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フレナブルと魔獣ランドル(2)

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 シルバの、カスミと共に生きたいと言う叫びを聞いたフレナブルは、優しい表情のまま回復術を行使した。

 あまりのレベルの違いに、この場にいる誰もが術を行使した事に気がついてはいないが……

「シルバさん。これで大丈夫です。間もなく意識も回復するでしょう。お二人・・・の安全は私が保証しますので、労わってあげて下さいね」
「え?え?」
「何も変わらないじゃない。偉そうにして、結局その程度よ!」

 何が起きたか分からずに語彙力を失っているシルバと、カスミの見かけも変わらず、術の行使すら感知できないハンナはフレナブルに対して侮蔑の言葉を投げかける。

「本当に【変質者の館】の者達は鬱陶しいですね。ハイ、カスミさん……目を覚ましてください!」

 フレナブルの一声で、横たわっていたカスミが本当に目をあける。

「シルバ……シルバ!そう、魔獣は……危ない。まだ魔獣がいる……え?四体も??あなた方は?」

 混乱の極致にいるカスミ。

「カスミ!」

 泣きながらカスミを抱きしめるシルバと、それを優しく微笑んで見つめるフレナブル。
 更には、唖然としているハンナを始めとした【勇者の館】所属の冒険者達。

「そんな……絶対に回復なんてできない程の損傷だったはず。あなた、一体何者なの?何をしたの?」
「あなた程度に応える義務はありませんが、【癒しの雫】所属のBランク冒険者のフレナブルと申します。私は単純にカスミさんに回復術を行使しただけですよ」

「そんな訳……ないじゃない。私でさえ癒せなかったのに……」

 声が小さくなるハンナを無視し、フレナブルはシルバとカスミに告げる。

「シルバさん、カスミさん、少しだけお待ちいただけますか?私はギルド本部の依頼でAランク魔獣のランドルの調査に来たのですが、可能であれば始末して良いと言われていますので、ちょっとだけ相手をしてきますね」

 Sランクギルドの【勇者の館】所属の冒険者や、個人でSランクを得ているルーカスでさえ敵わずに命を諦めた魔獣であるランドル四体に対して、軽く相手をすると言い切るフレナブル。

 ポカンとする一行をよそに、腰に差している棒を手に持つと魔力を流す。

……ド……ドン……

 直後、棒が一気に延びて射線上にいた最も危険な個体の頭を吹き飛ばしたついでに、背後の壁に突き刺さったのだ。

「ウフフ、流石はミハイルさん達の作品ですね。ですが……少々伸びるのが遅い気がします。この辺りが修正点になるのでしょうか?」

 周囲からしてみれば、有り得ない程あっさりと最も危険な個体を始末して見せたフレナブルの口から洩れたのは、武具への感想……

 再び棒を通常の長さに戻したフレナブルは、残り三体を始末するように動き始める。

 最強の個体、仲間をあっという間に始末された残り三体のランドルは、漸く金縛りから解けて最大の脅威であるフレナブルに攻撃を仕掛ける。

 二体は得意の魔術で、一体は手を鋭利な刃物に変形して襲い掛かる。
 拙いが、連携が出来ているのだ。

「えいっ!お~、これも素晴らしいですね。ですが、こちらも術の発動が少し遅いですかね?」

 棒の先端にある触媒、魔道具に封入されている防御術を行使して、二体からの魔術を無効化して見せるフレナブル。

 と同時に、再び棒を伸ばして二体の頭をたたき割った。

「あら?少し……先端近くにヒビが入っていますね。強度的にも少し問題があるのでしょうか?」

 一人感想を述べているのだが、これは、あえて口に出しているのだ。
 棒の中央部分にある記録の魔道具に、全てを記録するために……

 生命活動の根幹部分を失ったランドルは、力なくその場に倒れる。

「残りは……最も弱い一体ですね。どうしましょうか。そうです!短いままでどうなるかの検証がまだですね」

 輝く笑顔で、良い事を思いついたと言わんばかりにスタスタとAランク魔獣であるランドルに自ら接近していくフレナブル。

 残ったのは、物理攻撃を仕掛けようと動き始めていた、この場に出現したランドル四体の中では最弱の個体。
 あまり頭脳も宜しくないのか、仲間二体の頭が吹き飛ばされて少々動揺するも、逃げる事もせずに無謀にも迎撃しようと攻撃を仕掛ける。

……グチャ……

「フムフム。この距離であれば棒にヒビは入らない……と。ですが、自浄能力が欲しい所ですね」

 既にランドルの血液でドロドロの棒を見て、最後の感想を述べるフレナブル。
 自ら水魔術を行使して棒をきれいにすると、腰に戻す。

「お待たせしました、シルバさん、カスミさん。あの四体の討伐証明も兼ねて心臓を抜き取ってきますので、もう少しお待ちください」
「「は、はい」」

 最早どう反応してよいか分からない二人は、抱き合ったまま普通に返事をする。

 フレナブルがランドル四体の頭を狙ったのは、硬い物質に対して棒がどの程度強度があるかを検証すると共に、最も貴重な素材となる心臓を手に入れるためだったのだ。

 魔術によって心臓を抜き出し、ミハイル達が作った収納袋にしまう。

 本当は魔術によってランドルの本体ごと収納したいのだが、クオウによって人目がある状態での収納魔術の使用が禁じられているのだ。

「お待たせ致しました。では帰りましょうか」
「「は、はい」」

 もう何が何だか分からないシルバとカスミだが、互いに無事にここを出られそうだという事だけは理解でき、嬉しそうにしている。

 こうしてさっさと帰ってしまった三人と、この場に残された【勇者の館】のメンバー。

 既に最強の敵であるランドルは死亡、フレナブルが仕留めてしまって亡骸になっているので、状況は理解し辛いが一息つけていた。

「何だあいつは……あれほどの強さ。まて、フレナブルは魔道具を使っていたな。それも……ミハイル作と言っていた。ミハイル……あの【鉱石の彩】のミハイルか!」
「そうですね、ルーカス様。きっとあの連中は私達には適当な武具を私達に、あの女には最上級の武具を与えていたに違いありません」

 全く見当違いの事を言っているルーカスやハンナ。
 こうでもしなければ、現実が受け入れられないのだ。

 その後暫くしてようやく落ち着いた【勇者の館】のメンバーは、ランドルの亡骸を収納袋に回収して、同じようにダンジョンを後にする。

 再び屈辱を与えてくれた【癒しの雫】に対して、どう対応するべきかを考えながら……
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