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クオウの日常
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既に深夜になっているが、国内唯一のSランクギルド【勇者の館】ではクオウが一人残って事務作業を行っていた。
「ふぁ~あ。今日も今日とてギルドに泊まりですかねっと」
それ程辛くなさそうなクオウが、目の前に積みあがっている書類の山を見上げながら軽く伸びをしている。
ギルドマスターであるルーカスには数か月ほど泊まりで仕事をし続けていると伝えていたのだが、全てを詳しく説明していたわけではない。
実際に数か月宿泊しているのは事実だが、一切睡眠を取っていないのだ。
この事実を伝えてしまうと、人族ではないとバレてしまうために秘匿している。
このクオウは魔族であり、人族と全く同じ外観をしているのだが、内包する魔力、そして体力も基本的に大きく異なっている。
とは言っても、数か月一切の睡眠なしで連続して活動できるほどの力を有する魔族も限られてくる。
最高戦力レベルの人材でなければ、これ程の体力は持ち得ないのだ。
「まったく。好きな仕事だから文句はないけど、ちょっとやりすぎじゃないかな……流石の俺も、これ以上だと処理しきれないな」
ぶつぶつ言いながらもその手は超高速で動いており、書類の山はみるみる減っている。
夜のうちに書類の山を始末しておかないと、翌日の朝には同じ量かそれ以上の大量の書類がやってくるのだ。
日中は書類仕事だけではなく所属員に対しての各種調整を行う必要もあるので、今のうちに書類を無くす必要がある。
超高速で処理されている書類だが、全て適切に処理されており、時折書類上の細かいミスすらも指摘・コメントしている程の丁寧さだ。
「あ~あ、早く同僚ができないかな。事務は楽しいけど、一人って言うのはね。やっぱり寂しいからね」
そう言って、一応仲間がいた頃の自分を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「魔王様。<勇者>などとふざけた事を宣言している男、名前はルーカスと言う人族一行が攻めて来ました。確かに実力は人族としては優秀で、現在四星第四席のレゼニアに対応させております」
机の上の書類とにらめっこしている魔王に、魔王直属の最強戦力である四星と呼ばれている内の一人、四星筆頭のゴクドが告げる。
この魔王、過去は向かうところ敵なし、正に最強最悪の魔王と恐れられていた存在であったが、ある日突然戦闘に関する全ての活動を止めて、何故か書類仕事に専念する様になったのだ。
その分、外敵対応については四星筆頭であるゴクドが代行する事になっていた。
そのゴクドが慌てて執務室に飛び込んで来るほどなので、余程の強敵なのだろうと魔王は重い腰を上げる。
「それで、そのルーカスとか言う男。いや、男達の戦況は?レゼニアであれば問題ないのではないか?」
「それがそうでもないのです。レゼニアの動きにはキレがなく、あの人族共が能力低下の術を使っているのかもしれません」
魔王が知っている四星の一星であるレゼニア。
常に優柔不断で何を考えているかは分からないような男だが、戦闘ともなれば例え強大な力を持つ者が相手だとしても、同じ四星や魔王である自分以外に負けるような男ではなかったはずだと思いつつ、今回の敵はそれほど強大なのかと心躍っていた。
戦闘に対して心を躍らせていたのではなく、故意に負ける事により魔王の任を無事に終える事が出来る事に歓喜していたのだ。
この魔王、余りにも強すぎたために戦闘も楽しくなく、結果的に自ら敵を作るような行動をしてこなかったので、攻めて来る相手だけを始末する防衛に徹していた。
そんな日常、無駄な争いを好まずにのんびりと過ごしていた中で、散歩中に一人の魔族が紙面を前にして唸っているのを見つけた。
何の気なしに覗くと、どうやら事務仕事で悩んでいるようなのだが、最強魔王に喧嘩を売る者はいなかった為に、当時とても暇だった魔王はこの魔族の手助けをした。
魔王の力なのかは不明だが、その仕事は上手く行き、有り得ない達成感に包まれた魔王。
自分の本職は断じて戦闘などではなく、事務仕事であると思い立ったのだ。
これ以降、全ての防衛作業をゴクドに任せて事務仕事に没頭する事になった。
そして思ったのだ。
こんな血なまぐさい魔王国にいるよりも、好きな事務仕事が出来る環境に生活の場を移したい……と。
しかしそんなチャンスは中々やってこない。
最強魔王の存在がこの魔王国を安定させているのは事実なので、自ら離脱するわけには行かなかったのだ。
