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【癒しの雫】と受付達
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とある、少し高級感の漂った食堂。
既に懐は十分に潤った【癒しの雫】は、せっかくなので懇親会を行う事にした。
「ハハハ、マスター。何キョロキョロしているんですか?大丈夫ですよ。何も怪しい所ではないですから、しっかりして下さい!」
「ウフフフ、シア様。クオウ様の仰る通りですよ。でも、そんな所も可愛らしいですね。今日は美味しいお料理をたくさん食べましょうね」
庶民達からすれば相当贅沢に感じる店に入るクオウ達だが、【癒しの雫】ギルドマスターのシアにしてみれば、今迄一日大銅貨二枚(2千円)程度が総収入であり、そこから食費を捻出した上で、ギルドの年会費、何れ来ると信じていた冒険者への報酬を貯蓄していたので、このような店に来た事が無いのだ。
結果、少々オドオドしてしまっているのだが、その姿を見たクオウとフレナブルは暖かい目でシアを見つつ、おどけながら席に着く。
このやり取りから、フレナブルもシアの事を認めたと判断したクオウは、これからの【癒しの雫】で楽しく仕事ができると嬉しくなっていた。
「えっと、クオウさん。その……こんな所にきて、だ、大丈夫なのでしょうか?私、私達、お金、有りますか?そうだ!フレナブルさんの報酬、どうなっていますか?」
席に着いた後でも未だ挙動不審のシアだが、その状態でも登録冒険者の報酬の心配ができるあたり、かなり好感が持てる。
「マスター、大丈夫ですよ。正直に言ってマスターだけが贅沢に一生過ごしても余る程、今の【癒しの雫】には資金がありますから」
「ほ、本当ですか?でも、それってフレナブルさんが一人で得た物ですよね……」
「シア様。私もギルドの事をクオウ様から教わりました。冒険者は個人で魔獣の売買は出来ないのですよ。その素材が悪用されたりする事を防止したり、冒険者の管理をギルド本部で行うための資金の提供、色々な意味でギルドを通す必要があるのです。ですから、そのギルドマスターであるシア様の成果でもあるのですよ」
「フレナブルの言う通りです。さっ、マスター!せっかくだから楽しみましょうよ!」
僅か数日の付き合いだが、クオウとフレナブルはすっかりシアの事を気に入ってしまっていた。
その結果、クオウはもとより、何故か冒険者登録をしているフレナブルもギルドの二階居住区にシアと共に住んでいたりする。
いや、フレナブルに関して言えば、クオウに引っ付いていたいだけなのだが……
シアも今迄一人で寂しく生活していた所に、賑やかで優しい兄と姉とも言える存在が増えたので、徐々に幸せを感じ始めていた。
「じゃあ、ここはこの俺、事務職のクオウが代表して……【癒しの雫】更なる発展を祈念して、乾杯!!」
「「乾杯!」」
クオウとフレナブルは高級な酒を、シアは果実をすり潰したジュースを飲んでいる中で豪華な食事が机に並び、シアの目はキラキラ光る。
「フフ、シア様。早速いただきましょう!」
フレナブルの優しい声で、シアも嬉しそうに食事を頬張り始めた。
「あっ、【癒しの雫】の皆さん!」
そこに、ギルド本部受付のラスカ達がやってきた。
「皆さんもここでお食事ですか?」
クオウ達の隣の席、確かに予約席とボードが置いてある。
恐らくラスカ達が予約したのだろう。
ここでクオウはこっそりとシアと相談する。フレナブルは聞いているだけだ。
「マスター、これはチャンスですね。ギルド本部と仲良くしていて損は一切ありません。資金も潤沢ですし、ここは【癒しの雫】の記念パーティーという事で、あちらの費用も俺達が支払い、共に友好を深めてはどうですか?」
「流石はクオウ様です。その英知、感動するばかりです」
「えっと、その。ハイ。でも支払い、大丈夫ですよね?」
フレナブルは一も二もなくクオウを称賛し、シアは、否定はしないが相変わらずお金の心配をしている。
「大丈夫です。そうですね、マスターですから資金については当然把握しておかなくてはならないでしょうからお伝えしますが、詳細は帰ってからですね」
こうして仲間内での相談を終えたクオウは、席を立ってラスカと交渉する。
と言ってもラスカ達にしてみれば不利益になる事は一切ないので、恐縮しながらもクオウ達の提案を受け入れた。
ラスカ自身が【癒しの雫】の報酬査定を行っており、懐具合を知っていたと言う所も大きいだろう。
こうしてほろ酔いの受付達と楽しい会が開催された。
「本当にありがとうございます。でも、シアちゃん良かったね!私達、心配していたのよ。これからも頑張ってね!」
「そうそう。お姉さんたち、張り切って応援しちゃうんだから!」
と、シアの心配をしていた受付達は語りだし、シアも優しさに触れて恥ずかしそうにしつつも嬉しそうにしている。
