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ルーカスとギルド本部(2)

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 命の恩人にこれ以上迷惑はかけられないと思い、自ら断りの言葉を言おうと覚悟してシルバが口を開きかけた瞬間……

「素晴らしいですね、フレナブルさん。もちろん私はお二人を歓迎します。あっ、改めまして、私【癒しの雫】のギルドマスターのシアです。宜しくお願いします。ミハイルさん、ロレアルさん、バーミルさーん!」

 ギルドの裏の作業場に移動しているのであろう魔道具バカ三人を大声で呼ぶシアに続き、【癒しの雫】の自己紹介は続く。

「俺は、事務仕事を全て引き受けているクオウです。宜しくお願いしますね。お二方を歓迎します」
「ご存じでしょうが、私が唯一の冒険者でした・・・フレナブルと申します。共に【癒しの雫】発展のために、頑張りましょう!」

 ここで、ドヤドヤと魔道具について議論しながら三人がやってきた。

「皆さん、こちらのお二方が、【勇者の館】関連で皆さんと似た様な状況になったために、【癒しの雫】に加入して頂く事になりましたシルバさんとカスミさんご夫婦です」

 シアから自分達と似た様な状況で【癒しの雫】に加入すると言われれば、すんなりと受け入れる事が出来る魔道具バカ三人。

 既に二人に合う魔道具についての話をしており、その流れで半ば強引にギルド奥に引きずりこまれて行った。

「マスター達は、本部だろ?こっちは任せて行ってきてくれ!」

 姿が見えなくなる直前、ミハイルが大声でこう言って来たので三人は本部に向かう事にした。

「ラスカさん、依頼達成しました。報告書はもうここに纏めてあります。納品は特殊個体を含めたランドル四体の心臓になります。その書類もありますので、よろしくお願いします」
「やっぱり倒されたのですね。書類も完璧。ですが……四体?特殊個体ですか??」

 【勇者の館】時代から事務仕事が完璧なクオウを知っているので、そこは褒めつつもサラッと恐ろしい事を告げてきたので、聞き返すラスカ。

「はい。人言を話す個体が一体、魔術を行使する個体が二体、通常個体と言うのですか?手足を剣状にして攻撃してくる個体が一体の合計四体でした」

 説明自体は、実際に現場に行ったフレナブルが行う。

「……大変申し訳ありませんでした。まさかそのような個体がいるとは。それに、四体……フレナブルさんを危険に晒してしまい、申し訳ありません」

 立ち上がり深く頭を下げるラスカ。

「いえいえ、あの程度は何と言う事はありませんよ。私【癒しの雫】はこれからも頑張りますから、ドシドシ頼ってくださいね」

 あっさりとしたフレナブルに、ある意味毒気を抜かれたラスカ。

「ありがとうございます。ですが、【癒しの雫】の皆さん以外にこの任務を回していたらと思うと、ぞっとします」
「信頼して頂いて、ありがとうございます。こちらが納品ですね」

 クオウが仕事を進めるので、一旦収納袋と書類一式を受け取るラスカ。

「ですが皆さん、ひょっとしたら厄介事になるかもしれません。実は今、ギルドマスターの所に【勇者の館】の二人、ルーカスさんとエリザさんが来ているのです。少し前まで受付にいましたが、しきりに【癒しの雫】の皆さんの事を口にしていました」

 また無能のルーカスによる嫉妬とか、妬みによる厄介事かと思い、思わず天を向いて口をすぼめてしてしまうクオウ。

「一先ず……確かにランドルの物ですね。それも、この一つは強力な個体、特殊個体で間違いありません。そうなると……状態も良いですし、書類も確認するまでもなく不備もないでしょうから、この辺りになりますが」

 こう言って、鑑定術が付与されているいつものボードを見せて来るのだが、そこには、虹金貨9枚(9億円)と書かれていた。

「マスター、私はこれで問題ないと思います。心臓だけの納品ですからね。ですが、特殊個体をSランクに近いAランクで査定してくれていますので、破格と言っても良いと思いますよ」

 受付の意図を瞬時に把握したクオウは、マスターであるシアにサインを勧める。

「わかりました。ありがとうございます、ラスカさん」

 周囲のギルド関係者は最近の【癒しの雫】の快進撃を聞いているので、今回の討伐についても多少驚きはする程度だが、ギルドは普通よりもざわついてしまう。

 そのざわつきを聞いて、受付の裏から本部ギルドマスターであるツイマと、【勇者の館】ギルドマスターであるルーカス、そして一応【勇者の館】受付であるルーカスの腰巾着であるエリザが現れた。

「クオウ様、消し炭に致しましょうか?」
「いやいや、ちょっと落ち着いて、フレナブル。確かに面倒だけど、そこまでは止めて!」
「そ、そうですよ、フレナブルさん。落ち着いて下さい」

 今までの戦果から、容赦なく有言実行しそうだと思ったクオウとシアはフレナブルを止める。

 クオウは、未だ人族との意識が理解しきれていないフレナブルには、もう少し注意が必要だな……と思っていた。

「【癒しの雫】の冒険者フレナブルだな!丁度良い。ギルドマスターであるシアもいるな。お前達には、再び【勇者の館】に対しての魔獣横領の疑いがかかっている。いや、疑いではなく確信だ!またしてもやってくれたな」

 睨みつけながら、【癒しの雫】に再び謂れのない罪を擦り付けるギルドマスターと、その諸悪の根源である【勇者の館】の二人。

「あなたの目は節穴ですか?確かあなたはこの本部のギルドマスターですよね?公平を期す必要がある立場でありながら、そのような【変質者の館】の言葉を鵜呑みにしたのですか?」
「【勇者の館】だ!ふざけるな!!」

「あら?ランドル程度を前にして震えて何もできなかった人が、この場では随分と強気ですね。ママに慰めて貰ったのですか?よかったでちゅねー」

 ついさっき、人族としての意識について注意しなくてはと思っていたフレナブルが暴走しているのを見て、クオウはもう止められないと判断した。

 最悪、攻撃魔術を突然ぶっ放さないようにだけ、注意を向けている。

 一応シアが不安になっていないかを確認したクオウだが、フレナブルの堂々とした態度からか、そもそも自分達は絶対に間違っていないと言う確信からか、シアは一切怯えていなかった。

「な……貴様、この俺、Sランクであるこの俺を馬鹿にするのか!」
「いいえ、事実を述べているだけです。ランドル四体を倒したのはこの私フレナブルです。貴方が倒したと言う証拠はあるのですか?そもそも、シルバさんとカスミさんを生贄にして逃げる様な姑息な男がSランク、最低男の頭文字でSランクでしたら納得ですね」

 未だかつてSランクギルドのトップであり、個人でSランクのルーカスを前にここまで過激に反論して見せた強者は存在しない。

 それが、見た目が非常に美しいどちらかと言えば華奢な女性がここまで煽り倒しているのだから、ツイマやルーカス、エリザを含めて全員が唖然としてしまった。

 この場にいる一部のギルド関係者は、これからの被害を恐れてさっさと本部を後にしている者すらいるほどだ。

「クッ、ふ~、フレナブル。お前こそどこをどう見てもランドルを始末できる様には見えないだろうが。お前は、この俺ルーカスが致命傷を与えたランドルに対して、その腰の武具でとどめを刺しただけだ。これが全てであり、事実だ」

 確かに外観だけでは、ルーカスがランドルを始末したと言う方が、真実味がある。
 そこを巧みに突いて攻撃してきたのだ。
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