上 下
28 / 153

ダンジョン内部(1)

しおりを挟む
 ギルド本部の騒動など知る訳もないフレナブルは、笑顔のまま足取り軽く目的のダンジョンに到着していた。

「あら、確かにちょっとだけ強めの魔獣の気配がしますね。これが今回対象のランドルでしょうか?フフ、新生【癒しの雫】としてしっかりと結果を残さなくてはいけませんね。腕がなります」

 人族が恐れをなし、十全な対策の元に討伐対象となるAランクの魔獣でも、フレナブルにとってみれば、他と比べてちょっとだけ・・・・・・強めの魔獣なのだ。

 可愛らしく両こぶしを握り、通常であれば命の危険があるダンジョンに微笑みを携えたままテクテクと歩いていくフレナブル。

「この武具の性能評価をミハイルさん達にしなくてはなりませんからね。しっかりと使いこなすように気を引き締めなければなりません」

 気を引き締めた表情に変わったのだが、それは周囲の警戒の為ではなく、【癒しの雫】に新たに加入した鍛冶士達の作品である武具の性能評価に対してだ。

「それにしても……四体・・ですか。ゴクドは少しだけダンジョンの制御が出来るようになったのかもしれませんね」

 ギルド本部としては、冒険者達の目撃情報を基にAランク魔獣であるランドルの存在の可能性を認識していたのだが、各人からバラバラに報告が上がっているので、一体を複数の冒険者が視認していたと思い込んでいた。

 ほぼ【勇者の館】の冒険者からの報告だが、緊急情報であるが故に口頭での報告後、ギルドとして本部に正式な書類で詳細を報告する。
 クオウが去った【勇者の館】ではそのような処理が出来る人材が一人もいない為、口頭報告のみになっていたのだ。

 この書類提出によって情報の祖語を無くしていくと共に、報告側のギルドの評価にもつながるシステムではあったのだが、【勇者の館】の受付を統括しているルーニーですら報告書が書けるほどの力量は持ち合わせていない。

 そもそも、目撃者に対しての聴取も行わなくてはならないので、そんな面倒な事をせずともギルドの評価は最高を維持できる上、Aランク一体・・が存在する事は確実に報告済みなのだから問題ないと思っていたのだ。

「ルーカス様、今日のノルマは達成いたしました」
「そうか。では終了とするか。おい、聞いたな?今日は終わりだ。警戒しつつダンジョンから出るぞ」

 このダンジョン内部で魔獣討伐依頼を行っている【勇者の館】一行。
ギルドマスターであるルーカスもこの場に存在しているのだが、今日の分の討伐ノルマは終了したようで、全員で撤退の準備を始めていた。

 もちろんこのダンジョンには、他の依頼で来ている【勇者の館】以外のギルドメンバーも存在しているが、少し大きい空間であるこの場にいるのは、【勇者の館】の冒険者だけだ。

「今日も大量だったな」
「おう。それに、ルーカス様がいるおかげで仕事も早く終わったし、さっさと戻って一杯行こうぜ?」

 多少緩みつつも、一応周囲の警戒は怠らずに出口に向かっている一行。

……キィーン……

 そこに、明らかに戦闘音が聞こえて来た。
 通常は、冒険者の獲物を横取りするような行為はご法度であり、ダンジョン内部で戦闘音が聞こえてくるのは普通の事なので、そのまま出口に向かおうとしていた一行。

「……誰か!助けてくれ!!」

 このような声が聞こえては、そのまま出口に向かうわけには行かない。
 冒険者は自己責任であり、命を代償に行動する程に高額の報酬を得る事ができるのだから、願い叶わず命が散る事も珍しくない。

 そんな中、一応仲間である冒険者の助け、そして自分達には最強冒険者Sランクのルーカスがいる、更には既に自分達のノルマは達成している事から、一行は助けを求めている方向に迷わず足を向けた。

 悲鳴が聞こえて来る先にいるのは、今噂になっているAランクの魔獣であるランドルである可能性もあり、その魔獣を始末すれば更なる報酬が得られる事からも、慎重に進む【勇者の館】の冒険者達。

 ルーカスがこの場にいなければ、助けに向かった先にランドルがいた場合には自分達の安全が第一である為に、即撤退しているだろう。

 特段この行動は咎められる謂れはなく、一般的な冒険者であれば誰しもがそうするのだ。

「ルーカス様、ひょっとしたら目撃情報の上がっているAランクのランドルかもしれませんね」
「かえって丁度良いかもしれないな。あのふざけた態度のギルド本部の連中に俺達【勇者の館】がどれ程優秀かを知らしめる良い機会になるだろう」

 こうして向かうルーカス達の視界に入ったのは、一人が倒れ伏し、一人が必死でランドルの攻撃を防御している状態だった。

 このランドル、Aランクに分類されているだけあってかなりの強さを誇っている。

 見た目は熊の様な重厚な体つきだが、その見た目に反して動きは早く、手足を鋭利な刃物のように変形する事で物理的に攻撃してくる魔獣だ。
 一般的には魔術による攻撃はしてこないと知られているのだが、稀に複合的に攻撃する個体も存在するので、油断はできない。

 ランドルの物理攻撃を必死で防御をしている冒険者は、最早満身創痍で助けを求める声すら上げられなくなっている。

 そこに到着したルーカスは、【勇者の館】の冒険者にこう告げる。

「やはりランドルか。見た感じ魔術を使うような個体ではなさそうだ。お前達、俺が補助してやるから、仕留めて見ろ。良い経験になるぞ!」

 【勇者の館】所属の冒険者は高レベルが多数存在している。
 もちろんAランクも多数おり、この場にも同行してきている。
 ランク的には同じAであり、危険は伴うが対応可能なので、ルーカスとしても無理難題を吹っかけている訳ではない。

 人族も魔獣も同じだが、同じランクでも幅は当然存在する。
 その範囲によって冒険者側が不利になる場合にはSランクのルーカスが補助をすると言っているので、【勇者の館】所属冒険者達は我先にとランドルに仕掛ける。

「初撃はいただきだ」

 【勇者の館】所属Aランク冒険者であり剣術を最も得意とするドリアスが、必死で防御している冒険者とランドルの間に流れるように近接し、一撃を加える。

 【勇者の館】所属のこの場にいる残りの冒険者は、攻撃に特化したAランクでは無く、回復魔術を得意とする者や、ランドル相手では少々厳しいBランクの集団だった為、Bランクの冒険者は危険を冒さずに少々離れた位置から攻撃魔術を行使している。

「グォー!!」

 ドリアスとしては初撃で仕留められるほどに深く切り込んだつもりだが、体毛による防御力が高いランドルに浅い傷をつけるだけだった。
 今までは冒険者に対して遊びながら一方的に攻撃していたところ、突然現れた他の冒険者から反撃を受けたので暴れ始めるランドル。

「チッ。この攻撃で、あの程度の傷か?」

 ドリアスは斬撃では致命傷を与えられないと思い、刺突による攻撃、一点集中による突きで仕留めようと体勢を立て直す。

 その隙に、倒れている冒険者と満身創痍の冒険者二人を救出し、Aランク冒険者で回復術を最も得意としているハンナが二人を癒す。この辺りは流石Sランクギルドだ。

 その間も、暴れるランドルには魔術による攻撃がひっきりなしに行われ、ドリアスは確実に仕留めるべく刺突の体制で隙を伺っている。

 ルーカスは、このままいけば問題なくランドルを始末でき、ついでに・・・・冒険者二人も救えるだろうと思い、一切手を出さずに戦況を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...