そして【勇者の館】の担当であるミバスロアは、今日の出来事を守秘義務に抵触しない範囲内でクオウに説明していた。
「クオウさん、明日には噂になっているでしょうが、【勇者の館】ギルドマスターのルーカス様が今日態々素材を納品しに来たのですよ。どう見てもクオウさん達の事を聞きに来たついでですね」
「そうですか。う~ん。俺は【勇者の館】にはもう何も思う所は無いのですがね。余計なトラブルは起こしてほしくないな~。俺は仕事が楽しくできればそれで良いのですけどね」
想定していない参加者が増えたが、こうして【癒しの雫】懇親会は楽しく終了した。
中には、少々酔った受付がクオウに恋人がいるかを聞いてフレナブルが多少殺気を漏らしたりと言う事件があったのだが、全員が楽しく過ごす事が出来ていた。
店の外で間もなく解散と言う所で、クオウは一応明日の予定を担当受付であるラスカに告げる。
「俺達は、明日の納品はしない予定です。ですが、あの二回の納品でギルドランクはFではなくなるはずですよね?」
「はい。その予定です。あの納品は未だかつてない程の状態で、しかも二日連続ですから、Dランクには行けると思います。今後ともよろしくお願いしますね」
一つ飛んで、ランクDのギルドになる可能性が高い事を教えて貰ったクオウ達。
シアも、両親がいた頃のギルドランクはDであったため、漸く原点に戻れると喜んでいたのだが、帰り道で緊張の糸が切れたのか少々フラフラしている。
「フフフ、ギルドマスターと言ってもまだ小さい子供ですからね。こんな体で今迄必死に頑張ってきたのでしょう。私が運びますね、クオウ様」
フレナブルはやはり相当シアを気に入っているのだろう。
自らクオウ以外の存在に積極的に関わる事が無かったので、クオウからしてみれば喜ばしい大きな変化だ。
既に眠気に襲われて朦朧としているシアは、いつの間にかフレナブルに抱きかかえられている状態になって眠ってしまっていた。
「これからも【癒しの雫】の発展のために頼んだぞ、Bランク冒険者フレナブル」
「はいっ。お任せください、クオウ様!」
翌日の昼頃にようやく起きてきたシアに対し、約束通りに【癒しの雫】にある資金の話をしたクオウ。
かつてない程の資金があると言われ、中々理解する事が出来なかったシアだった。
一方の受付は、クオウ達の人当たり、そして気っ風の良さ、更にはシアの頑張りに感動して評判は鰻登りになっており、真逆の姿勢の【勇者の館】の評判は下がっていった。
既に懐は十分に潤った【癒しの雫】は、せっかくなので懇親会を行う事にした。
「ハハハ、マスター。何キョロキョロしているんですか?大丈夫ですよ。何も怪しい所ではないですから、しっかりして下さい!」
「ウフフフ、シア様。クオウ様の仰る通りですよ。でも、そんな所も可愛らしいですね。今日は美味しいお料理をたくさん食べましょうね」
庶民達からすれば相当贅沢に感じる店に入るクオウ達だが、【癒しの雫】ギルドマスターのシアにしてみれば、今迄一日大銅貨二枚(2千円)程度が総収入であり、そこから食費を捻出した上で、ギルドの年会費、何れ来ると信じていた冒険者への報酬を貯蓄していたので、このような店に来た事が無いのだ。
結果、少々オドオドしてしまっているのだが、その姿を見たクオウとフレナブルは暖かい目でシアを見つつ、おどけながら席に着く。
このやり取りから、フレナブルもシアの事を認めたと判断したクオウは、これからの【癒しの雫】で楽しく仕事ができると嬉しくなっていた。
「えっと、クオウさん。その……こんな所にきて、だ、大丈夫なのでしょうか?私、私達、お金、有りますか?そうだ!フレナブルさんの報酬、どうなっていますか?」
席に着いた後でも未だ挙動不審のシアだが、その状態でも登録冒険者の報酬の心配ができるあたり、かなり好感が持てる。
「マスター、大丈夫ですよ。正直に言ってマスターだけが贅沢に一生過ごしても余る程、今の【癒しの雫】には資金がありますから」
「ほ、本当ですか?でも、それってフレナブルさんが一人で得た物ですよね……」
「シア様。私もギルドの事をクオウ様から教わりました。冒険者は個人で魔獣の売買は出来ないのですよ。その素材が悪用されたりする事を防止したり、冒険者の管理をギルド本部で行うための資金の提供、色々な意味でギルドを通す必要があるのです。ですから、そのギルドマスターであるシア様の成果でもあるのですよ」
「フレナブルの言う通りです。さっ、マスター!せっかくだから楽しみましょうよ!」
僅か数日の付き合いだが、クオウとフレナブルはすっかりシアの事を気に入ってしまっていた。
その結果、クオウはもとより、何故か冒険者登録をしているフレナブルもギルドの二階居住区にシアと共に住んでいたりする。
いや、フレナブルに関して言えば、クオウに引っ付いていたいだけなのだが……
