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魔獣襲来の現実と【勇者の館】(3)
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「……うっ、く。おい、お前ら!」
未だ城内では防御態勢をとるためにてんやわんやの最中だが、漸くルーカスが意識を取り戻した。
常備しているポーションを飲んで警戒するが、目の前には頭の一部に穴が開いて既に物言わぬ状態になっている二体のスピナ。
「俺が意識を失っている間に、こいつらが?いや、ないな」
取り敢えず安全は確保できたと考え、周囲で未だ気絶している【勇者の館】所属冒険者達の意識を覚醒させてポーションを飲ませる。
最後まで戦えていたのは自分だけだったはずなので、この場にいる【勇者の館】の他の冒険者がスピナを倒したとは考えられないルーカス。
そもそも、こぶし大の大きさの穴をあのスピナに貫通させるような武具を誰も持ち合わせていないのだ。
まさかその攻撃を行ったのが、強化はされていたがただの石とは思えないルーカス。
周辺を見回しても、その石は遥か彼方に飛び去った後であり、その痕跡は一切残っていない。
「この穴…魔術であればなんだ?」
「風魔術…でしょうか?断面の様子から炎魔術でない事だけは明らかですが、でも、あの炎魔術でもダメージの無かったスピナに対して、これほどの貫通力を誇る攻撃、やはり風魔術も考えられません。もっと他の、わかりませんが何かがあったと思います」
ルーカスと炎魔術を行使していた冒険者がスピナを確認しているが、結局誰がどのように倒したのかは分からなかった。
「流石は【勇者の館】だ!これで王都は無事だ!」
スピナを囲うように話し込んでいるルーカス達に、漸くスピナが倒れている事を確認した騎士の一人が馬に乗ってやってきた。
この騎士の話を聞く限り、誰もスピナを倒した状況を確認していないと判断したルーカスは、さりげなくスピナの穴に自らの剣を差し込み、斬撃の後を加える。
「当然だ。この俺、俺達【勇者の館】にかかれば、この程度の魔獣は敵ではない」
【勇者の館】冒険者は、ルーカスの言葉の意味を瞬時に理解して誰も何も言わない。
「ただ、今回の戦闘で少々武具を消耗した。報酬の一部として、この首から上は俺達が貰うぞ」
「承知しました。その旨は伝えておきます」
現実は手も足も出ずに無様に全員吹き飛ばされて気絶していたルーカスを含む【勇者の館】だが、最大の脅威であるスピナ二体はいつの間にか絶命しており、迎えに来た騎士も勝手に【勇者の館】が始末したと思い込んでいるので、その流れに乗る事にしたルーカス。
怪しまれる事が無いように、どのように攻撃されたかの痕跡が残る首から上をでっち上げた理由で回収し、ギルドに戻った際に焼却する事にしていた。
「流石は【勇者の館】!」
「ルーカス様!ありがとうございます!!」
正に久しぶりに聞く事が出来た、惜しげもない称賛の声。
「ルーカス様、これで【勇者の館】のSランク再昇格も確実ではないでしょうか?Aランクなどと言う不当な評価、これで陛下も撤回されるでしょう」
「……当然だな」
まさかこの場でBランクに落ちていたとは言えないルーカスだが、自分達の手柄ではないが、誰もが【勇者の館】による討伐と疑っていないこの状況であれば、再昇格は確実だろうと思っている。
明らかに驚異的な大きさのAランク分類のスピナ二体を運びながら凱旋しており、民もどれ程の脅威が迫っていたのかを実感すると共に、【勇者の館】に対して称賛の言葉をかけ続けていた。
「おい、俺達はこの素材だけを持ち帰ってから登城する。良いな?」
「はっ。そのように伝えておきます」
この素材とは首から上の部分で、スピナの命を刈り取った攻撃が行われた部分だ。
そのまま先導する騎士、そしてスピナ本体を運搬している者達から【勇者の館】の冒険者は離脱する。
「戻ったぞ。炎魔術を使える者は、全員裏に来い!」
ルーカスの一言で、同行していた高ランカー以外の魔術士が全員【勇者の館】素材解体場に集合する。
「今からこの素材を焼却する。直ぐにかかれ!」
貴重な素材を焼却すると聞いて解体士達は怪訝そうな顔をするのだが、ここではルーカスの命令は絶対。
既に絶命しているスピナの一部は、彼らが全力で魔術を行使する事によって難なく灰すら残らずこの世界から消え失せた。
「良し。それと今回のこの焼却だが、本来素材として活用するべきであったこの部位に致命的な欠陥があったために行ったものだ。正直俺もその欠陥を見抜けなかったために、この部位だけ【勇者の館】で引き取ってしまった事を後悔している。多少悔しい思いがあるし、騒がれるのは不本意だ。よってこの事は他言無用」
