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いつもの日常

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 そして歩くこと数分。
 ついにサイモンの家に辿り着いた。

 でかけていたのはたかだか2日なのに、
 まるでもっと長い間いなかったみたいだ。
 ボロボロの建物が、見慣れているはずの景色が、
 別世界のように感じる。

『うわ…ボロ…。崩れそうだけど大丈夫?』
『優シイ言葉アリガト。コレデモタクサン人住ンデルンダヨ』
『へぇーー』

 ビッグケットが軽口を叩きながら建物を見上げていると、
 そのうちひとつの窓がバタン!と開いた。
 あ、あそこは…

「サイモンさん!お帰りなさい!!生きてたのねアナタ!!!」

 大家のアメーリアさんの部屋だ。
 また心配されていた。
 まぁ当然か。人間ノーマンの門の出入りは一々記録及び把握される。
 いつまでも亜人、獣人エリアの東部から帰ってこなかったら、
 事件に巻き込まれたかもしれないと心配もするってもんだ。

『何あれ。子供?』
『イヤ、ノームノ大家ダヨ。』
『ここ、人間ノーマンの家じゃないのか?』

『ココハ人間ノーマンエリアノ中デモ一番外側ノ場所ダカラ、
 何カアレバおーがヤ亜人獣人ガ来ルカモシレナイ。
 普通ノ人間ノーマンハ管理人ヲヤリタガラナインダ』
『あーなるほど』

 人間ノーマンエリアの最外部、貧民たちがたむろするボロいアパート。
 いつどうトラブルが起きるかわかったもんじゃないので、
 身分のよろしい人たちはこんなとこの面倒を見たくない。
 そしてここにはそういう身分の良い人間しか、本来いないのだ。

『ダカラ人間ノーマンジャナクテモ
 ヤッテクレル人ガイルナラアリガタイ。
 ソノ人ニ任セチャエッテ話ヨ』
『ふーん』

「…すみませーん、二晩いなくて。ご心配かけました」 

 そんな話をしていたら、
 アメーリアさんが短い足を必死に動かしてこっちまでやってきた。
 二人の目の前で膝に手を付き、項垂れながら荒い息をつく。

「もう、もう、心配したじゃない…!!」
「いやぁ、仕事探して外に出たらうっかりものすごい大儲け出来ちゃって」
「えっ…!?」

 アメーリアさんはそこで初めて顔を上げて、ビッグケットの存在に気づいた。
 …いや、一応ここに来るまでに気づいてたはずだ。
 しかし気にする余裕がなかった。
 彼女が見上げる先、そこには背の高い猫耳獣人の少女が立っている。

「この子、誰…っ!?」
「ケットシーの混血のビッグケットというそうです。
 この2日、この子と一緒に仕事してました。
 そんですごく稼げたんで、そろそろ家に戻ろうと思って」
「まぁ、まぁ!」

 予想通り、これまでの事をかいつまんで説明すると目を丸くしている。
 しかしサイモンの知る限り、ノームは神経質でネガティブな人種だ。
 下手なことは言わないでおこう。
 あくまでビッグケットが闇闘技場で大暴れしたことは伏せておいた。

「で、ですね…。
 これ、今まで溜めてた家賃です。
 それから今までお世話になった感謝の気持ちとして。
 受け取ってください」

「まぁ!!」

 アメーリアさんには金貨3枚。
 チリンチリンと一際小さな手に渡した。

 家賃自体は所詮これまでのサイモンがなんとか払っていたくらいなので、
 大した額じゃない。
 それより、時折こちらの体調を気遣ったり、
 こないだのように料理の差し入れをくれたりという行動の方が
 とてもありがたかった。
 ぺこりと頭を下げる。
 両手を皿のようにしたアメーリアさんはわなわな震えていた。

「金貨…っすごい…本当に稼いできたのね…!」
「はい、この子が頑張ってくれました」

 照れたように手を出し、ビッグケットを指し示すと

「まぁ、まぁ、ありがとうね…」

 アメーリアは、まるでサイモンの実母のようにビッグケットに頭を下げた。
 何やら褒められているらしい…。
 ビッグケットはその気配を察し、
 耳を小刻みに揺らして満足気に口角を上げた。

「で、あの、すみません。
 ここまでお世話になっておいて少し心苦しいんですが、
 俺このアパートを出ようと思います。
 もう家買えるくらいお金あるんで」

「そう!それはおめでとう!
 出てくことなんて全然気にしないで、
 手持ちが増えたなら当然だもの」

「はい…ありがとうございます」

 ここで意を決して契約解除の話を持ちかける。
 どんなにいい人でも金銭で契約した大家だ、
 少しは引き止められるかと思ったが、
 彼女は予想外にあっさり了承してくれた。
 にこやかに胸の前で両手を打ってみせる。

「じゃあこれから二人で掃除でもするのね?」
「あ、いや…」

 手伝ってもらいたいのは山々だが、手早く色々揃えるためには時間がない。
 とりあえずビッグケットには先に一人で買い物に出てもらおう。
 これでも一応女子だ、欲しいものもあるだろう。

「いえ、掃除は俺だけでします。
 彼女には日用品やなんやらの買い出しに出てもらおうかと」
「そう、それじゃ頑張ってね。終わったらまた声かけて」
「はい」

 そこでビッグケットに向き直る。
 恩人のアメーリアさんにこれからのパートナーの顔見せも済ませた。
 さて…

『ジャ、ビッグケットハ買い物ダ。
 ジルベールノトコ行クゾ』
『あ、通訳ってあいつなのか』
『ソリャ、アイツシカイナイダロ。金積ンデ了承サセル』
『わぁ、悪い金の使い方』
『正攻法ト言エ』

 にやにや笑いつつ、二人で連れ立ってドラゴンライダーの所まで戻る。
 向かうはジルベールの骨董品店だ。
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