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魔獣…

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 未だに大きさや状態に難ありの魔獣納品場所でブツブツ言っている【勇者の館】ギルドマスターであるルーカス。

 Sランクと言う破格の地位を持つルーカスも流石にあの状態のAランクの魔獣には少々驚かされたのだが、何故かそれよりもフレナブルがクオウにべったりくっついている方に意識が向いてしまっていた。

 そこに、クオウを対応していた受付であるラスカから聞いたのだろう、休憩中であった【勇者の館】受付担当のミバスロアがやってきた。

「ルーカス様、如何致しましたでしょうか?」
「ん?あぁ、君か。なんでもない。だが、あのクオウがAランクの魔獣を奇麗な状態で持ってきたのを見たのでね。あれ程の戦力があるのであれば、新魔王ゴクドの対応まで進めていない我らの助力になるかもしれないと思ったのさ」

 心にもない事を言ってのけるルーカス。
 実際にギルドとして請け負っている依頼は、新魔王ゴクドの対応と、活性化した魔獣の対応だ。

 後者に手いっぱいで、新魔王ゴクドの居城どころか、支配領域にすら進めていない現状に苛立っていた。

「そうだ。何故あいつらは活性化している魔獣、それもAランクをあれ程の状態で手に入れる事が出来たのだ?」

 漸くクオウ達【癒しの雫】の今回の納品が異常な事であると気が付いたルーカス。

 正直、Sランクの自分だけではあの状態の納品は不可能。
 ギルド所属のAランク多数と共に対応すればひょっとして……と言うレベルなのだ。

 だが、ギルド本部としてはそのような事は一切関係なく、依頼を達成するか、素材をいかに良い状態で納品するかが評価対象になるので、ルーカスの呟きは無視されている。

 これが冒険者の仲間を囮にしたり、盗賊紛いの事をしたりすれば本部も即座に対応するが、今回の納品において怪しい噂や情報が一切なかったのだ。

 流石のルーカスも、これ以上ここで何かが出来る事は無いとは理解できるので、取り繕うように受付に一声かけるとこの場を後にした。

「こうなったら、あいつらの素行を調査するか?いや、しかしそのような余裕は正直言ってない。魔獣の対応すら疎かになれば、【勇者の館】の信頼に傷がつく。それだけは認められないからな」

 辛うじて冒険者ギルドマスターとしての矜持は持っていたルーカス。

 この時点でできる事は無いが、クオウとフレナブルの関係、そしてあの異常な魔獣をどのようにして手に入れたのかを知るチャンスをうかがう事にした。

「そもそも、あれ程の魔獣だ。相当な金額を得ただろう。すると、暫くはあの潰れそうなギルドの立て直しに奔走するはず。単純に考えて再度素材入手に動くのは……最短でも一週間後くらいか?ギルド本部の信頼があれば、ギルド本部からの依頼を把握すれば行動が分かるのだが……」

 【癒しの雫】は今回の納品で非常に好印象を得ているのだが、残念ながら今までが最悪であったために、ギルド本部からの依頼を受けるまでには至っていない。
 ギルド本部の依頼であれば、納期が分かるために素行調査もし易かったのだが、こればかりは仕方がないのだ。

 その結果、ルーカスはSランクを持つ自分の実力基準で今後の動きを考える。
 こうすれば、それ以下のランクの者達の行動を安全側に予想できるからだ。

 つまり……【癒しの雫】唯一の冒険者はフレナブル。Bランクだ。
 その事を踏まえると、普通であれば一月以上の期間が開くはずとは思っているのだが、そこは長年の経験から決して油断した予測ではなく、一週間とした。

 その予測、前提が大きく間違っている事に気が付いてはいない。

 そもそもフレナブルは最強魔王であるクオウの配下である四星の一人であり、序列は三席であるのだが、実はこの序列を決める戦闘時にも全く本気を出していなかった。

 下らない戦闘で序列を決めるよりも、どうやってクオウの傍に居続けられるかに意識を大きく削いでいたからだ。

 それでいて三席になっている程の実力者が、人族で言う所のBランクである訳がなく、そもそもSランクすら突き抜けている実力の持ち主なのだ。

 その主であるクオウの実力は言うまでもない。

 そして翌日……
 気分を一新するために、自分自身も魔獣の討伐に向かった【勇者の館】ギルドマスターのルーカスをよそに、既に異空間に収納済みであったAランクの魔獣を納品するクオウ。

 今回はギルドマスターの顔見せも終わっている為、事務職である自分だけが本部に向かっている。
 一人であっても人外の力を持っているので、荷台を引く事に全く問題はないし、早くもこのギルドでの活動が楽しくて仕方がないので、一切苦にならなかった。

 再び本部に訪れ、受付にいるラスカに声を掛ける。

「ラスカさん、昨日と同じ魔獣を同じ状態で納品させて頂きたいのですが、宜しいですか?」
「え?あの素晴らしい状態で、ですか?わかりました。裏でお待ちしております」

 流石の受付も、少々驚きを隠す事が出来なかったようだが、嬉しそうにボードを持って裏に向かって行った。彼女達受付は鑑定が出来るのだが、やはりボードを重宝している。

 そもそも昨日納品された魔獣、どこにも傷がないので解体も容易で、当然そこから得られる素材としての価値も超一級品。

 その素材を各ギルド、商人からの要望に応じて既に納品しているのだが、予想以上の高性能を得る事が出来る素材として、この超短時間のうちに次回の予約が殺到している。

 受付としては嬉しい限りなのだが、あれ程の素材が次にいつ入荷できるかなどは分からないので、その旨を強く伝えた上で、予約を受け付けていた。

 そこに、少しも待っていない状態で待望の?素材があると言うのだから、態度に出てしまうのも仕方がない事だろう。

 周囲の受付からの羨望の眼差しをよそに、さっさと裏手に向かったラスカ。

「お待たせしました~!今日も宜しくお願いします」

 ギルドに昨日と全く同じ状態、極上の魔獣を載せた荷台を引いてクオウが入ってくる。
 既に解体士の間でも持ちきりの話題になっているので、今いる解体士が作業を止めてまで集まってきた。

「おい、兄ちゃん。昨日もこの状態で納品したよな?」
「スゲーな。解体がしやすいのなんの。それに、素材も超一級品。仕事は早く終わるし、実入りも良いし、助かるぜ!」
「俺はこの仕事は長げーが、あれ程の逸材は一度も見た事がねーぞ。どうやって仕留めたんだ!」

 かなり食い気味で押し寄せてきている解体士を、受付のラスカが大袈裟に手を叩いて制した。

…パンパン…

「はいはい、皆さん仕事に戻ってください。気持ちは分かりますけど、そもそも討伐方法は冒険者の秘匿事項ですよ!善意で教えてくれる方もいますが、余計な事を聞いて二度と納品してくれなくなったらどうするのですか?」

 その一言で、蜘蛛の子を散らすように作業に戻っていく解体士達。

「フフフ、申し訳ありませんでした。皆さん嬉しくて、気になってしまったのです。私もですが……今後ともごひいきにお願いしますね」

 そう言いつつも、しっかり魔獣を査定しているラスカに改めて感心するクオウ。

「本当に昨日と同じ状態ですね。ですが、得られた素材の評判が良い事から、もう少し色を付ける事が出来ます。これでいかがでしょうか?」

 こうして二日目の納品も無事に終わったのだが、ルーカスがその情報を聞いたのは魔獣討伐後に本部がギルドに来た夕方で、自分の予想が大きく外れた事を初めて知ったのだ。
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