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ジャロリア国王の愚行(1)
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大陸が安定している以上、故郷、古巣に戻りたい人物は多数いるので、ジャロリア王国の住民も増えて順調に国力を復活させていた。
ルーカス率いる【勇者の館】も、魔王国からの侵攻を完全に止めたと言う偉業を達成したと称えられた事から加入希望者が殺到したため、魔獣に対して恐怖を植え付けられて戦闘ができなくなっているルーカスやドリアスが依頼をこなす必要がなく安定した運営ができている。
「やはり余は神に愛されている。そう思わんか?リビル公爵」
王城の謁見の間で、日に日に住民が増加しているとの報告を受けていたジャロリア国王が、横に立っているリビル公爵に機嫌良さそうに話しかけている。
真実を知っているリビル公爵は、素直に回答する事ができずに少々棘のある言い方をしてしまう。
「あのルーカスが魔王国を抑える事ができるとは思えませんね。【癒しの雫】であれば信頼できますが……私の知るルーカスは、敵前逃亡位しか実績がありませんから」
「……貴様、余の言葉を、あの宣言を否定するのか?」
「そうなりますかね?」
完全に不敬の極みで処刑されても文句は言えない程の返しだが、ジャロリア国王はそれ以上の言葉を続ける事が出来なかった。
何せ目の前のリビル公爵の背後には間違いなく【癒しの雫】が控えており、自分の後ろには【勇者の館】。
ルーカス率いる【勇者の館】がリビル公爵の言う通りに魔獣や魔族に対して力がない事を知っており、【癒しの雫】の数々の実績も知っているので、大義名分を得るまでは報復を恐れて何もできない国王。
ジャロリア国王の推察通り、実はこの場にもリビル公爵の護衛として【癒しの雫】のペトロが潜んでいるのだが、その実力の高さから誰にもその存在を知られていない。
リビル公爵が王城に登城する際には必ずペトロが護衛を実施しており、公爵に多大な恩があると言って譲らない【癒しの雫】からの申し出をありがたく受けている本人ですらペトロを認識できていないのだが、信頼関係があるので必ずこの場にいると信じている。
「フン。次は……ルーカスか」
リビル公爵の嫌味を一蹴するかのような態度で、次の謁見を行う。
国王としては、ルーカスとの謁見で【癒しの雫】が逆賊であるとの大義名分を得て、擁立しているリビル公爵を始末しようと考えたのだ。
貴族達のリビル公爵への信頼は高く、ただ一人だけ領地に一切の被害がなかった実績もあり、国王としては自らの権威を脅かす最大の脅威とみなしていた。
「面を上げよ」
謁見の間にいるのは【勇者の館】の代表であるルーカス、受付であるエリザ、事務職のルーニーだ。
「今日はどうしたのだ?」
「はっ。我らSランクギルドとして活動の幅を広げておりますが、少々あの場所が手狭になっておりました。魔獣を仕留めた際の納品、ギルド本部の近くであるのでそこだけは良いのですが、王都中心に運搬するのが非常に非効率です。以前から計画しており、魔王国の対処に追われて中断しておりました新規のギルド支部を得たく考えております」
かなり前、【癒しの雫】が資格剥奪の瀬戸際にいた頃に防壁付近にある【癒しの雫】を乗っ取って【勇者の館】の支部にすれば、所属冒険者達が素材を即収めて再び効率的に魔獣を狩れると企んでいた。
その計画を再び実施する事で邪魔な【癒しの雫】を排除できるし、【勇者の館】の実績は増やせると考えたのだ。
「フム、悪く無いな。して、その候補地はどこだ?」
事前にある程度の話を直接聞いていたのだが、敢えてこの場で聞き返しているジャロリア国王。
二つ返事で賛成していたのだが、その戦闘力は認めている為に直接乗っ取るのは危険と判断して、この謁見の間でのやり取りを周囲の者達に聞かせる事で【癒しの雫】に非があるかのように思わせる事にしたのだ。
「やはり防壁の近くにある場所、そしてある程度ギルドとしての体裁が整っている建屋が良いかと考えておりますので、今はジャロリア王国所属ではない【癒しの雫】の場所が適当かと」
「なるほど、一理あるな。で、あの場所を買い取るのか?」
「はい。そもそも【癒しの雫】はジャロリア王国にありながら一切依頼を受けておりません。国家の利益にならない、そもそも国家としてギルドと認定していない以上、無駄に戦闘力を持っている不穏分子の集まりと言う事になります。当然国家に納税もしていないのですから、その手綱を握っているアルゾナ王国に移住させるのが妥当かと思います」
「その通りであるな。他国の為に活動し、他国に税を納めておる。これは極めて不公平であろう?」
周囲の貴族達も、眉唾ではあるが魔王国からの侵攻を抑えたと国王が認めている【勇者の館】の実績を認めざるを得ず、ルーカスや国王の言う通り【癒しの雫】がジャロリア王国の依頼を受けていない事から、誰も反論する事はなかった。
ただ一人、リビル公爵を除いて……
「【癒しの雫】は周辺の民の依頼を受けております。それもほぼ無償で。更に、皆さん早くもお忘れですか?あの魔王国の侵攻が苛烈になった時、どこが一番安全だったのでしょうか?ついでに陛下、そこまで言われるのであれば私にも言い分があります。そこのルーカスが逃げ回っている時、【癒しの雫】に防壁の修理か修理中の魔獣の対処をお願いしに行ったそうですね?」