シアも今迄一人で寂しく生活していた所に、賑やかで優しい兄と姉とも言える存在が増えたので、徐々に幸せを感じ始めていた。
「じゃあ、ここはこの俺、事務職のクオウが代表して……【癒しの雫】更なる発展を祈念して、乾杯!!」
「「乾杯!」」
クオウとフレナブルは高級な酒を、シアは果実をすり潰したジュースを飲んでいる中で豪華な食事が机に並び、シアの目はキラキラ光る。
「フフ、シア様。早速いただきましょう!」
フレナブルの優しい声で、シアも嬉しそうに食事を頬張り始めた。
「あっ、【癒しの雫】の皆さん!」
そこに、ギルド本部受付のラスカ達がやってきた。
「皆さんもここでお食事ですか?」
クオウ達の隣の席、確かに予約席とボードが置いてある。
恐らくラスカ達が予約したのだろう。
ここでクオウはこっそりとシアと相談する。フレナブルは聞いているだけだ。
「マスター、これはチャンスですね。ギルド本部と仲良くしていて損は一切ありません。資金も潤沢ですし、ここは【癒しの雫】の記念パーティーという事で、あちらの費用も俺達が支払い、共に友好を深めてはどうですか?」
「流石はクオウ様です。その英知、感動するばかりです」
「えっと、その。ハイ。でも支払い、大丈夫ですよね?」
フレナブルは一も二もなくクオウを称賛し、シアは、否定はしないが相変わらずお金の心配をしている。
「大丈夫です。そうですね、マスターですから資金については当然把握しておかなくてはならないでしょうからお伝えしますが、詳細は帰ってからですね」
こうして仲間内での相談を終えたクオウは、席を立ってラスカと交渉する。
と言ってもラスカ達にしてみれば不利益になる事は一切ないので、恐縮しながらもクオウ達の提案を受け入れた。
ラスカ自身が【癒しの雫】の報酬査定を行っており、懐具合を知っていたと言う所も大きいだろう。
こうしてほろ酔いの受付達と楽しい会が開催された。
「本当にありがとうございます。でも、シアちゃん良かったね!私達、心配していたのよ。これからも頑張ってね!」
「そうそう。お姉さんたち、張り切って応援しちゃうんだから!」
と、シアの心配をしていた受付達は語りだし、シアも優しさに触れて恥ずかしそうにしつつも嬉しそうにしている。
そして【勇者の館】の担当であるミバスロアは、今日の出来事を守秘義務に抵触しない範囲内でクオウに説明していた。
「クオウさん、明日には噂になっているでしょうが、【勇者の館】ギルドマスターのルーカス様が今日態々素材を納品しに来たのですよ。どう見てもクオウさん達の事を聞きに来たついでですね」
「そうですか。う~ん。俺は【勇者の館】にはもう何も思う所は無いのですがね。余計なトラブルは起こしてほしくないな~。俺は仕事が楽しくできればそれで良いのですけどね」
想定していない参加者が増えたが、こうして【癒しの雫】懇親会は楽しく終了した。
中には、少々酔った受付がクオウに恋人がいるかを聞いてフレナブルが多少殺気を漏らしたりと言う事件があったのだが、全員が楽しく過ごす事が出来ていた。
店の外で間もなく解散と言う所で、クオウは一応明日の予定を担当受付であるラスカに告げる。
「俺達は、明日の納品はしない予定です。ですが、あの二回の納品でギルドランクはFではなくなるはずですよね?」
「はい。その予定です。あの納品は未だかつてない程の状態で、しかも二日連続ですから、Dランクには行けると思います。今後ともよろしくお願いしますね」
一つ飛んで、ランクDのギルドになる可能性が高い事を教えて貰ったクオウ達。
シアも、両親がいた頃のギルドランクはDであったため、漸く原点に戻れると喜んでいたのだが、帰り道で緊張の糸が切れたのか少々フラフラしている。
「フフフ、ギルドマスターと言ってもまだ小さい子供ですからね。こんな体で今迄必死に頑張ってきたのでしょう。私が運びますね、クオウ様」
フレナブルはやはり相当シアを気に入っているのだろう。
自らクオウ以外の存在に積極的に関わる事が無かったので、クオウからしてみれば喜ばしい大きな変化だ。
既に眠気に襲われて朦朧としているシアは、いつの間にかフレナブルに抱きかかえられている状態になって眠ってしまっていた。
「これからも【癒しの雫】の発展のために頼んだぞ、Bランク冒険者フレナブル」
「はいっ。お任せください、クオウ様!」
翌日の昼頃にようやく起きてきたシアに対し、約束通りに【癒しの雫】にある資金の話をしたクオウ。
かつてない程の資金があると言われ、中々理解する事が出来なかったシアだった。
一方の受付は、クオウ達の人当たり、そして気っ風の良さ、更にはシアの頑張りに感動して評判は鰻登りになっており、真逆の姿勢の【勇者の館】の評判は下がっていった。
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