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【癒しの雫】の方針(3)

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 何故かツイマも警備として駆り出されている模擬戦会場では、漸く本命の戦闘が行われる事になった。

 名目上は模擬戦となっているが、壇上に上がる八人の有象無象が装備している武具は通常の依頼時に使う装備、いや、通常ではあり得ない程豪華な装備になっている。

 これ程の装備、しかも模擬でも何でもない装備を付けているのだが、対戦相手のペトロが何も文句を言わない以上問題ないと判断される。

 もちろんこれらの武具はルーカスが準備して分け与えた装備であり、武具込みの力でランクが考慮される人族としては、既にBランク程度の力は発揮できる程の武具になっている。

 対してペトロは無手であり何も装備していないのだが、そのまま進行される。

「では、これより【癒しの雫】所属Bランカーのペトロ殿と、加入希望者の模擬戦を実施する。審判はギルド本部のマスターを務めているラクロスが務めさせていただく。ペトロ殿が勝利すれば、希望者の【癒しの雫】への加入は一切認められない。逆に勝利すれば、加入は認める。双方これで良いか?」

 壇上の全員が頷くのを確認したラクロスは、両者の間に距離をとらせる。

 ラクロスとしても、国王やリリア、そしてリリアの父であり自らの主人でもあるリビル公爵の予想と同じく、ペトロの圧倒的な勝利、瞬殺だろうと判断しているので、少しでも長く時間を稼ぐため、そしてこの世界を救うギルドになると確信している【癒しの雫】に余計な手間を二度と掛けさせないようにする為に、長々と条件を述べていた。

「始め!」

 その条件の中には、勝敗を決する言葉は入っていない。
 言う必要もなく勝利が確定すると知っているので、そのまま開始を宣言する。

 ペトロを囲うように移動する八人の冒険者。
 その手には神々しい武具、剣や短剣、槍や魔術を補助する杖が握られている。

「うっかり制御が甘くなって、致命傷を負わせてしまっても仕方がないよな。これ程俺達をコケにしたのだから、報いを受けろ!」

 ブレムの言葉が終わると同時に、ほぼ中央に位置していたペトロに対して一斉に攻撃を仕掛ける八人の冒険者達は、最低限の連携は取れているようで、同士討ちを防ぐべく魔術を行う者は遠距離攻撃ではなく支援魔術を冒険者にかけていた。

 審判をしているラクロスの想定以上の速さでペトロに突っ込む有象無象。

 これは万が一も有るかもしれないと一瞬思ってしまったのだが、中央にいるペトロに辿り着くかどうかと言った所で、支援魔術を行っていた一人を除いて中央に向かった全員が前のめりに倒れた。

「えっ?何?」

 ただ一人取り残された、無駄に豪華な杖で支援魔術を行っていた一人は困惑しているが、その一人もいつの間にかその場で倒れ伏す。

 ラクロスでさえ視認できない速度で、ペトロが全員を仕留めたのだ。

 流石は元伝説の裏ギルドのギルドマスター。

 もちろん仕留めたと言っても、命に別条がない程度に打撃を加えただけに留めている。

「し、勝者ペトロ!!」

 少し長めの沈黙の後、ラクロスの宣言に一斉に会場が沸き立つ。

 【癒しの雫】のメンバーは勝って当然と思っているので、周囲の客と同じ様に沸き立つ事は一切ない。

 この姿を見て、国王を始めとした国家中枢の人物達は、改めて【癒しの雫】に対する信頼度を大きく上げる事になった。

 この祭りの様な会も終わりを向かえるのだが、そこで再び【癒しの雫】に対して国王が宣言する。

「皆の者、良く聞くが良い。ここには本部ギルドマスターであるラクロスもいるので丁度良いだろう。此度は【癒しの雫】の冒険者の実力の一端を全員が見る事が出来たと思う。最早その高い実力は疑いようがない。よって、ギルドからの申請はない状態ではあるが、【癒しの雫】所属冒険者であるペトロ、シルバ、カスミの三名を余の権限を持ってこの場でAランクに認定する」

「「「「「うぉ~~~~~~~!!!」」」」」

 突然の宣言。
 それも前例がない程の条件でのランクアップに、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。

 その結果、【癒しの雫】所属冒険者はSランカーのフレナブル、そしてそれ以外は全員がAランカーとなったのだ。

 この特殊ランクの冒険者は、所属ギルドに対して補助が出る。

 もちろんギルドランクがAになっている時点でギルドに補助が出るのだが、高い戦力を維持するための名目で、更に補助が出る事になるのだ。

 この補助、金銭の他にも優遇処置があるため、どれだけAランク以上の冒険者を抱える事が出来るかも、ギルドの信頼度の指標の一つになっている。

 一方のルーカス。
 かつて個人でAランクであったドリアスとハンナは未だBランク。

 Aランク昇格申請をしているのだが、受け付けて貰えない状態が続いている。

 少しでも【癒しの雫】にダメージが与えられればと思って奮発した武具も、何の成果も得られない状態で放出してしまう結果となった。

 良く考えれば茶番だが、こうして無駄な新規加入を防いだ【癒しの雫】。

 その後の内輪の話し合いで、魔族と共に活動していると言う重大な秘密も有る事だし、今のところ新規加入は受け付けないと公にする事が決定した。
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