上 下
50 / 153

安全対策のために、秘密を明かす

しおりを挟む
 クオウが出した【癒しの雫】の安全対策として、人族の誰も知識がないので種族名を口にしても問題ないだろうと言う事で、自分の眷属であるラトールを召喚する案を提示したのだが、思わぬ所で待ったがかかった。 

「クオウ様。確かに安全でしょうが、クオウ様が近くにいらっしゃらないと、制御ができなくなりませんか?」

 フレナブルも制御できなくはないが、殆ど力技になるために周囲に多大な被害を及ぼす恐れがあるのだ。

 このラトール、実力は折り紙付きで疑いようはないのだが、クオウから離れる事を極度に嫌う。

 その結果、クオウが外出中に【癒しの雫】にお留守番……は出来ないだろうとフレナブルは判断した。

「確かにラトールは寂しがり屋だからな~」

 ラトールを思い出して何故か嬉しそうにしているクオウだが、仮にラトールがクオウ不在中にクオウを探してこの場で暴れるような事があれば、【癒しの雫】はもとより、この周囲一帯が焦土になる程、超危険な魔獣なのだ。

 ラトールの事を知らないミハイル達は、ただ単にクオウのペットでも呼ぶのかと思っているので聞き流しており、更に安全対策についての話は続く。

「俺達が作る魔道具で外壁の補強は出来るが、中で直接人に攻撃されると……一応防御の魔道具をマスターに持たせているが、そうだな、例えば拘束して拉致されるとかは防げねーぞ、クオウの旦那」

「そうだな。それに、あの短剣の魔道具を奪われればお終いだしな」

「今回と違って俺達に気が付かれずに襲撃されたら、対応できないし……」

 魔道具バカ三人の意見は尤もな意見なのでクオウも悩む中、フレナブルはあっさりとこう告げる。

「では、もう一人冒険者を加入させては如何でしょうか?」

「そうは言うがフレナブル、信頼できる冒険者でマスターを守れるほどの力がある人材に当てがあるのかい?」

「はい、クオウ様。以前マスターとクオウ様が本部で聞いた情報が有ったではありませんか。【変質者の館】のAランカーが一人行方不明になっている……と。私、その方の居場所を存じております。Bランクのリアントを使役しておられる方でしたが、使役している魔獣に対する偏見が多く、一人で活動されている方です」

 本部受付であるラスカから聞いた情報、【勇者の館】の中でダンジョン攻略後に行方知れずになっており、ギルド脱退の処理がなされていたAランク冒険者のアルフレドを見つけたと言うのだ。

 この場で初めて、かなり重要な情報を伝えるフレナブル。

 本来は発見時に伝えるべき所だが見つけたのは昨日の夕方であり、フレナブルも初めてのパーティーが楽しみ過ぎてすっかり忘れていたのだ。

 そのように謝罪付きで言われてしまっては、可愛らしいな!と思う程度で何も言う事は出来ないので、具体的な検討に入る。

「Aランクなら申し分ないけど……」

「確かにそうだな、クオウの旦那。だがフレナブルさん、問題は信頼に足るかどうかだぜ?そこの所はどう確認するんだ?」

 当然の疑問がミハイルから投げかけられる。

 クオウとしてもそこは気になるのだが、何故かフレナブルは緊張した表情に変わる。

 このようにフレナブルが緊張する所を見た事が無いクオウは、心配になる。

「フレナブル?」
「何でもありません、クオウ様。ですが、私達についても説明が必要になります。宜しいですか?」

 突然振られたクオウだが、種族、つまり魔族と言う事を明らかにするのだろうと判断した。

 その結果……今の環境が破壊され、二度と戻らなくなるかもしれない覚悟が必要になる。

 余りにも楽しい今の生活を続けるには、種族を黙っている、元魔王である事も黙っている方が良いという事は理解しているのだが、やはり隠し事があって生活している事には若干の後ろめたさがあったのだ。

 少々悩んだクオウは、【癒しの雫】の仲間を信じる事にした。

 もしここで拒絶された場合、ある程度魔術を封入した魔道具を置き土産にして、フレナブルと共に去ろうと思ったのだ。

「わかった。良いぞ、フレナブル」

 覚悟の返事に、フレナブルは少しだけ涙目になりながら優しく微笑む。

「ふ~。きっと大丈夫ですよ、クオウ様。えっと、ミハイルさん、その証拠は……その、種族的な物です」

 これだけでは何も理解できないミハイル達だが、クオウだけは理解できている。
 今回フレナブルが推薦してきた元【勇者の館】所属Aランク冒険者であるアルフレドは、人族ではないと言っているのだ。

 更に裏切る事は無いと言う根拠が“種族”と言っているので、元自分の配下である魔族なのだろうと確信した。

 クオウの推測は正しく、実はアルフレドも争いを好まない魔族としては本当に特殊な個体であり、ゴクドが魔王となってから即魔王国を抜け出していたのだ。

 その後、偶然にもクオウのいる【勇者の館】の冒険者として活動し、目立たないように人族とは距離を置きつつ、魔族としての力を使って単独で魔獣を始末・納品して、最終的には短期間でAランクにまでなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...