上 下
43 / 64

バミアとの再会(2)

しおりを挟む
 四階層に向かう階段で、今迄の戦闘を振り返っているロイエス達。

「クソ。ミハルさんでもこれだけ苦労するのかよ」

「本当にとんでもないダンジョンだったのね、この<水の都>」

「逆にこの先の四階層のお宝が素晴らしいと、期待が持てるのでは?俺は少し楽しみになってきましたよ」

 聞き覚えのある三人の声の後に初めて聞く女の声がしてくるが、これが恐らく<聖女>ミハルの声なのだろうと思っているバミア。

「本当にこれが三階層なのね。この階層でここまで苦労するとは思わなかったわよ。でも、この階段を下りて鉱石を手に入れれば依頼は完了でしょ?もうゴールはそこなのだから、頑張りましょう」

 階段を下りた周辺は安全地帯と言われているので、呑気に会話をしながら四階層に向かっているロイエスパーティー。

 実はミハル、ホノカと同じく実戦からかなり遠ざかっている事や称号<聖女>が示す通りに敵を倒す術に長けている訳ではないので、バミアとそう変わらない戦力にしかなっていなかった。

「おぉ、スゲー!」

 最初に四階層に足を踏み入れたのは、こう言った場面では時折自分勝手に暴走するパーティーリーダーのロイエスだ。

 視界に広がる見た事もない鉱石が広がっているのだから当然と言えば当然で、他のメンバーも鉱石に釘付けになっているのだが、一応経験豊富な勇者パーティーに所属していた<聖女>ミハルだけは、この鉱石に見覚えがあったようだ。

「これは……凄いわね。四階層でここまでの鉱石。今までの魔物の強さが理解できたわ」

「ミハルさん。この鉱石、知っているんですか?」

「ええ。これは、未だに名前は付けられていないのだけれど、薬品の素材、術の触媒、武具の素材、なんにでもなり得る万能鉱石よ」

 丁度足元に転がっていた爪の先程の鉱石を拾ってこう告げる。

「これ一つで……かなり贅沢にこの場の全員が数か月は遊んで暮らせるのではないかしら?」

 その情報に一気に沸き立つロイエスパーティー。

 未踏破層の情報、そしてこの階層にある貴重な鉱石を持ち帰れば全員が称号を得る事は間違いないと思っており、称号を得た際の褒賞の他に、ミハルの情報によればこの鉱石を得る事によって更に大金持ちになれるのだ。

 完全に浮かれているロイエス一行に対して、視界に入らない位置にいた……いや、鉱石に目が眩んで視界に入っていなかったバミアが声を上げる。

 恨みからか、久しぶりに身の危険による恐怖以外の感情によって支配されているバミアは、以前のように口数が少なくなっている。

「お前ら!」

 その声に四人全員気が付き視線を向けると、ロイエス、ロペス、バウサーは一瞬だけ苦い顔をしたのだが、<聖女>ミハルには事実を伝えていない為に喜ぶかの様な声を出す。

 とは言っても相当場数を踏んでいるミハルにとってみればその真実は聞かずとも理解できているので、この程度の修羅場はさざ波程度でしかないのだが……

 バミアは、元は白かった外套や美しい金髪はその面影を一切なくしており、そして何より、恐怖によって痩せこけた顔をしている。

「……バミア!お前生きていたのかよ!」

「良かったじゃないの、バミア!」

「心配したんだぞ」

 一切自分を助ける素振りを見せず、これ幸いとばかりに鉱石を採取して逃げて行ったロイエス達を睨みつけているバミア。

 ロイエスパーティーとしては、囮として見捨てたバミアが生きていたこと自体驚いていたのだが、<聖女>ミハルがいる手前、その表情をおくびにも出さずに対応していた。

「バミア。お前あの窮地を脱して四階層に向かったのか。確かに階層を降りた直後であれば安全だからな。流石じゃねーか」

「信じていましたよ。バミア」

「これでまた、俺達は全ての力が揃ったパーティーになりますね」

 冷静に考えればあの状態から助かる訳がないし、一人で三階層のボスを倒す事等できる訳がない事は分かるのだが、そんな事はお構いなしだ。

 バミアとしてはこの場で全てを破壊してやりたいほどの怒りに襲われているのだが、目の前の者達を長く苦しめる為にグッと堪える。

 そもそもバミア自身も同じような事をしてきた事も有って若干後ろめたい気持ちもあった上、パーティーに再加入しろと言われているので、この場で暴れる事はできない。

 当然今の流れで行けば労せずに再びパーティーに入れる事になりそうな事も有り、一先ずは流れに身を任せる事にした所、<聖女>ミハルがこの場を纏めるかのような言葉を発してくれたのだ。

「あなたが……そうですか。行方不明になっていたのですね。かなり長い間ダンジョンに籠って助けを待ち続けられる精神力。称賛に値します。ではロイエス君達。バミアさんを一刻も早く休ませてあげたいので、鉱石を採取して帰りましょう」

 バミアが見捨てられた事は知っているのに行方不明になっていたと言い切り次の行動を促す<聖女>ミハルは、一先ず目的の物を採取して依頼を達成する事を優先したに他ならない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...