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クオウの決断

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 一方のハンナは、ルーカスの相手をしていない門番に進み出る。

「私達が行ってしまった事、到底許される事ではありません。私からこのような事をお願いするのもご迷惑だと知っておりますが、私の為に犠牲になってしまったフィライト様にお礼を伝えたいのです」

 門番は暫く悩んでいたが顎でついて来るように指示を出すと、防壁に沿って歩き出す。

「ここだ。フィライト様はお前をかばう為に、あの状況で防壁上部から飛び降りた」

「記憶にあります。そして私なんかを逃がしてくださいました」

 防壁の前には一つの立派な墓標があり、絶えず献花しているのだろう……色とりどりの花がおかれている。

 ハンナは黙って膝をつくと頭を下げて、手を合わせて祈り続ける。

 門番も、ハンナは相当腹が立つ一行のうちの一人ではあるのだが、本当にフィライトの為に祈っていると感じているので黙ってその祈りが終わるのを待っていた。

「ありがとうございます。入国できない事は理解しましたが、時折こちらで祈りを捧げさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 立ち上がり、お礼を告げながらも希望を伝えるハンナに対し、門番はぶっきらぼうにこう答えて、再び門に戻って行く。

「……周囲に迷惑をかけなければ、良いだろう」

「ありがとうございます」

 ハンナの声を背中に聞きながら、未だに喚いているルーカスや放心状態のドリアスの周囲に集まり始めている騎士や冒険者達の元に向かう門番だ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ゴクド様、ジャロリア王国からルーカス一行が逃亡しました。国王は烈火のごとく怒っているようですが、ルーカスは移動先のアルゾナ王国に門前払いを食らったそうで、厚顔無恥にも再びジャロリア王国に入国したとの事ですが、一人だけ……ハンナと言う魔術師だけはアルゾナ王国の防壁外で野営をしているそうです」

「プッ、やはりあのルーカスはゴミだったか。そのハンナとかいう者は気でも触れたのだろう。捨てておけ。今回の侵攻でフレナブルが手を出してきそうな限界もある程度把握できた。だが、ジャロリア王国の王都となると何も検証できていない。そこはどうするのだ?ジスドネア」

「フレナブルは確かに脅威になっておりますが、難しい所ですね。今の所は、防壁のみ破壊して撤退するように伝えております」

 魔王国側の判断など知らないジャロリア王国は、混乱の極致にいる。

 祖国を守ろうと立ち上がっていた冒険者たちはアルゾナ王国に移籍し、国家認定Sランカーは闇夜に紛れて逃亡した挙句、臆面もなく再びジャロリア王国にのうのうと戻ってきたのだから……

 その上、ギルドから一歩も出る事なく防壁が破られてもその姿勢は変わらないので、国王も全てを諦めて逃亡を図ろうとした所、急に魔獣達が去って行ったのだ。

 破壊された防壁とは真逆の位置にある【癒しの雫】側の防壁は健在で、周囲の住民もいつもと変わらずに生活をしている。

 少々日用品や食料が手に入りづらくはなっているのだが、そこは【癒しの雫】の力で軽く解決できており、今日ものんきにギルドの中で数人が寛いでいる。

「本当に、困ったもんだね~。前の魔王がいた頃は平和だったけど、頂点が変わると一気に世界が変わってしまうね~。何とかならんもんかねぇ」

 回復機能のあるあり得ないお茶を飲みつつ、ギルド【癒しの雫】で雑談をしているのは周辺に住んでいる一般住民である初老の女性達。

「本当だよ。こんなに急に環境が変化するなんて……困ったもんだ」

 直接相手をしているのはギルドマスターであるシアなのだが、その能力の高さゆえにクオウも話は全て聞こえてしまっている。

 その夜……

「今日来てくださった方達の話が聞こえました。俺としても、事務仕事を楽しくしていきたいのですが、最近はジャロリア王国の混乱は目に余ります。所属は違いますが、本拠地はここですからね。それと、その混乱の元凶となっている魔王国……そこで、祖国でもある魔王国に対して警告を行いたいと思いますが、如何でしょうか?」

「如何でしょうかって、クオウの旦那。俺達は結構な強さになっちゃぁいるが、国家を相手にするのか?」

「ミハイルさん、お気持ちはわかりますが……ゴクド程度は脅威になり得ません。何なら、私だけでも捻り潰す事は可能ですが……」

 魔族であるクオウとアルフレドは納得の表情で頷いているが、他はゴクドと呼ばれている新魔王の実力を知らないので、不安そうな顔をしている。

「心配して頂けるのはありがたいですが……わかりました。ラトールを連れて行けば安心していただけるのではないでしょうか?」

 ラトールの実力の一部を既に見せてもらっている【癒しの雫】のメンバーは、自信満々に宣言しているフレナブルの強さを知っているし、同族の二人も自信満々の表情を崩さないので受け入れる。

「でも、絶対に無理はしないでくださいね」

「フフフ、ありがとうございます、シア様」

 翌朝、ギルド【癒しの雫】の前に豪華絢爛な馬車と多数の騎士が現れる。

 騎士を伴ってギルドに無遠慮に入って行くのは、誰あろうジャロリア王国の国王であるホトム・ジャロリアだ。
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