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ギルド本部受付の二人(1)

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 【癒しの雫】の近くで渡された暖かい飲み物を口にしながら泣いている二人の頭を、優しく撫でる初老の女性。

 彼女は、【癒しの雫】が資格剥奪の危機にあるときも、変わらずシアに依頼を出して支えようとしていたうちの一人であり、最近は無駄によく切れすぎる包丁の調整を頼んでいた。

 この女性だけではなく、昔から【癒しの雫】を支えてきたつもりの周辺住民にとってみれば、フレナブルが魔族……“だから何だ”と言う話であり、魔獣の脅威から幾度となく助けてくれたギルドに対しては感謝こそあれ、非難する理由など一つもないと思っていた。

 寧ろ【癒しの雫】に対して恩しかないはずの国家や、この混沌とした状況を生み出した挙句、幾度となく【癒しの雫】に助けられているはずのルーカスに対して怒りがわいていたのだが、日々の生活以上の事が出来るわけもない。

……ガラガラ……

 馬車の音がしたので二人を伴って外に出ると、予想通り公爵家の紋章が刻まれた馬車が護衛の騎士を伴って【癒しの雫】前に停まったところだった。

……ギィ……

 扉が開き、リリア・リビル公爵令嬢が降りてくる。

「リリア様」

 普通は侯爵令嬢に気軽に話しかける事はできないが、【癒しの雫】繋がりで顔見知りの為に普通に会話ができると言う素晴らしい関係になっていた。

 顔見知りの女性から声をかけられたリリアは、一切不快そうな顔をすることなく笑顔で対応する。

「まぁ、お久しぶりです。如何されましたか?」

 リリアの立場であれば配下の騎士がギルドマスターとなっていた事もあり、ギルド本部の受付の情報は全て入っている。

 その情報を思い出し、【癒しの雫】の担当受付と元【勇者の館】の担当受付であったと内心で確認すると、恐らく現状の劣悪な業務環境の事だろうと判断しつつも、相手が話すのを待つ。

「実はこの二人はギルド本部の受付ですが、私の所まで根も葉もない噂が流れているのです。何か手を貸していただく事は出来ませんか?」

「やはりそうですか。ギルドはお父様の管轄から外れてしまっておりますので、直接手を出せないのです。失礼ですが、お二人共に御一人ですよね?」

 詳細な情報を思い出しつつも、この二人には身寄りが無かったはずだと確認するリリア。

「「……はい」」

「では一つの選択肢ですが、【癒しの雫】の職員になってしまうと言うのは如何でしょうか?そうすれば、勤務地はここですが所属はアルゾナ王国です。それに、この周辺は皆さんが【癒しの雫】を必要としている方々ですので、過ごしやすいのではないですか?」

「良かったじゃないか!あんな噂を平気で流す連中やそれを信じる連中がいる場所にいるべきじゃないよ!さっさと下らない過去は捨てちまいな!」

 ラスカとミバスロアはこの申し出を即座に受けたい気持ちにはなっているのだが、とある思いがあり二の足を踏んでいる。

 【癒しの雫】は隣国のアルゾナ王国認定のギルドであり、受けるかどうかは別にして、ジャロリア王国のギルド本部の依頼は、指名依頼や緊急依頼でなければ受けられない。

 今は、ジャロリア王国周辺の魔獣対策依頼を受けて報酬を得ており、且つSランクギルドとしての定期的な収入があるはずなのだが、自分達二人……受付が必要かと言うと、確実にそうではない。

 それに、異常に優秀な事務職のクオウがいるので、そこに余剰人員が押し掛ける形になってしまうのだ。

「中々入ってこないので、どうしたのかと思いましたよ」

 豪快に馬車の音がしており、どう見てもリアント狙いのリリアが来ているはずなのに、中々ギルドに入ってこない事を訝しんだクオウが顔を出す。

 最近はラトールの存在もあってすっかり周辺の警戒を行っていないクオウは、直接その目で状況を確認しに来たのだ。

「クオウ様!実はこのお二方……」

「はい、大丈夫ですよ。是非一緒に働いて頂けますか?」

 警戒はせずともその基礎能力の高さから話は聞こえてしまうし、情報はペトロによって逐一報告されているので、既にシアと相談の上、二人が希望するのであれば受け入れようと決定していた。

「中々来ていただく様子が無いので、正直ヤキモキしていた所ですよ。それに、皆さんには過去に【癒しの雫】の資格剥奪を何とか延命しようとして頂いた恩がありますからね。今後は共に仲間として働ける事、嬉しく思います」

 突然話が纏まってしまい、驚きつつも喜んでいるラスカとミバスロア。

 本当に今迄辛かったので、【癒しの雫】側から言って貰えた事もあり、その行為をありがたく受け取る事にした。

 自分達を励ましてくれた初老の女性の後押しもあり、二人は翌朝ギルドマスターであるツイマに辞表を叩き付ける。

「私達、この時点を持って退職いたします」

「貴方には全くお世話になっていません。むしろ迷惑しかかけられていませんけれど……同僚の皆さん!今までお世話になりました。逃げるようで申し訳ありませんが、もう限界で……」

 涙ながらにこう宣言する二人だ。
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