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ルーカスは……

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 あっという間に脅威となっていたSランクの特殊個体を始末、いや、惨殺と言った表現が正しいのだろうが、二体の魔獣を片付けてジャロリア王国にさっさと帰ってしまった【癒しの雫】の二人、フレナブルとカスミ。

 ルーカスは、同じSランカーであるフレナブルの圧倒的な強さをその目で確認した際に、何故そこまで驚異的な強さなのかを疑問に思い始めていた。

 同じく【癒しの雫】に所属しているAランカーのカスミも相当な強さだったが、あれは本人の力も相当上がってはいるが、手に持っている武具によるところが非常に大きい。

一方のフレナブルの武具も相当だが、そもそもの実力が桁違いだと言うのは流石に現場を見ればわかる。

 二人が使っていた武具は異常な強さなのは間違いなく、相当貴重な素材を慎重に管理した上で非常に高い技術をもって創り込まなくては出来ない代物である事は、誰の目から見ても明らかだ。

 実はこの管理と言う部分は、クオウが事務処理能力に物を言わせて厳密に管理していたおかげでもあり、ミハイル達だけではここまでの武具を作成する事は出来ない。

 そんな情報はさておくが、武具込みでのランク付けとしてもあまりにも強すぎるフレナブル。

 武具を持っていない素の時点でも相当な強さを誇っていたはずだと言う事を思い出すルーカス。

 初めて【勇者の館】で会って一瞬で虜にされた時、易々と巨体の男を片手で持ち上げていたのだから。

 あれだけ華奢な女性が出せる力ではない事は、誰がどう見ても明らか。
 そうなると……導き出せる結論は一つ。

 人族ではないと言う事だ。

 この世界には敵対している魔族を始めとして、様々な種族が活動している。

 種族によっては、見た目では測れない程の力を持っている場合があるのだ。
 そう、フレナブルのように。

 ジャロリア王国に戻り、久しぶりにギルドの私室に戻ってゆったりしているので色々な事を考える事が出来ていたおかげか、漸く真実に辿り着いたルーカスは、現実的にあそこまで人族と言っても間違えない程の容姿を持てる種族がなんであるかを考える。

 ドワーフ……あれだけ長身になる訳がない。そもそもスレンダーな体系からして有りえない
 エルフ……耳は普通の人族だ。
 獣人族……尻尾も無ければ耳も普通。
 
 そうなると、残るは魔族しかない。

 逆に魔族だとすると強さも納得できるし、その美貌も有りえない事ではないのだ。

「敵対している者を取り込んでいるとは恐れ入ったぞ、【癒しの雫】。今までは自作自演か?何れにしても、この事実は即座に公表せねばならないだろう!」

 全く事実無根ではあるが、フレナブルが魔族をわざと嗾けて人族を窮地に陥らせ、それを自ら解決して見せている自作自演の可能性すらあると思っているルーカスは、これこそ自らのギルドの立ち位置を上げる秘策だと言わんばかりに久しぶりに余裕の表情でギルド本部に向かう。

 既にルーカスは個人でBランク、ギルドもCランクに格下げになっている上、蛮行が知れ渡っている為に周囲からの評判は極めて悪い。

 逆に【癒しの雫】の評判は一気に上昇しており、最盛期の【勇者の館】であったとしても比較にすらならない程の過熱ぶりだ。

 冒険者のほぼ全てが【癒しの雫】への加入を熱望しており、且つ武具の作成依頼を必死で行っているのだが、以前から加入依頼は受け付けていない上に最近は全ての武具作成依頼も断られていた。

 そんな事から、冒険者達からは【癒しの雫】も憧れがこじれて妬みの対象になっている場合もある。

「ツイマはいるか!」

 ギルド本部の適当な受付に、もう態度は変える必要はないとばかりに横柄に話すルーカス。

 腐っても元Sランカーであり、その辺の素行の悪い冒険者程度は捻り潰せる力が有るので、受付としても完全に無下には出来ない為に一人が奥に消えていく。

「お待たせしました」

 休憩していたらしいツイマが、本部の奥から急いでルーカスの元にやってくる。

「ギルドマスターと話がしたい。俺は【癒しの雫】の真実を掴んでしまった」

 以前は直接予約なしでギルマスと話せる立場だったが、最早そのような事は不可能なため、担当受付のツイマを通すしか道はない。

「真実……と申しますと?」

「ここでは言えない。非常に重要な事だ。早く取り告げ!」

 受付達はツイマを除いて全員が【癒しの雫】の味方と言って良い。

 ギルドマスターのラクロスも表向きは公平だが、どう見ても【癒しの雫】の肩を持ちがちだ。

 そのような事情程度ルーカスは知っており、その上で重要な案件があると言っている以上、ギルドマスターに報告する以外の選択肢はないツイマ。

 一旦席を外してその後戻って来ると、ルーカスを奥に案内する。

「ルーカス様をお連れしました」

「入ってくれ」

 こうしてツイマと共に、久しぶりにギルドマスターの執務室に入るルーカス。

 ここのギルドマスターのラクロス。

以前は受付のある場所で執務をしていたのだが、【勇者の館】が降格した時を境に執務室で作業をするようになっていた。

「で、ルーカス。【癒しの雫】の重大な案件があると聞いたのだが?」

「……あぁ。俺達は新魔王の脅威に対して命を懸けて戦闘している。魔王とは、魔族を統べる王。つまり、魔族も敵だ。ここまでは良いか?」

 普段通り横柄な態度ではあるが、真剣に話している以上は話を聞く姿勢を崩さないラクロスは、先代魔王の事も有って全ての魔族が敵とは言えないとは思いつつも、続きを促す。

「【癒しの雫】は強い。そこは流石に俺も素直に認めよう。だがな、その原動力となっているSランカーのフレナブル。冷静に考えれば人族じゃあり得ない力だと言う事が理解できるはずだ」

 ラクロスは表情を一切変えないが、同席しているツイマはゴクリと唾を飲む。

「で、早速結論だが、あの女は俺達の敵である魔族だ。【癒しの雫】全員が魔族と言う訳ではなさそうだが、もう一人、二人は魔族がいてもおかしくないだろうな。あの蟻好きの男アルフレドなんざ、怪しいぜ」

 自らの主であるサステナ・リビル公爵の娘であるリリア・リビルも、今ルーカスがこき下ろしている蟻型魔獣であるリアントが大好きなのだが……と思わず口にしそうになったラクロスだが、ここも堪えてルーカスの話に耳を傾ける。

「そうなると、あいつらが魔王の手先で国家を乗っ取る可能性すらあり得る。ギルドとして、いや、あんたは公爵家の騎士だったな。国家中枢として、見逃して良いのか?」

「そ、それは一大事ではないですか。そこまでの情報、良く手に入れられましたな、ルーカス様」

 全く微動だにしないラクロスをよそに、ツイマはルーカスの情報に目をむいていた。
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