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各士の加入妨害

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 マルガの報告によれば、相変わらず【癒しの雫】には冒険者が一人、ギルドマスターである少女が一人、そして事務職であるクオウが一人で活動しているとの事だった。

 既に【癒しの雫】が周辺の土地を購入済みなのは、本部に出入りしている以上、嫌でも耳に入っているルーカス。

 その為、ギルドが大きく育つために必要な人材、ギルド運営に必要な人材である鍛冶士、解体士等のメンバーがいないかを直接確認に行かせたのだ。

 当然場所の放棄交渉も含めてだが、【癒しの雫】は新たに土地を購入した直後である為に、こちらは成功しないだろうと言う思いで行かせていた。

 そもそも、Aランクの魔獣二体を納品済みなのだから、土地購入後の現時点でも虹金貨を数枚以上は保持しているはず。

 資金に余裕がなければ、ギルド本部に作業場作成の人材募集を行えるはずがない。
 今はDランクだが、直前までFランクの下として認識されていたギルドに対して、第三者機関が融資を行える訳はないのだから……

 【癒しの雫】はDランク昇格もあって、暫くは何もせずとも現状のランクを維持できる事は周知の事実だ。

 例え唯一登録されている冒険者であるフレナブルが離脱して何も活動が出来なくなったとしても、ギルド本部の規定に大きく違反するような行動、略奪等を行わない限り徐々にランクが下がるので、数年はギルドとして運営する事が可能なのだ。

 その報告を受けた少し後、以前はギルド本部に務めていたエリザがルーカスから指示されていた件を完了したと告げて来る。

 【鉱石の彩】の発注を止める事、そして代替の武具を手に入れるべく、他のギルドに対して武具供給の依頼をかける事だ。

「そうか。最近の【勇者の館】所属冒険者達の怪我が多いのは、どう考えても武具のせいだからな。安定して本部を通して発注してやった恩を仇で返すように手を抜きやがって。当然の罰だ。俺達はSランクギルドだからな。少しでも緩みがあれば厳しく対処するのが当然だ」
「その通りですね。あのギルドマスターであるミハイルは、丁度本部にランクダウンのクレームをつけている所でした。これから【勇者の館】からの発注はしないと告げると、真っ青な顔をしていましたよ」

「当然だな。所属冒険者の命を危険に晒したのだから、その程度で済んでいるのは最大限の温情だと理解するべきだ」
「本当に、ルーカス様は慈悲深い」

 二人共に薄ら笑いを浮かべていたのだが、ルーカスの目が細くなる。

「それで、あいつら癒しの雫の情報は何かあるか?」
「はい。そちらも丁度ランクアップの処理に来ていたようすが、相変わらず三人で行動しておりました」

 その報告に、しばし考え込むルーカス。

「わかった。それならば各ギルドに内々で通達しておけ。あいつらからの武具作成依頼は決して受けるな……とな。そうすれば、あのフレナブルも身の危険を感じて討伐依頼をこなす事は出来なくなるはずだ。その時に、俺が助け出す。唯一の戦力を失った【癒しの雫】等、クオウと纏めて一気に踏みつぶしてやる」
「承知いたしました。ですが、今回の件で【鉱石の彩】だけは通知の対象にはできないと思いますが?」

 直前で惨たらしく切って捨てた【鉱石の彩】に対しては、【勇者の館】は影響力が無くなっている事になる。

「あんなふざけた武具しか作れないギルドであれば、全く問題ない。むしろ、【癒しの雫】の崩壊が早くなるので願ったり叶ったりだ。それと、一応フリーの鍛冶士達にも忠告を忘れるな」
「それではそのように致します」

 フリーの鍛冶士とは、一般市民に対してのギルドを通さずに流通する事が出来る道具を作っている者で、時折ギルドに期間限定で所属して冒険者向けの武具を作成することがある人材の事を言う。

 そこまで抑え込めば、どうやっても【癒しの雫】は【鉱石の彩】に武具生成を依頼するしかなくなる。

 実際、フレナブルは武具を全く必要としないし、【鉱石の彩】の武具は何処のギルドに所属している鍛冶士達よりも性能の良い武具を提供しているのだが……

 翌日本部の情報を確認すると、ルーカスの思惑通りに、【癒しの雫】は【鉱石の彩】に武具生成の指名依頼を出していたのだ。

「ハハハ、あいつらの行動、思惑通り過ぎて哀れみすら覚えるな。あれほどの手抜きの武具を欲するとは、クオウは事務処理で紙しか見ていないからその程度なのだろう!だが、逆にフレナブルの身が心配になるな」

 本当に余計な事を考えているルーカスは、前回の失敗を反省して毎日【癒しの雫】を監視させている者からの情報を待っていた。

 フレナブルが討伐依頼を行う際には、危険が差し迫った段階で助け出そうと考えていたのだ。

 その監視は、全く無駄に終わる。

 さらに翌日に、ギルド本部からの依頼を【癒しの雫】が受注したからだ。
 本来は、そのギルドが本部から受注した依頼は、ギルドのボードに貼られて所属冒険者が実行する。

 時に、レベルに応じてギルドマスターが所属する冒険者に指名する事も有るのだが、【癒しの雫】に至っては、所属冒険者は一人。
 ギルド本部からの受注である為にその内容は公になっており、実行日時、そして今回は依頼の内容から場所まで丸わかりなのだ。

「じゃあフレナブル、【鉱石の彩】の武具に対しての感想も本部に伝えなくてはいけないから、適当・・に依頼を済ませてきてくれる?」
「承知いたしました、クオウ様」

「フレナブルさん、気を付けて下さいね。私がギルドマスターになってから初めてのダンジョン内部の依頼ですから……安全第一でお願いします!依頼が失敗しても問題ありませんので」

 本来、依頼失敗となると本部からの評価は大きく下がるのだが、それを踏まえても冒険者の安全を心配するシアだ。

「フフ。シア様、ありがとうございます。ですが、全く問題ありませんよ。直ぐに戻ってきますので、安心してお待ちください」

 優しい微笑みを返すと、フレナブルはあっという間に【癒しの雫】から消えていった。

 一方の【勇者の館】ギルドマスターのルーカス。
 既に先回りしてダンジョン内部に潜んでいた。

 もし【癒しの雫】から付け回す様な作戦であれば、この時点でフレナブルを見失っていたのだから、作戦としては第一段階は成功だ。

「あいつらはダンジョンの情報など、大して持っていないだろう。クオウも、【勇者の館】の時の情報はあるかもしれないが、所詮は対象の鉱石や魔獣が現れる階層だけの情報だ。だが、一口に階層と言っても広大。どの位置に今回の魔獣がたむろっているのか……そんな情報すらも得ているこの俺様を出し抜く事等できはしない」

 当初から出し抜くつもりなど欠片もないクオウだが、一方的にルーカスから敵認定されている。

 少々歪んでいるルーカスは、腐っても個人でSランクと言う破格の戦力だ。

 実際にSランク相当の力が有るかは別だが、最低でもAランクの実力がある事だけは間違いない。

 そんなルーカス、自らの存在を気取られないように気配を消して、ひたすらフレナブルを待ち続けていた。
 
 暫くすると、強者から感じる何とも言えない雰囲気を肌で感じ、思わず呟いた。

「これは……高ランクの魔獣が来たのか?」
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