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【癒しの雫】

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「シア様、クオウ様、これからどのように行動致しましょうか?」
「えっと、どう見てもギルドランクは維持される事は確実ですから、クオウさん……どうしましょうか?」
「え?そうですね。マスターが長い間お世話になっていた本部を通さない依頼を暫く行うと言うのはどうですか?」

 突然振られて驚くクオウは一応案を出したのだが、クオウの言っている本部を通さない依頼とは、全くギルドランクに影響のない作業になる。
 所謂市民の小間使い的な依頼であり、各人が気に入ったギルドに直接依頼を行う事が出来る。

 一方の魔獣討伐もギルドに依頼を行えるのだが、ギルドとしてはランク維持または上昇の為の実績として一旦本部に報告し、本部からの依頼として受けているのが一般的だ。

 【癒しの雫】はDランクになったばかりで、あくせくして実績を積む必要がない状態になっているので、一旦市民に恩返しをするとともに、フレナブルの顔見世も兼ねるべきと思い提案したクオウ。

「流石はクオウ様!シア様、早速依頼を受けましょう。何がありますか?ドブ掃除ですか?洗濯ですか?なんでもお任せください!」
「えっと、良いのですか?でも、沢山依頼が来ているわけではなくて、時々一人暮らしのお祖母ちゃんのお世話とかお爺ちゃんの買い物代行をしているのですが……」

 と、緩やか~な依頼を受けつつ、クオウの思惑通りにフレナブルの顔も周辺住民に売り込む事に成功したが、時折その美貌に見とれてしまう男性がいたのは御愛嬌だ。

 そんなある日の夜、特段睡眠を取らずともまだまだ活動できるクオウとフレナブルは、二階で寝ているシアを確認した後に二人で話をしている。

「フレナブル。マスターは知っての通り人族で、軽い攻撃、例えば【勇者の館】所属のマルガの攻撃ですら致命傷になり得る。俺は事務仕事ができれば良いと考えていたけれど、【癒しの雫】での生活が楽しくて仕方がないんだ」
「ウフフ、そうですね。私もクオウ様以外は一切気にならないと思っておりましたが、シア様と共に楽しそうに生き生きと仕事をするクオウ様を見て、シア様の重要性を認識しております」

 こうして【癒しの雫】での生活が如何に楽しいかを語り合う二人。
 その源は、幼いながらも明るい雰囲気のシアの存在に行きつくのだ。

「だとすると、やはりある程度は力をつけて貰うか、護衛をつけるか……」
「ですが、私が依頼、クオウ様がギルド内勤、その際にシア様が外に出てしまっては手が足りません」

 まだ三人しか存在しないギルドであり、仮に冒険者が一人増えたとしてもその冒険者が信頼に足るか、シアを守り通せるかも分からないのだ。

「仕方がない。これを使うか?」
「ですがクオウ様。この力がもし公になれば、力を欲する有象無象がクオウ様の元に殺到する事になりますが?」

 とある術を行使してシアを守ろうと言うクオウに対し、フレナブルは懸念を伝える。
 その術とは、とある触媒を使う事によってクオウが直接眷属にしている魔獣を、シアが直接呼び出せると言う物だ。

 これだけならば多少高級な魔道具を持っており、魔獣を呼び出す事が出来る……だけで済むのだが、クオウが眷属としている魔獣はレベルが桁違いであり、そこを問題視しているフレナブル。

 魔王がこの世界の魔獣の制御を行うには、夫々の族長を屈服させる必要があるのだが、今回クオウが直接眷属としている魔獣は個体数が非常に少ない上に群れを作らず、あまり魔王配下とするにはうまみがないために、新魔王ゴクドも対象外としていた。

 実際にゴクドがこの魔獣、見た目兎のラトールと呼ばれている魔獣と戦闘をした場合、容赦なく捻り潰されるのが落ちだったりする。

 クオウ大好きのフレナブルは、クオウの眷属ラトールについても詳細を知っているので、こう言った発言になったのだ。

「そうか?少々強いウサギちゃんを呼び出す位だぞ?」
「それでもですよ、クオウ様。この王都中、いえ、この世界中でラトールを眷属にできている存在はクオウ様の他にはいないと断言できます。それ程希少で、戦闘力も高いのですから」

