代も含めて長く付き合いのある人々は時折フラッとこの場に来ては、特に依頼をするわけでもなく会話を楽しんで帰って行く事も良くある事だ。
「今日は、少しお願いがあってね。実はこの前レベニちゃんがウチの孫に綺麗な魔術を披露してくれたのさ。それから孫が魔術に興味を持ってね」
レベニは、魔王国の四星第三席の位置にいる普通の人々にとっては脅威にしかならない存在であるはずなのだが、今はすっかり【癒しの雫】の下働きとして周辺住民に認識され、更には【癒しの雫】のメンバーに怯え切っている姿を見られているので、周辺住民に優しくしてもらっている。
もちろん大人しくなった四星や魔王ゴクドに対して余計な圧をかけたりする事はない【癒しの雫】だが、当人達は毎日内心最大の恐怖心と闘いながら生活していた。
こう言った事情から、周辺住民との触れ合いが多くなっている【癒しの雫】にいる四星。
「そうなのですか?それは良かったです。一応確認ですけれど、危ない攻撃魔術とかではなかったのですよね?」
「アハハハハ、そんなわけないじゃないか、シアちゃん。空中で本当に綺麗な花火のような魔術を披露してくれたんだよ。で、孫もその魔術をできるようになりたいと自己流で頑張っているけれど……。何も知識がないのにできる訳がないから、少し基本を教えてもらえないかと思ってね」」
「そうですか。わかりました。レベニさ~ん!」
「お待たせしました、マスター!」
シアの呼び声が終わる直前に、ものすごい勢いでシアの前に現れたレベニ。
【癒しの雫】としてはいつもの事だが、初老の女性にとっては初めて見る光景であったらしく驚いている。
「レベニちゃん、なんだかすごいねぇ。そんなに急がなくてもシアちゃんは怒ったりしないだろうに」
「い、いいえ。偉大なるマスターをお待たせするなど、許される事ではありませんから」
言葉遣いもすっかり丁寧になって、まるで別人のレベニ。
さりげなく手が濡れているのは、恐らく食器を洗っている最中だったからだろうか……
「話、聞こえていましたよね?危なくない範囲でお願いしても良いですか?」
四星と言う、一応隔絶した力を持つ者であるが故に、建屋の話程度は少々離れていても聞き取る事ができる事を知っているシアは、改めて説明する事なくレベニに対応を依頼する。
実はその実力のせいで、シアが初老の女性に対してレベニが使った魔術が危険であったかどうかを聞いていた時、レベニは相当不安になっていた事は誰にも知られていない。
形式上はマスターからのお願いと言う体になっているが、レベニ達にとっては絶対に断ってはいけない天上からの声であるため、迷う事無く受ける。
「承知しました。では、何時が宜しいでしょうか?」
「すまないねぇ、レベニちゃん。孫が喜ぶよ。じゃあ早速お願いしても良いかい?」
レベニと共に【癒しの雫】を出て行く女性は、自宅でお礼としてレベニをもてなし、その後孫と楽しく触れ合いながら遊びの魔術を教えるレベニ達を優しく見つめている。
このような触れ合いが行われるので、レベニだけではなくカロラ達も【癒しの雫】周辺の人々と打ち解け、楽しく過ごす事ができるようになっている。
……ザワザワ……
【癒しの雫】は城下町の最も外側に近い位置にあるので、その周囲に住んでいる人々の家からも外の喧騒が聞こえてくる。
「おっ、レベニ!ここにいたのか。リビル陛下からの緊急依頼だから、ちょっくら行って来るぜ!」
騒がしくなっている門の方に急ぎ足で向かっているミハイルが、子供と遊んでいるレベニを見つけて足を止めずに笑顔で話しかける。
その手には、フレナブルやカスミ達が持っている様な美しくも寒気がするような武具が握られており、更にはミハイルのこれ以上ない位の笑顔。
「あ!【癒しの雫】のミハイルさんだ!ねぇねぇ、祖母ちゃん!俺も付いて行っても良い?」
魔術に興味津々の孫らしくミハイルの後を追って魔術が見たいと言い出すのだが、ある程度【癒しの雫】の状況を把握しているレベニは凄惨な光景になるか、周囲に甚大な被害を及ぼす事は間違いないと必死で孫をこの場に留めるべく、無駄に魔術を行使する羽目になっていた。
その後……大きな振動が起こり、レベニだけはやはり孫をミハイルに同行させなくて良かったと心から思っていたのだ。
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