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魔王国とジャロリア王国

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 ラトールは、フレナブルからの指示でゴクド達に対して軽く魔術を行使した。

「あら?困りましたね……」

 フレナブルがこんな事を言っているのは、ラトールの魔術一回で五人全員の意識が完全に無くなってしまったのだ。

 特に右手を失っているカロラは、自らが止血のために行っていた術も意識を失った事で無効化され、このままでは程なくして死亡する。

「これではラトールの実力が相当上だと説明ができませんね。う~ん、どうしましょうか。あっ、一応止血だけはしてあげましょう」

 フレナブルの善意によって止血処置だけは終了するが、今回の戦闘があまりにも瞬殺であったために、五人の意識が戻っても再び牙をむいて来る事は容易に想像できる。

 暫く悩んだフレナブルは、仕方がないので五人の意識を強制的に戻して再び戦闘を行う事にしたのだが、五人はフレナブルの予想とは裏腹に、意識を戻すとラトールに異常におびえていた。

 一応魔族最強と言っていただけあって、完全に何が起きたか把握はできないが、見た目雑魚のウサギの魔獣に手も足も出ずにしてやられた事だけは理解できたのだ。

 魔族は力が全てと言う本能から、ラトールに怯えてしまっている五人。

「あら?予想と違って皆さん少しは何が起きたのか理解できたようですね。感心です。で?私の躾はどのようになるのでしょうか?」

「ひぃ」

 少々圧を加えたフレナブルの言葉に反応できたのはゴクドのみだが、反応と言ってよいのか悲鳴と言ってよいのかわからない言葉しか出てこない。

「本当にがっかりです。これ以上は本当にイジメですね。一度しか言わないので、よく聞いてください。今後【癒しの雫】周辺やアルゾナ王国に手を出した場合、本当に躾に行きます。あっ、【勇者の館】はどのようにしてもかまいませんが、周辺の被害は認めません。そうそう、ジャロリア王国の王城に住んでいる王族や周辺貴族もどうでも良いですね。ですが、他……特にリビル公爵関係の者達に手を出した場合……わかりましたか?」

「「「「「は、はい!」」」」」

 本当にあっけなく完全敗北した新魔王と四星。

「そうそう、四星三席と随分と煽っていましたが、全く四星の次席に興味がないので手を抜いていただけですよ?疑うのであれば、今ここで証明できますが?」

「滅相もありません!」

 ゴクドの言葉に合わせるように、全員が練習していたのかのようなきれいな土下座を披露する。

「……そ、そうですか。では、私の言った事をお忘れなきよう」

 あまりにも見事な土下座に少々引き気味のフレナブルだが、仕事は終わったとばかりに、ラトールを抱えて大切な仲間と敬愛するクオウの元に急いで戻る。

 残された惨めな五人は、なぜあれほどの強さを持つフレナブルとウサギの魔獣が【癒しの雫】を大切にしているのかを考えていたのだが、そこに先代魔王が存在していると言う結論にだけは至る事が出来なかった。

 フレナブルの発言、【勇者の館】をどのようにしても良いと言う言葉から、先代を始末したルーカスに恨みを抱いていると思ったのだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ルーカスよ、よくやってくれた!」

「私は当然の責務を果たしただけです」

「その謙虚なところも、Sランクに相応しい!」

 フレナブルとラトールの活躍によってここ数か月の間魔王国からの侵攻はなく、通常見かける程度の魔獣がいる程度……クオウが魔王国を統治していた頃の状態に戻ったこの大陸。

 ゴクド達は【勇者の館】やジャロリア王国の王城は攻めて良いと言われているのだが、二次被害を出してしまった際の報復を恐れて大人しくしている。

 もちろん魔王国内部の住民からの突き上げは激しいが、数人見せしめにする事で封殺しており、その力を目にした住民達はそれ以上の脅威が人族の地にあるのだと嫌でも理解させられた。

 安定した状況が数か月も継続すれば各国も余裕が出てくる。
 もちろん国家としてギリギリの状態であったジャロリア王国も……だ。

 間者が魔王国近辺まで調査に入って侵攻の気配すらない事を確認したのだが、その一報を受け取ったジャロリア国王は、国家崩壊直前まで至ってしまった事によって落ちた名声を上げる策を実行した。

 あえてルーカスを再び担ぎ上げて、ルーカスの功績によって今の安定が得られたと公表したのだ。

 どのように、何をしたのかは一切言わない……言えないところがミソなのだが、アルゾナ王国やリビル公爵などは魔王国に楔を入れたと【癒しの雫】から事後報告を受けているので、ジャロリア王国に対して謝意を送るようなことはしないが、あえて否定する事もしなかった。

 本来は【癒しの雫】の功績であると大々的に伝えたいところだったのだが、ギルドマスターのシアから、大事にしたくないと言われているので黙っている。

 これは【癒しの雫】の総意であり、今まで以上にジャロリア王国で騒がれて周辺の住民達に迷惑をかけたくなかったのだ。

 ジャロリア国王は、虚偽の発表後暫くは魔王国や、本当に魔王国に楔を入れた者がいるのであればその者からの報復に対して最大限警戒していたのだが、それもない事に気を良くする。
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