「……何を言っている?」
ルーカス率いる【勇者の館】も、魔王国からの侵攻を完全に止めたと言う偉業を達成したと称えられた事から加入希望者が殺到したため、魔獣に対して恐怖を植え付けられて戦闘ができなくなっているルーカスやドリアスが依頼をこなす必要がなく安定した運営ができている。
「やはり余は神に愛されている。そう思わんか?リビル公爵」
王城の謁見の間で、日に日に住民が増加しているとの報告を受けていたジャロリア国王が、横に立っているリビル公爵に機嫌良さそうに話しかけている。
真実を知っているリビル公爵は、素直に回答する事ができずに少々棘のある言い方をしてしまう。
「あのルーカスが魔王国を抑える事ができるとは思えませんね。【癒しの雫】であれば信頼できますが……私の知るルーカスは、敵前逃亡位しか実績がありませんから」
「……貴様、余の言葉を、あの宣言を否定するのか?」
「そうなりますかね?」
完全に不敬の極みで処刑されても文句は言えない程の返しだが、ジャロリア国王はそれ以上の言葉を続ける事が出来なかった。
何せ目の前のリビル公爵の背後には間違いなく【癒しの雫】が控えており、自分の後ろには【勇者の館】。
ルーカス率いる【勇者の館】がリビル公爵の言う通りに魔獣や魔族に対して力がない事を知っており、【癒しの雫】の数々の実績も知っているので、大義名分を得るまでは報復を恐れて何もできない国王。
ジャロリア国王の推察通り、実はこの場にもリビル公爵の護衛として【癒しの雫】のペトロが潜んでいるのだが、その実力の高さから誰にもその存在を知られていない。
リビル公爵が王城に登城する際には必ずペトロが護衛を実施しており、公爵に多大な恩があると言って譲らない【癒しの雫】からの申し出をありがたく受けている本人ですらペトロを認識できていないのだが、信頼関係があるので必ずこの場にいると信じている。
「フン。次は……ルーカスか」
リビル公爵の嫌味を一蹴するかのような態度で、次の謁見を行う。
国王としては、ルーカスとの謁見で【癒しの雫】が逆賊であるとの大義名分を得て、擁立しているリビル公爵を始末しようと考えたのだ。
貴族達のリビル公爵への信頼は高く、ただ一人だけ領地に一切の被害がなかった実績もあり、国王としては自らの権威を脅かす最大の脅威とみなしていた。
「面を上げよ」
謁見の間にいるのは【勇者の館】の代表であるルーカス、受付であるエリザ、事務職のルーニーだ。
「今日はどうしたのだ?」
「はっ。我らSランクギルドとして活動の幅を広げておりますが、少々あの場所が手狭になっておりました。魔獣を仕留めた際の納品、ギルド本部の近くであるのでそこだけは良いのですが、王都中心に運搬するのが非常に非効率です。以前から計画しており、魔王国の対処に追われて中断しておりました新規のギルド支部を得たく考えております」
かなり前、【癒しの雫】が資格剥奪の瀬戸際にいた頃に防壁付近にある【癒しの雫】を乗っ取って【勇者の館】の支部にすれば、所属冒険者達が素材を即収めて再び効率的に魔獣を狩れると企んでいた。
その計画を再び実施する事で邪魔な【癒しの雫】を排除できるし、【勇者の館】の実績は増やせると考えたのだ。
「フム、悪く無いな。して、その候補地はどこだ?」
事前にある程度の話を直接聞いていたのだが、敢えてこの場で聞き返しているジャロリア国王。
二つ返事で賛成していたのだが、その戦闘力は認めている為に直接乗っ取るのは危険と判断して、この謁見の間でのやり取りを周囲の者達に聞かせる事で【癒しの雫】に非があるかのように思わせる事にしたのだ。
「やはり防壁の近くにある場所、そしてある程度ギルドとしての体裁が整っている建屋が良いかと考えておりますので、今はジャロリア王国所属ではない【癒しの雫】の場所が適当かと」
「なるほど、一理あるな。で、あの場所を買い取るのか?」
「はい。そもそも【癒しの雫】はジャロリア王国にありながら一切依頼を受けておりません。国家の利益にならない、そもそも国家としてギルドと認定していない以上、無駄に戦闘力を持っている不穏分子の集まりと言う事になります。当然国家に納税もしていないのですから、その手綱を握っているアルゾナ王国に移住させるのが妥当かと思います」
「その通りであるな。他国の為に活動し、他国に税を納めておる。これは極めて不公平であろう?」
周囲の貴族達も、眉唾ではあるが魔王国からの侵攻を抑えたと国王が認めている【勇者の館】の実績を認めざるを得ず、ルーカスや国王の言う通り【癒しの雫】がジャロリア王国の依頼を受けていない事から、誰も反論する事はなかった。
ただ一人、リビル公爵を除いて……
「【癒しの雫】は周辺の民の依頼を受けております。それもほぼ無償で。更に、皆さん早くもお忘れですか?あの魔王国の侵攻が苛烈になった時、どこが一番安全だったのでしょうか?ついでに陛下、そこまで言われるのであれば私にも言い分があります。そこのルーカスが逃げ回っている時、【癒しの雫】に防壁の修理か修理中の魔獣の対処をお願いしに行ったそうですね?」
「……何を言っている?」
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