中途半端に責任感がある魔王だが、実は魔族にはあまり好かれていない。いや、嫌われている。
なぜならば、魔族の本懐は破壊、侵略、攻撃だからであって、魔王の方針とは真逆だったのだ。
その筆頭が、何故か腹心でもある四星筆頭のゴクドであり、常に魔王の寝首を搔こうと暗躍しており、実力も相当上昇していた。
全てを把握している魔王はそんなゴクドを相手にはしていなかったのだが、あれだけの戦闘能力があれば自分がいなくなっても問題ないのではないかと思い始めていた。
だが、魔王を止めると宣言しても無駄にプライドの高いゴクドは施しを受けたと思い、その後の魔王の活動に悪い影響を及ぼす可能性が高かった。
そこに、突然の<勇者>ルーカス一行の乱入。
このチャンスを利用するべきだと思い、ゴクドに案内されるまま四星の一人であるレゼニアが対応していると言う場所に到着する。
たしかにゴクドの言う通りレゼニアは本来の動きではないようで、<勇者>ルーカス一行に翻弄されており、既に敗北寸前の状況にまで追い込まれている。
一先ず部下を救出しようとしたのだが、レゼニアの能力を抑制している術の波動が傍にいるゴクドの物と一致している事に気が付いた。
魔王として相当な能力を持っているからこそ判別できるのであり、他の誰にも判別する事は出来ないだろう。
魔王はいつもの通りゴクドの裏工作であると判断し、直接レゼニアを救出するよりも<勇者>側を迎撃する方が良いと判断した。
もちろんここで明るい未来のために負ける必要がある魔王なのだが、その後はゴクドが対処してレゼニアを救出するだろうと判断したのだ。
四星や<勇者>一行にも気が付かれないように精巧な分身体を作成して、本体はこの場をさっさと離脱する。
魔王本体は喜びのあまり勢いよく移動して既に魔王国を出国しているのだが、足取りは軽やかでまるでスキップしているかのようだ。
残された分身体。見かけは派手な魔法攻撃を放っているが、中身は張りぼて。
それでも<勇者>一行と善戦してしまうのだから相当な強さではあるが、この善戦がゴクド達に分身体であるとは思われなかったと言う幸運もあった。
「やったぜ、これで俺達の勝利だ!」
「まさか……魔王様が破れるとは……」
本心から喜んでいる<勇者>一行と、表面だけ悔しがってはいるのだが、権力を難なく引き継げたと内心喜んでいるゴクド。
最早この場には用はないとばかりに、弱体化させたレゼニアと共に魔王城に転移した。
「ふぁ~あ。今日も今日とてギルドに泊まりですかねっと」
それ程辛くなさそうなクオウが、目の前に積みあがっている書類の山を見上げながら軽く伸びをしている。
ギルドマスターであるルーカスには数か月ほど泊まりで仕事をし続けていると伝えていたのだが、全てを詳しく説明していたわけではない。
実際に数か月宿泊しているのは事実だが、一切睡眠を取っていないのだ。
この事実を伝えてしまうと、人族ではないとバレてしまうために秘匿している。
このクオウは魔族であり、人族と全く同じ外観をしているのだが、内包する魔力、そして体力も基本的に大きく異なっている。
とは言っても、数か月一切の睡眠なしで連続して活動できるほどの力を有する魔族も限られてくる。
最高戦力レベルの人材でなければ、これ程の体力は持ち得ないのだ。
「まったく。好きな仕事だから文句はないけど、ちょっとやりすぎじゃないかな……流石の俺も、これ以上だと処理しきれないな」
ぶつぶつ言いながらもその手は超高速で動いており、書類の山はみるみる減っている。
夜のうちに書類の山を始末しておかないと、翌日の朝には同じ量かそれ以上の大量の書類がやってくるのだ。
日中は書類仕事だけではなく所属員に対しての各種調整を行う必要もあるので、今のうちに書類を無くす必要がある。
超高速で処理されている書類だが、全て適切に処理されており、時折書類上の細かいミスすらも指摘・コメントしている程の丁寧さだ。
「あ~あ、早く同僚ができないかな。事務は楽しいけど、一人って言うのはね。やっぱり寂しいからね」
そう言って、一応仲間がいた頃の自分を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「魔王様。<勇者>などとふざけた事を宣言している男、名前はルーカスと言う人族一行が攻めて来ました。確かに実力は人族としては優秀で、現在四星第四席のレゼニアに対応させております」
机の上の書類とにらめっこしている魔王に、魔王直属の最強戦力である四星と呼ばれている内の一人、四星筆頭のゴクドが告げる。
