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いくらSランク認定されたと言っても、気が向いた時だけ現場で活動しているルーカスが衰えているのは仕方がない。
そもそも、魔王を倒した(と思っている)のも、その行程での魔獣の討伐も、既に引退済みの、共に<勇者>と呼ばれた仲間の強いサポートがあったためなのだ。
今回の依頼は経験豊かなメンバーである為にそこそこの連携は出来ているが、常に修行している者達から見れば、場合によっては恥ずかしいレベルの連携であったりする。
「漸く下が見えてきたな」
少々荒い息をしつつも下層に続く階段を見つけたルーカスは、既に予定の二日よりも更に五日ほど追加で必要になっていた事に焦りを感じつつ、階段に向かう。
このダンジョン、各階層全てに下層に続く階段を守護している魔獣が存在している訳ではない。
今回のように、階段がそのまま口をあけて待っているケースもあるのだ……が。
「危ない!」
あまりの疲労から思わず階段に無造作に近づいたルーカスに、背後にいるドリアスが大声を出した。
その声に反応し、無条件で背後に飛び去るルーカス。
直後に雨に紛れて細かい刃物が無数にルーカスが居た場所、階段への経路上に落ちてきたのだ。
完全には避けきれずに数個の刃が腕に当たったルーカスだが、常時発動の防御の魔道具と毒耐性の魔道具が発動する。
その攻撃は見た目より凶悪だったようで、交換したばかりの魔道具が一気に使用不可能になってしまった。
「クソ!これで残りは……こいつを使うと、あと二つだけだ」
「私はこれが最後です」
「俺もこれが無くなれば、終わりですね」
思った以上に消耗が激しく、少々焦り始めるルーカス。
「この下の階層は灼熱だったな。足場は砂場でもっと悪いが、視界は開けているはずだ。熱耐性のフードがあれば動きには影響がないだろう。視認できないのは地中からの攻撃だけ。恐らく、不意打ちはここよりもかなり楽になるはずだ。問題無い!」
自分に言い聞かせるようにして、罠が発動した場所を迂回する形で階段に到着する。
どこのダンジョンに言える事なのだが、階段には罠も無ければ魔獣も現れないと言われており、事実今までも安全地帯として活用されている。
「時間が惜しいが、体力を戻すのが先決だ。最終層に向かう階段では何があるか分からないからな。最悪は、いや、最良か?何れにしてもここが最後に心置きなく休めるポイントになる。一日ここで完全に回復するように」
国王が指定した期間に対して残り13日となっている中で、更に一日をここで使うと決断するルーカス。
帰りの行程も考えると、20階層が最終層だとした場合にギリギリと言った所だ。
仮に18階層の雨の中や、これから進む19階層の灼熱の階層にアルフレドが使役しているリアントがいるだけで、魔道具の消耗は激減していただろうし、そもそも進行速度も大幅に違ったはずだ。
すでにアルフレドが死亡したと思い込んで隠していた嫌悪感を丸出しにした所を、使役している魔獣のリアントを介してだが、本人に聞かれているのだから、アルフレドが離脱すると言ったこの結果は仕方がない。
一日かけて安全に且つ十分に休息をとったルーカス一行は、収納袋から装備できる魔道具を全て装備した。
少々動きが阻害されても、なるべく早く突き進むにはここが勝負どころだと思ったのだ。
「準備は良いか?残りは12日。戻るまで含めて12日だ。そう考えると、どれだけ急いでも戻りに10日は必要になるだろうから、19階層、そして20階層が最終層だとすると、残された時間はない。わかっているな」
「「はい」」
すっかり体力・魔力共に回復した二人は決意を新たにする。
その姿を見たルーカスはいよいよ19階層に足を踏み入れるのだ。
そこは情報通りに灼熱の階層。
足場は砂漠で歩きづらく、照り付ける太陽の様な物が容赦なく体力を奪う……はずの階層だが、金に物を言わせてそろえた魔道具によって、歩行は少々大変だが、熱に関しては問題なく対処できている三人。
ズンズン進みながら、最も恐れている避けられない襲撃を慎重に見極めようとしていた。
「来ます!」
砂が少々動いたのを最初に見つけたハンナは、注意を促す。
砂漠の中から出てきたのは、巨大なミミズの様な魔獣。
その体を活かして単純に物理攻撃を仕掛けてくる魔獣なのだが、砂の上では動きが早く、巨大な割には瞬間で地中に潜ってしまう。