大嘘しかないが、これでこの部位を武具消費の補填に活用すると言って半ば強引に持ち帰った素材焼却の理由も説明できたため、再び昇格を告げられる事を期待して登城する事にしたルーカス。
未だ城内では防御態勢をとるためにてんやわんやの最中だが、漸くルーカスが意識を取り戻した。
常備しているポーションを飲んで警戒するが、目の前には頭の一部に穴が開いて既に物言わぬ状態になっている二体のスピナ。
「俺が意識を失っている間に、こいつらが?いや、ないな」
取り敢えず安全は確保できたと考え、周囲で未だ気絶している【勇者の館】所属冒険者達の意識を覚醒させてポーションを飲ませる。
最後まで戦えていたのは自分だけだったはずなので、この場にいる【勇者の館】の他の冒険者がスピナを倒したとは考えられないルーカス。
そもそも、こぶし大の大きさの穴をあのスピナに貫通させるような武具を誰も持ち合わせていないのだ。
まさかその攻撃を行ったのが、強化はされていたがただの石とは思えないルーカス。
周辺を見回しても、その石は遥か彼方に飛び去った後であり、その痕跡は一切残っていない。
「この穴…魔術であればなんだ?」
「風魔術…でしょうか?断面の様子から炎魔術でない事だけは明らかですが、でも、あの炎魔術でもダメージの無かったスピナに対して、これほどの貫通力を誇る攻撃、やはり風魔術も考えられません。もっと他の、わかりませんが何かがあったと思います」
ルーカスと炎魔術を行使していた冒険者がスピナを確認しているが、結局誰がどのように倒したのかは分からなかった。
「流石は【勇者の館】だ!これで王都は無事だ!」
スピナを囲うように話し込んでいるルーカス達に、漸くスピナが倒れている事を確認した騎士の一人が馬に乗ってやってきた。
この騎士の話を聞く限り、誰もスピナを倒した状況を確認していないと判断したルーカスは、さりげなくスピナの穴に自らの剣を差し込み、斬撃の後を加える。
「当然だ。この俺、俺達【勇者の館】にかかれば、この程度の魔獣は敵ではない」
【勇者の館】冒険者は、ルーカスの言葉の意味を瞬時に理解して誰も何も言わない。
「ただ、今回の戦闘で少々武具を消耗した。報酬の一部として、この首から上は俺達が貰うぞ」
「承知しました。その旨は伝えておきます」
現実は手も足も出ずに無様に全員吹き飛ばされて気絶していたルーカスを含む【勇者の館】だが、最大の脅威であるスピナ二体はいつの間にか絶命しており、迎えに来た騎士も勝手に【勇者の館】が始末したと思い込んでいるので、その流れに乗る事にしたルーカス。
怪しまれる事が無いように、どのように攻撃されたかの痕跡が残る首から上をでっち上げた理由で回収し、ギルドに戻った際に焼却する事にしていた。
「流石は【勇者の館】!」
「ルーカス様!ありがとうございます!!」
正に久しぶりに聞く事が出来た、惜しげもない称賛の声。
「ルーカス様、これで【勇者の館】のSランク再昇格も確実ではないでしょうか?Aランクなどと言う不当な評価、これで陛下も撤回されるでしょう」
「……当然だな」
まさかこの場でBランクに落ちていたとは言えないルーカスだが、自分達の手柄ではないが、誰もが【勇者の館】による討伐と疑っていないこの状況であれば、再昇格は確実だろうと思っている。
明らかに驚異的な大きさのAランク分類のスピナ二体を運びながら凱旋しており、民もどれ程の脅威が迫っていたのかを実感すると共に、【勇者の館】に対して称賛の言葉をかけ続けていた。
「おい、俺達はこの素材だけを持ち帰ってから登城する。良いな?」
「はっ。そのように伝えておきます」
この素材とは首から上の部分で、スピナの命を刈り取った攻撃が行われた部分だ。
そのまま先導する騎士、そしてスピナ本体を運搬している者達から【勇者の館】の冒険者は離脱する。
「戻ったぞ。炎魔術を使える者は、全員裏に来い!」
ルーカスの一言で、同行していた高ランカー以外の魔術士が全員【勇者の館】素材解体場に集合する。
「今からこの素材を焼却する。直ぐにかかれ!」
貴重な素材を焼却すると聞いて解体士達は怪訝そうな顔をするのだが、ここではルーカスの命令は絶対。
既に絶命しているスピナの一部は、彼らが全力で魔術を行使する事によって難なく灰すら残らずこの世界から消え失せた。
「良し。それと今回のこの焼却だが、本来素材として活用するべきであったこの部位に致命的な欠陥があったために行ったものだ。正直俺もその欠陥を見抜けなかったために、この部位だけ【勇者の館】で引き取ってしまった事を後悔している。多少悔しい思いがあるし、騒がれるのは不本意だ。よってこの事は他言無用」
大嘘しかないが、これでこの部位を武具消費の補填に活用すると言って半ば強引に持ち帰った素材焼却の理由も説明できたため、再び昇格を告げられる事を期待して登城する事にしたルーカス。
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