この魔王、過去は向かうところ敵なし、正に最強最悪の魔王と恐れられていた存在であったが、ある日突然戦闘に関する全ての活動を止めて、何故か書類仕事に専念する様になったのだ。
その分、外敵対応については四星筆頭であるゴクドが代行する事になっていた。
そのゴクドが慌てて執務室に飛び込んで来るほどなので、余程の強敵なのだろうと魔王は重い腰を上げる。
「それで、そのルーカスとか言う男。いや、男達の戦況は?レゼニアであれば問題ないのではないか?」
「それがそうでもないのです。レゼニアの動きにはキレがなく、あの人族共が能力低下の術を使っているのかもしれません」
魔王が知っている四星の一星であるレゼニア。
常に優柔不断で何を考えているかは分からないような男だが、戦闘ともなれば例え強大な力を持つ者が相手だとしても、同じ四星や魔王である自分以外に負けるような男ではなかったはずだと思いつつ、今回の敵はそれほど強大なのかと心躍っていた。
戦闘に対して心を躍らせていたのではなく、故意に負ける事により魔王の任を無事に終える事が出来る事に歓喜していたのだ。
この魔王、余りにも強すぎたために戦闘も楽しくなく、結果的に自ら敵を作るような行動をしてこなかったので、攻めて来る相手だけを始末する防衛に徹していた。
そんな日常、無駄な争いを好まずにのんびりと過ごしていた中で、散歩中に一人の魔族が紙面を前にして唸っているのを見つけた。
何の気なしに覗くと、どうやら事務仕事で悩んでいるようなのだが、最強魔王に喧嘩を売る者はいなかった為に、当時とても暇だった魔王はこの魔族の手助けをした。
魔王の力なのかは不明だが、その仕事は上手く行き、有り得ない達成感に包まれた魔王。
自分の本職は断じて戦闘などではなく、事務仕事であると思い立ったのだ。
これ以降、全ての防衛作業をゴクドに任せて事務仕事に没頭する事になった。
そして思ったのだ。
こんな血なまぐさい魔王国にいるよりも、好きな事務仕事が出来る環境に生活の場を移したい……と。
しかしそんなチャンスは中々やってこない。
最強魔王の存在がこの魔王国を安定させているのは事実なので、自ら離脱するわけには行かなかったのだ。
中途半端に責任感がある魔王だが、実は魔族にはあまり好かれていない。いや、嫌われている。
なぜならば、魔族の本懐は破壊、侵略、攻撃だからであって、魔王の方針とは真逆だったのだ。
その筆頭が、何故か腹心でもある四星筆頭のゴクドであり、常に魔王の寝首を搔こうと暗躍しており、実力も相当上昇していた。
全てを把握している魔王はそんなゴクドを相手にはしていなかったのだが、あれだけの戦闘能力があれば自分がいなくなっても問題ないのではないかと思い始めていた。
だが、魔王を止めると宣言しても無駄にプライドの高いゴクドは施しを受けたと思い、その後の魔王の活動に悪い影響を及ぼす可能性が高かった。
そこに、突然の<勇者>ルーカス一行の乱入。
このチャンスを利用するべきだと思い、ゴクドに案内されるまま四星の一人であるレゼニアが対応していると言う場所に到着する。
たしかにゴクドの言う通りレゼニアは本来の動きではないようで、<勇者>ルーカス一行に翻弄されており、既に敗北寸前の状況にまで追い込まれている。
一先ず部下を救出しようとしたのだが、レゼニアの能力を抑制している術の波動が傍にいるゴクドの物と一致している事に気が付いた。
魔王として相当な能力を持っているからこそ判別できるのであり、他の誰にも判別する事は出来ないだろう。
魔王はいつもの通りゴクドの裏工作であると判断し、直接レゼニアを救出するよりも<勇者>側を迎撃する方が良いと判断した。
もちろんここで明るい未来のために負ける必要がある魔王なのだが、その後はゴクドが対処してレゼニアを救出するだろうと判断したのだ。
四星や<勇者>一行にも気が付かれないように精巧な分身体を作成して、本体はこの場をさっさと離脱する。
魔王本体は喜びのあまり勢いよく移動して既に魔王国を出国しているのだが、足取りは軽やかでまるでスキップしているかのようだ。
残された分身体。見かけは派手な魔法攻撃を放っているが、中身は張りぼて。
それでも<勇者>一行と善戦してしまうのだから相当な強さではあるが、この善戦がゴクド達に分身体であるとは思われなかったと言う幸運もあった。
「やったぜ、これで俺達の勝利だ!」
「まさか……魔王様が破れるとは……」
本心から喜んでいる<勇者>一行と、表面だけ悔しがってはいるのだが、権力を難なく引き継げたと内心喜んでいるゴクド。
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