この魔獣対策に適した魔道具は既に持っているので、先ずはドリアスが自分達のいる場所以外の周辺に魔道具から水をまき散らす。
灼熱だけに瞬時に乾燥しそうだが、飲み水ではなく錬金術師が配合した水分である為、辺り一面に暫く残る。
そこに、ルーカスが雷魔術を発動したのだ。
……ピシャ・ドン……
轟音と共に、周辺にまき散らされた水を通して地中に潜んでいた魔獣は軒並み死亡する。
ほぼ全力で一気に魔術を行使した為、魔力回復ポーションをすかさず飲み干すルーカス。
「……よし、上手く行ったな。急ぐぞ」
この魔獣の特性から、一旦攻撃を始めたら地中に隠れ、即座に移動して地上に出て追撃してくる行為を繰り返すので、少し待っても追撃がなければ確実に始末できたと判断できるのだ。
前の階層を引き摺ってこの階層に来れば、極端な気候変化、そして継続した体力を奪う構造によってかなり厳しい戦いになっていただろうが、ルーカスの機転で体力・魔力共に充実している三人は、予定通りに快調に19階層を進む事が出来ていた。
しかし、広大な広さを誇る階層であり、一日では突破できなかったのだ。
当然夜に疑似太陽は消えて極寒が訪れるのだが、こちらも魔道具で対策済み。
とは言え周辺の警戒を順次行いながらの休息であり、階段での休息とは異なり、万全とは言えないまま翌日に攻略を再開する。
「今日中に、最終攻略しなければならない。わかっているな」
「「大丈夫です」」
覚悟を新たに進み、漸く下に繋がる階段を発見した。
「助かった。ここもボスがいないようですね」
「だが、侵入経路に罠があるかもしれない。俺は一度それで魔道具を交換する羽目になったからな」
「そうですね、油断は禁物です」
最後まで気を抜かずに行動し、無事階段に辿り着いた三人。
今まで被っていた灼熱対応のフードを脱ぎ去って収納魔道具に保管する。
「この下が最終層であれば良いのだが……」
ルーカスの願いは通じ、階段を下りたその先には、ダンジョン最下層である事を示すように、扉があったのだ。
「よし、ここをクリアすればギリギリ間に合うぞ。ふ~、先ずは装備のチェックだ」
長時間ダンジョンに潜った事で今迄の経験を思い出したのか、ルーカスは冷静な判断が出来るようになっていた。
そもそも、魔王を倒した(と思っている)のも、その行程での魔獣の討伐も、既に引退済みの、共に<勇者>と呼ばれた仲間の強いサポートがあったためなのだ。
今回の依頼は経験豊かなメンバーである為にそこそこの連携は出来ているが、常に修行している者達から見れば、場合によっては恥ずかしいレベルの連携であったりする。
「漸く下が見えてきたな」
少々荒い息をしつつも下層に続く階段を見つけたルーカスは、既に予定の二日よりも更に五日ほど追加で必要になっていた事に焦りを感じつつ、階段に向かう。
このダンジョン、各階層全てに下層に続く階段を守護している魔獣が存在している訳ではない。
今回のように、階段がそのまま口をあけて待っているケースもあるのだ……が。
「危ない!」
あまりの疲労から思わず階段に無造作に近づいたルーカスに、背後にいるドリアスが大声を出した。
その声に反応し、無条件で背後に飛び去るルーカス。
直後に雨に紛れて細かい刃物が無数にルーカスが居た場所、階段への経路上に落ちてきたのだ。
完全には避けきれずに数個の刃が腕に当たったルーカスだが、常時発動の防御の魔道具と毒耐性の魔道具が発動する。
その攻撃は見た目より凶悪だったようで、交換したばかりの魔道具が一気に使用不可能になってしまった。
「クソ!これで残りは……こいつを使うと、あと二つだけだ」
「私はこれが最後です」
「俺もこれが無くなれば、終わりですね」
思った以上に消耗が激しく、少々焦り始めるルーカス。
「この下の階層は灼熱だったな。足場は砂場でもっと悪いが、視界は開けているはずだ。熱耐性のフードがあれば動きには影響がないだろう。視認できないのは地中からの攻撃だけ。恐らく、不意打ちはここよりもかなり楽になるはずだ。問題無い!」
自分に言い聞かせるようにして、罠が発動した場所を迂回する形で階段に到着する。
どこのダンジョンに言える事なのだが、階段には罠も無ければ魔獣も現れないと言われており、事実今までも安全地帯として活用されている。
