上 下
75 / 153

【勇者の館】ルーカス(3)

しおりを挟む
 依頼は完全に達成できたのだが、突然の所属冒険者の降格宣言。

「【勇者の館】はAランクギルドであったな。こやつら二人、Bランクのカードが作成されたか、本部で把握させておけ」

 唖然とするルーカスだが、背後の二人からは一切の反論がないためにここで口を開くのは悪手だと判断し、黙って指示に従っていた。

 ルーカスにとってみれば、この二人がAランクの中でも極めて優秀である事は事実なのだが、Aランクの資格を剥奪されたとしても【勇者の館】にはまだまだAランカーは多数いるので、ここで場を荒らして自分自身に火の粉が飛ぶのを防ぐ方が良いと判断した。

「何も文句がないようだな。自分達の行いを理解しているようだ。次に同じような事があれば、ギルドも含めて処罰対応とする旨、忘れるな」

 厳しい口調の国王に対し、只々頭を下げるしかない【勇者の館】の三人。

 ルーカスは何が何だか分からないまま頭を下げさせられ、ドリアスとハンナに怒り心頭だった。

「次は、【癒しの雫】か。待たせたな。その方らの今回の依頼の成果、更にはギルドの評価にならない依頼も絶えず受け続けていると聞いておる。正に冒険者ギルドの鑑。そのギルドに対して正しい評価をしなければ、余の評価も下がると言うものだ。そこで【癒しの雫】を余の権限によって、今この場でAランクギルドに認定する。それと、ジュラを仕留めた冒険者の名は何という」

「は、はい。フレナブルさん、フレナブルと申します」

 感動しながらも、急な問いかけに慌てて回答するシア。

「そうか。そのフレナブルと言う冒険者、今この瞬間を持って余の権限でSランクとする」

「なっ、そんな馬鹿な!」

 思わず口を開いてしあったルーカス。

 権力・財力・名声、全てが段違いなSランクを、易々とフレナブルに与えた事に納得がいかなかったのだ。

「黙れ!貴様に発言は許しておらん。そもそも、Sランクのジュラをあれ程の状態で狩ってくる人材、Sランク以外にはあり得んだろうが!文句があるならば、貴様の所のAランカーも同じ状態でSランクを狩ってこい!」

 ここまで言われては黙るしかないルーカス。

「少々問題はあったが、街道が安全になったのは良い事だ。以降、余の方からも指名依頼を出す事も有るだろう。これからも恥じない働きを期待しておるぞ!」

 どこに指名依頼を出すとは敢えて言っていないが、その視線は明らかに【癒しの雫】のギルドマスターであるシアを見つめていた国王。

 その後にもう用はないとばかりに、謁見の間から退出して行く。

 残ったのは、玉座の横に立っていた謎の男と背後の騎士達。

 ありえない事続きで、どうにかなりそうなルーカスをよそにその男は話し始める。

「少し楽にして頂いて結構ですよ。先ずは自己紹介ですね。私、サステナ・リビル。これでも一応公爵です。実は私には娘がおりましてね、【癒しの雫】の皆さんの所、そして【勇者の館】の皆さんにも非常にお世話になったようです」

 不思議そうな顔をするルーカス。

 流石に公爵令嬢程の重要人物からの依頼、相談、接触等があれば、少なくともギルドマスターである自分に情報が上がるはずだが、何も聞いていないからだ。

 既に事務方がボロボロである【勇者の館】では、そのような情報は上がってこない程に劣悪になっているが、今回は違った意味で情報が上がっていなかった。

「それは、どう言った事でしょうか?」

 当然ルーカスはそう反応するが、残りの四人はリビル公爵の言っている事を理解していた。

 【勇者の館】の二人はその娘を見殺しにしようとした事を、【癒しの雫】の二人は、実際にリビル公爵の娘であるリリアがしょっちゅうギルドに遊びに来ては、特にリアントを無駄に構い倒している事を。

「成程。あれほどの悪行であればギルドマスターには情報は伝えていない……と。良いですか?今回納品されたゴスモンキ、これに我が娘は襲われました。そこに助けに入ったのが【癒しの雫】の冒険者であるアルフレド。そして、危機的状況に陥る程にゴスモンキを引き連れて着た挙句、逃走したのがそこの二人……言い訳は?」

 初めて聞いた事実に、思わず後方の二人を振り返って見るルーカス。

 自分も相当な事をやらかしているがそこは頭にはなく、今この場での指摘をどうするべきかを必死で考える。

 直接指摘された二人は、震えるだけで何も口にする事ができない。

「そう言う事ですよ、降格の理由は。それに、あなたにも良くない噂が流れていますから、他人事ではありませんね?ルーカス」

 この場で二人をギルドから除名し、【勇者の館】としての体裁を整えようかと考えていた所に、自分に対しても厳しい指摘がなされて黙るしかなくなったのだ。

 ルーカスの予想では、今回の依頼に対する褒賞によって昇格間違いなしと思っていたのだが、ふたを開ければ降格と叱責……正に天国から地獄に落とされただけの謁見となっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

処理中です...