 クオウとしては可愛いウサギが仲間になってくれたと言う感覚なのだが、フレナブルの真剣な表情を見て自分の感覚が少々ずれているのだと思い反省する。

「そうなると、魔獣を呼び出すのは無理……か。きっと俺が直接眷属にしている他の魔獣もダメ、だよね?」

 ちょっぴり自信が無くなるクオウ。

「そうですね。残念ですが、クオウ様が直接眷属にしているような魔獣をおいそれとこの場で出すわけにはまいりません。特にラトールは寂しがり屋ですし」

 その後もシアの安全に対する議論は深まるのだが、結論は出ない。
 魔術を付与した触媒も、魔術が強力過ぎる……とか、魔術の種類がレア過ぎる……とか、そもそもクオウの持っている触媒に弱い魔術を封入できないのが前提としてあったりする。

「くそ~、鍛冶士、錬金術士がいればここまで苦労しないのに!」
「仰る通りですね、クオウ様」

 結局その日に結論は出ず、暫くはクオウかフレナブルがこっそりとシアの安全を守ると言う何とも言えない結論に達していた。

「おはようございます」

 翌朝、ギルドメンバー三人で朝食後、ギルドを掃除すると言うルーチンを始めている所に、ギルド本部担当受付のラスカがやってきた。

「おはようございます。こんなに早く、どうしました?ラスカさん。ひょっとして、【癒しの雫】に緊急の指名依頼でも来ましたか?」

 通常本部担当受付が直接ギルドに来る事は殆ど無い。
 ランクダウンの警告だったり、ギルドに対する親切心からのアドバイスだったりはあるのだが、Dランクに昇格したばかりの【癒しの雫】には今の所はそのどちらも該当しないはずなのだ。

「その、申し上げにくいのですが……ルーカス様の【勇者の館】から、例のダンジョン内部で皆さんが得た魔獣に対する横領の指摘がありまして……あ、もちろん皆さんがそのような事をするはずがないという事は分かっているのですが、その……」

 ギルド本部での立場は圧倒的に【勇者の館】が上であり、その力がこの場に如実に表れているのだろうとクオウは判断する。
 それを、一受付であるラスカが対抗するのは無理と言う物だという事も理解している。

「大丈夫ですよ、ラスカさん。貴方が信じてくれていれば問題ありません。それに、ランクには影響はないのですよね?」
「は、はい。それはもちろんです」

「であれば、そもそも俺達は暫く地域の依頼を受けるつもりですので、ある意味ほとぼりが冷めるまで大人しくしていますよ」
「……それなのですが、ルーカス様からの提言、それを飲んだギルマスの指示により、【癒しの雫】には冒険者以外の新規登録が暫く禁止される事になりました。それと、同じ期間の活動停止が……」
「………」

 流石に何の証拠もなく、そもそも魔獣の横領などしていないので証拠など有る訳無いのだが、この状況でここまでの処罰が来るとは思っていなかったクオウは絶句した。

「それで、私……ごめんなさい。何とか、【鉱石の彩】メンバーの加入だけは認めて頂いたのです。余計な事かと思いましたが、向こうのギルドは資格剥奪となるようで、これしかできなかったのです。本当に、申し訳ありません」

 深々と頭を下げるラスカ。
 この時点で、【鉱石の彩】が作成した武具である杖の評価については無意味なものになってしまっていた。

「大丈夫ですよ、ラスカさん。そもそもあなたは何も悪くない」

 かなり落ち込んでいるラスカを励ますクオウを見て、シアはこう決断した。

「クオウさん!その……【鉱石の彩】の方々、せっかくですから、先方が良ければ【癒しの雫】ウチに入って頂きましょうよ?」
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