「時間が惜しいが、体力を戻すのが先決だ。最終層に向かう階段では何があるか分からないからな。最悪は、いや、最良か?何れにしてもここが最後に心置きなく休めるポイントになる。一日ここで完全に回復するように」
国王が指定した期間に対して残り13日となっている中で、更に一日をここで使うと決断するルーカス。
帰りの行程も考えると、20階層が最終層だとした場合にギリギリと言った所だ。
仮に18階層の雨の中や、これから進む19階層の灼熱の階層にアルフレドが使役しているリアントがいるだけで、魔道具の消耗は激減していただろうし、そもそも進行速度も大幅に違ったはずだ。
すでにアルフレドが死亡したと思い込んで隠していた嫌悪感を丸出しにした所を、使役している魔獣のリアントを介してだが、本人に聞かれているのだから、アルフレドが離脱すると言ったこの結果は仕方がない。
一日かけて安全に且つ十分に休息をとったルーカス一行は、収納袋から装備できる魔道具を全て装備した。
少々動きが阻害されても、なるべく早く突き進むにはここが勝負どころだと思ったのだ。
「準備は良いか?残りは12日。戻るまで含めて12日だ。そう考えると、どれだけ急いでも戻りに10日は必要になるだろうから、19階層、そして20階層が最終層だとすると、残された時間はない。わかっているな」
「「はい」」
すっかり体力・魔力共に回復した二人は決意を新たにする。
その姿を見たルーカスはいよいよ19階層に足を踏み入れるのだ。
そこは情報通りに灼熱の階層。
足場は砂漠で歩きづらく、照り付ける太陽の様な物が容赦なく体力を奪う……はずの階層だが、金に物を言わせてそろえた魔道具によって、歩行は少々大変だが、熱に関しては問題なく対処できている三人。
ズンズン進みながら、最も恐れている避けられない襲撃を慎重に見極めようとしていた。
「来ます!」
砂が少々動いたのを最初に見つけたハンナは、注意を促す。
砂漠の中から出てきたのは、巨大なミミズの様な魔獣。
その体を活かして単純に物理攻撃を仕掛けてくる魔獣なのだが、砂の上では動きが早く、巨大な割には瞬間で地中に潜ってしまう。
この魔獣対策に適した魔道具は既に持っているので、先ずはドリアスが自分達のいる場所以外の周辺に魔道具から水をまき散らす。
灼熱だけに瞬時に乾燥しそうだが、飲み水ではなく錬金術師が配合した水分である為、辺り一面に暫く残る。
そこに、ルーカスが雷魔術を発動したのだ。
……ピシャ・ドン……
轟音と共に、周辺にまき散らされた水を通して地中に潜んでいた魔獣は軒並み死亡する。
ほぼ全力で一気に魔術を行使した為、魔力回復ポーションをすかさず飲み干すルーカス。
「……よし、上手く行ったな。急ぐぞ」
この魔獣の特性から、一旦攻撃を始めたら地中に隠れ、即座に移動して地上に出て追撃してくる行為を繰り返すので、少し待っても追撃がなければ確実に始末できたと判断できるのだ。
前の階層を引き摺ってこの階層に来れば、極端な気候変化、そして継続した体力を奪う構造によってかなり厳しい戦いになっていただろうが、ルーカスの機転で体力・魔力共に充実している三人は、予定通りに快調に19階層を進む事が出来ていた。
しかし、広大な広さを誇る階層であり、一日では突破できなかったのだ。
当然夜に疑似太陽は消えて極寒が訪れるのだが、こちらも魔道具で対策済み。
とは言え周辺の警戒を順次行いながらの休息であり、階段での休息とは異なり、万全とは言えないまま翌日に攻略を再開する。
「今日中に、最終攻略しなければならない。わかっているな」
「「大丈夫です」」
覚悟を新たに進み、漸く下に繋がる階段を発見した。
「助かった。ここもボスがいないようですね」
「だが、侵入経路に罠があるかもしれない。俺は一度それで魔道具を交換する羽目になったからな」
「そうですね、油断は禁物です」
最後まで気を抜かずに行動し、無事階段に辿り着いた三人。
今まで被っていた灼熱対応のフードを脱ぎ去って収納魔道具に保管する。
「この下が最終層であれば良いのだが……」
ルーカスの願いは通じ、階段を下りたその先には、ダンジョン最下層である事を示すように、扉があったのだ。
「よし、ここをクリアすればギリギリ間に合うぞ。ふ~、先ずは装備のチェックだ」
長時間ダンジョンに潜った事で今迄の経験を思い出したのか、ルーカスは冷静な判断が出来るようになっていた。
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