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ロイエスパーティー(7)

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 突然転移させられたバミアとしてもどうやってこの場に来たのかは理解できないが、この場、この階層から感じる威圧はついさっきまで居た場所とは比較にならない事は肌で感じている。

 威圧だけで立ち上がる事が出来ないのだから……

「ここであなたには上層階を目指していただきます。大サービスで、本来は攻略していない上層階のボスは無効にはならないのですが、今回は本当に特別に無効にしてあげますよ。とは言え、このままではこの場所から少々離れた時点であなたの生命活動は停止させられそうですね」

「ま、待って……下さい。なんで……無効とか」

 まるで理解の範疇に含まれない事を言われてしまい、最早理性を保つだけで限界のバミア。

「これでは精神が先に壊れてしまいそうですね。それでは少々不本意ですから、今だけは威圧を外してあげましょう」

 ミスクの言葉で、階層全体から感じていた威圧が一気に消えるのを理解したバミア。

 ダンジョンマスターである母親のフレイアが、ミスクの意図を酌んで制御しているのだ。

 知らず知らずの内に体中に力が入っていたのか、威圧が抜けた瞬間に座り込んでいるままであった体が後ろに倒れてしまう。

 そんなバミアに、ミスクは非情な現実を告げる。

 無様に天井……と言っても、闇に包まれて天井が見えている訳ではないが、上方を見るような姿勢で倒れ込んでいるバミアに対して、ミスクは容赦なくこれからの事を淡々と告げていく。

「今は本当にサービスで威圧を抜きました。本来はあの威圧ですら加減していたのですが、あなたには厳しそうでしたね。そうそう、あなた達は私やイジス様の前にも荷物持ちとして引き入れた者達をさんざん囮にしていたらしいですね。その方達の無念も、この私が晴らします。良いですか?一度だけしか言いませんよ。今から丁度十分間だけは全ての威圧を外します。この慈悲の時間に少しでも上層階に行けなければ、あなたの命はないでしょうね。ハイ、ではスタート!」

 最早質問は一切受け付けないと言わんばかりに、即座に微笑みながら手を叩くミスク。

 バミアが倒れていようが、混乱の極致にいようが一切関係はない。

 バミアにとっては次から次へと理解できない事ばかりだが、唯一確信できるのは……ミスクの言う通りに一刻も早く上層階に向かわなければ命はないという事だ。

 慌てて体を起こし、ミスクから逃げるように踵を返して方の森に突入していくバミア。

「やはりダメですね。階段はすぐそこにあるのに……」

 自分の背後の森の少々奥に存在する階段を見て微笑むミスクから離れる様に、目的の階段から遠ざかる様にしながらも、必死で上層階に続く階段を探すように動いているバミア。

 普段奇麗にしている白い外套も土まみれになっており、美しいはずの金髪も倒れ込んでいた時に汚れたのか泥に塗れ、奇麗な金色の目も有りえない程に血走っている。

「何故」

「理不尽」

 思わず言葉が漏れているロイエスパーティーの一員であり、最高位の称号の一つである<聖女>を手に入れるのも間もなく……と噂されていたバミア。

 そんな高位な冒険者と言われているバミアの顔は、涙やら鼻水やらで惨い状態のままダンジョン内部の小雨が降りしきる森の中を全力で疾走している。

 ロイエスパーティーに参加したまま実績を積んで労せずに称号を手に入れた後は、冒険者を引退して称号によって手に入る名誉、地位、そして褒賞によって生活して行こうと考えていたのだが、現実は全く異なっている。

 既にロイエスパーティーには裏切られており、恐らくギルドでは死亡届けが提出されているだろう。

 この件に関してはバミアもロイエス一行をただの道具と認識しているのでお互い様ではあるのだが、何故自分だけがと言う思いは捨てきれない。

 そして何故か今の時点で、最終的にロイエスパーティーとして切って捨てた囮のミスクによって危機的状況に追い込まれている。

 どうやってミスクがこのような力を得たのか等は最早関係ない。

 只々この状況を打破するべく、必死で上層階へつながる階段を探している中で、バミアは極限まで混乱しつつもミスクの言葉を思い出す。

 ミスクは、あの時点から十分間は圧を抑えると言っていた。

 その短い間に少しでも上層階に向かって、弱い魔物しか存在しない階層に移動する必要があるのだ。

 ミスクの言葉だけではなく、圧を抑える直前、その圧力だけで腰が抜けて立ち上がれなくなった事実も思い出され、最早半狂乱で動き回るバミア。

 そうは言っても三階層を移動するためにも多大な時間を要しているので、現実的にはこの下層と言われているこの場所において単騎で目的を達成する事は相当厳しいのは分かっているバミア。

 混乱しつつも冷静な部分があるのは、流石は称号待ったなしの冒険者と言える。

 バミアはそもそも今いる場所が下層と言われているだけで、実際には今自分自身が何階層にいるのかも理解できていないのだが、万に一つの可能性に懸けて必死で上層階に移動するべく行動している。

 ミスクは圧を抑えると共にダンジョン内部の魔物もバミアの行動を阻害する事の無いようにしているので、今の所、バミアは何の障害もない状態で安全に探索を続ける事が出来ている。
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