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クオウ、拾われる?

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 人族にとっては信じられない程過酷な環境ではあるが、クオウとしては楽しい事務処理が出来る良い職場だったのだが、処理しきれない程の量になっていたのは事実で、その状況を改善すべく総責任者であるギルドマスターのルーカスに真剣に進言しているつもりだった。

 その結果は長らく放置され、その後新魔王の存在が明らかになった事による急激な仕事量の増加となった。

 最早自分一人では完全にこなせないと判断して、最後のお願いのつもりで再度ルーカスのもとを訪ねたのだが、その結果はクビだった。

 クオウとしてはかなり頑張ったつもりだったのが、一切認められていない事を突きつけられて、クビを受け入れた。

 クオウは事務処理に誇りを持っており、与えられた仕事がこなせない事が許せなかったのだが、許容量を遥かに超えた仕事が来てしまい、その対処がなされないと分かった時点で【勇者の館】で作業をし続ける気力がなくなってしまった事もある。

「わかりました。お世話になりました」
「さっさと行け!」

 あっさりと引き下がり、そのまま【勇者の館】を出て行く。
 こうなると既に【勇者の館】に対する想いはきれいさっぱり無くなり、振り返りすらしなかった。

 この辺りが魔族と人族の違いだろうか?
 人族と違って、無職になったこの瞬間でも切羽詰まらないのにはもう一つ大きな理由がある。

 生活をするためのお金はある程度持っている上、緊急時の収入源として、元<魔王>としての力を振るって如何様にでも稼げるからだ。

「う~ん、どうするか。一応貯金はあるから衣食住には困らないし、本当に困ったら適当な素材を納品すればいいしね。でもやっぱり事務処理がしたいんだよね。あの達成感、病みつきになるよな~」

 適当に街中をテクテク歩いて一人呟くクオウ。

 活性化した魔獣に対応する為か、町の中の冒険者は今まで以上に多くなり、それに伴い町は活気づいている。

「とは言っても、無職って言うのもね」

 適当に出店で食事を買って、口にしながら周辺を散策するクオウ。
 今までは忙しすぎてギルドから出る事が殆ど無かったので、丁度良い機会と考えて散策している。

 クオウの目には、道の左右に多数のギルドが乱立しているのが目に入っている。

 今までも相当数のギルドが存在していたが、新魔王に対抗するために更に増加していたのだ。

「どの建屋も、やっぱり【勇者の館】よりは劣るんだよな~」

 呑気に呟きつつも、城下町の外れに向かって進んでいるクオウ。

 歩を進める毎に建屋のレベルは下がっており、やがて普通の一軒家もぽつぽつと見え始める場所に差し掛かった。

 そこには、正に少々古めの一軒家を改造しただけのギルドが存在していたのだ。
 流石にギルドとしてここまで貧相なのは如何なものか?と思ったのだが逆に興味を惹かれ、少々中を覗くクオウ。

 もちろん冒険者がいるわけもなく、依頼が張られるボードにはどのギルドでもある最低ランクの仕事、掃除やら家畜の世話やらが張られている。

 薬草採取もあるにはあるが、相当塩漬けになっているのか紙が変色している。

「あの……冒険者の方ですか?」

 クオウがボードを眺めていると、一人の少女がオズオズと話しかけてきた。

 どう考えてもこのギルドの関係者だという事は分かるので、変に期待を持たせないように正直に話す。

「いいえ、ただこのギルドに興味があっただけですよ」

 クオウとしては本当に正直に話したのだが、何が嬉しいのか少女は笑顔になっており、身の上を話し始めた。

「そうですか。興味を持っていただきありがとうございます。私、このギルドマスターのシアって言います。お父さんとお母さんが始めたギルドを引き継いでいます!」

 久しぶりの来客なのか、嬉しそうに話すシアを止めるのも忍びなくなったクオウは、黙って話を聞いていた。

 結果……このギルドの惨状は、自分がその原因の一部である可能性が高い事が判明してしまったのだ。

 今までは少ないながらも冒険者がこのギルドの所属となって活動していたのだが、巨大組織となった【勇者の館】に優秀な人材は引き抜かれ、難易度の高い依頼を受ける事が出来なくなった。

 そうなると、残った冒険者達は自らの活躍、そして戦力増強の実戦のチャンスが激減するので、同じくギルドを離れて行く。
 暫くは数人が残ってくれていたのだが、依頼のレベルは下がる一方でやがて全員いなくなった……と。

「でも、私の力が足りなかったので仕方がないですよね。今は何とか私が依頼を受けて、このギルドを運営しているんです。あの……お兄さんも、簡単な依頼がありましたら是非当ギルドへお願いします。誠心誠意、対応させて頂きますね!」

 悲観するような感じではなく、明るくこう告げるギルドマスターであるシアを不思議そうに見る元魔王のクオウ。

 魔族にも、【勇者の館】に務めていた時に接触した人族にも、このような性格の者はいなかったからだ。

 個人的に興味がわき、自らの身の上も正直に話した。

 恐らく、【勇者の館】への冒険者加入増の一端を担ったのは自分である事。
 事務処理が全て滞りなく行われてしまったが故、本来は許容以上の人材まで受け入れられる事ができてしまい、更には利益まで叩き出せていたのだ。

 クオウは、このギルドの惨状の一端を担った可能性があると正直に告げたのだが、目の前の少女のシアはクオウの事務処理能力について賛辞を贈るだけだった。

 ここまでのお人好しと触れ合った事が無いクオウ。
 何故か初めて事務処理を行った時の達成感と似た様な不思議な感情に襲われた。

 と同時に、どうせ定職がないのならば、目の前の稀有な存在であるギルドマスターと共にこのギルドを盛り立てるための事務処理も面白いかもと思ったのだ。

「で、シア。君の両親は旅行にでも出ているのかな?」

 シアの明るい雰囲気に引っ張られ、自らの身の上……元魔王という事は流石に伏せているが、そこまで話してしまったクオウは軽い気持ちでこの一言を告げてしまったのだが、地雷であったと深く後悔した。

 一瞬で目の前のシアの表情が曇り、口をキュっと結んでいたのだ。
 恐らく既にいないであろう二人。

 冷静に考えれば、二人が存在するのであればこのような少女にギルドマスターとしての役目を引き継がせるわけはないのだ。

「……ゴメン」
「良いんです。私は、両親が遺してくれたこのギルドを守る事で、二人に恩返しをしたいと思っています。フフフ、まだまだ道半ばですけど」

 少々無理に作ったような笑顔を見てクオウは決心した。
 元魔王らしからぬ思いだが、このギルドを必ず一流にする……と。
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